第17話 森へ入る前に


 一時間が経過した。
 アインズとナーベラルは薬草採取の依頼のため、ンフィーレア達と合流した。アーデルハイトとテオドールはアインズ達と別行動を取るつもりだったが、漆黒の剣──中でもルクルットから是非同行して欲しいとの強い希望があったので、彼らについていくこととなった。
 ルクルット曰く、「ナーベちゃんが一番だけどアーデルハイトお姉様の美貌とお別れするのは嫌だから」とのこと。ナーベラルはルクルットに言い寄られて嫌な顔になるが、アーデルハイトの美貌を称えられるとふんと小さく鼻を鳴らす。忠誠を誓う者が褒められると嬉しいらしく、胸を張っている。

 森の入り口で一度足を止めると、アインズ達は最終チェックを行う。

「では、これから森に入るので僕の警護をよろしくお願いします。とはいっても、森に少し入ったところから森の賢王と呼ばれるモンスターの縄張りになるので、他のモンスターの襲撃は低いでしょう」

 依頼主であるンフィーレアが森に入るにあたって注意点を述べる。
 普段どおりなら森の賢王の縄張り内では他のモンスターから襲われる可能性は低い。ただ、森の賢王の縄張り内で昨日オーガが現れたことが気になるという。森で何か異変が起こっているかもしれない、と。
 警戒を怠らないようにしなければ。

「モモンさんがいれば大丈夫と思いますが」

「森の賢王なるモンスターが出現した場合、しんがりは私達が受け持ちましょう。みなさんは先に逃げて下さい」

「儂とテオドールも、モモンと共にしんがりを務めよう」

 モモンのサポートを、とアーデルハイトが名乗り出ると、漆黒の剣は彼女を見つめた。
 アーデルハイトとテオドールは冒険者の証であるプレートを持っていない。ルクルットがしつこくアーデルハイトを誘ったものの、冒険者でないのなら同行させない方が良かったのではないだろうか。そう言いたげな視線を感じたアーデルハイトは、不安にさせないよう堂々とした態度を取る。

「冒険者ではないが、戦闘には慣れておる。案ずるでない」

「アーデルハイトさんもテオドールさんも、プレートはありませんが実力はありそうですよ。そう不安がることはありません」

 モモンが言い添えるとようやく不安を払拭出たようで、リーダーのペテルが頷いた。

「わかりました。私達がンフィーレアさんを守って森の外まで逃げさせて頂きます」

 順調に最終チェックを済ませていくアインズ達に、ンフィーレアが言いにくそうに頼み事を口にする。

「あの……森の賢王は殺さずに追い払って下さいませんか?」

「それは何故?」

「森の賢王がこの辺りを縄張りにしていることで、カルネ村はこれまでモンスターに襲われませんでした。もし倒してしまうと……」

「そいつは無理だろ。いくらモモンさん達が強いからって、伝説の魔獣が相手じゃ全力で戦わねぇとやばいし、そんな余裕──」

「了解しました」

「はぁ!?」

 ルクルットが驚愕の声を発し、他の漆黒の剣のメンバーも驚いてアインズを注視する。

「森の賢王というのは、それほどまでに強いのかのう?」

「うむ。強いのである」

「数百年の時を生きる、蛇の尾を持つ白銀の四足獣と言われています」

 アーデルハイトが初めて聞く名称に首を傾げると、ダインとニニャがうんうんと大きく頷いた。

(キメラの一種かな? 白銀の四足獣って、何だかかっこいい響きだなぁ)

 かつてのユグドラシルには蛇の尾を持つモンスターの鵺がいたことを思い出した。鵺は、猿の顔、狸の胴体、虎の手足、蛇の尾のモンスターだった。その鵺かどうかはわからないが、天使が召喚されたのだから、鵺が伝説の魔獣となって森に棲みついていてもおかしくはない。
 たとえ鵺でなくとも、通り名で威厳のある強そうなイメージがする。これは期待して良いだろう。

 次にンフィーレアは、採集したい薬草について一同に実物を示した。取り出した植物はしなびており、薬草の知識のないアインズにはそこらへんに生えている雑草と同じように見えたが、ドルイドのダインにとっては全く違ったらしく、ングナクの草だと言い当てた。
 ンフィーレアと漆黒の剣は、アインズ達を見つめる。

「モモンさん達、大丈夫ですか?」

「了解していますとも」

 短く返答したアインズだが、一般の植物と薬草の区別がつかないので、本当にわかるわけではない。とりあえずここは知っている前提で話を進めることにした。
 どうやら薬草を使う治癒のポーションで使われることが多く、冒険者の身近にあるものだという。使用頻度が高ければ栽培すればより多く採集出来るが、天然のものだと薬効効果が10%増しになるため、こうして森へ採集しに来たのだ。

 ユグドラシルでの治癒のポーションは、基本的に特定クラスを経た者のみが得られるスキルと込めたい魔法を材料にして作成するものだ。材料は錬金術溶液に特定物質を合成して作っていたが、薬草を使用するとは聞かなかった。
 つまり、この世界のポーションの製法は、ユグドラシルとは違う。ンフィーレアが通常の手段では作れないと言ったのは、こういうところに由来していたのだ。

《アインズさん、魔法はユグドラシルとは同じなのに、ポーションの作り方は違うみたいですね》

《ええ、まるっきり同じではないようですね……そういえばアーデルハイトさんって薬草関連はわかりますか?》

《序盤の頃にドルイドのクラスを取ったので少しは》

 メッセージで会話を交わす二人は、かつてのゲームを思い出す。魔法職なので減少したHPの回復は魔法で行っていた。アインズはアンデッドなので、他のプレイヤーのための回復用として。
 
 この世界のポーションに関する技術を手に入れることが出来れば、ナザリックの強化に繋がるだろうとアインズは確信した。それを手に入れるにはどうすれば良いだろう。

「では、森の中に広場のような場所がありますので、そこを目指します。ルクルットさんに場所をお伝えしましたので案内をお願いします」

 ンフィーレアの声にアインズは思考を中断させた。どうやら話の内容が依頼の本題へと戻ったらしい。


2018/07/22

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