アインズとアーデルハイトが村長から最初に聞いた情報は周辺国家についてだった。
リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国。どれも聞いたことのない国名だ。もちろんユグドラシルの元ネタの北欧神話にも登場しない。
この三国の位置関係は、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国は山脈を挟んだ隣同士で、スレイン法国はその二つの国の南に位置しているという。また、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国は仲が悪く、毎年のように争っているらしい。
まだ他にも国はあるとのことだが、小さな村の村長はそこまで詳しくはなかった。ということは、国力もわからないだろう。
国家について聞いた際、村を襲撃した騎士を村長はバハルス帝国だと言った。けれど、アーデルハイトが騎士に直接聞けばスレイン法国だと答えた。国境が隣接しているのならば、スレイン法国の欺瞞工作かもしれない。だとすれば、帝国側にも何らかの手を打つべきだろう。
《アインズさん、この世界はユグドラシルそのものではなさそうですね》
《ええ……ゲームの魔法がそのまま使えたので、てっきりユグドラシルの常識が通じると思っていましたが……》
メッセージの魔法で、アーデルハイトとアインズは言葉を交わす。
《もし他のプレイヤーが転移していた場合、問題があります》
《問題、ですか?》
アインズが提起すると、アーデルハイトが訊き返した。
《アインズ・ウール・ゴウンは悪のロールプレイをしていました。もちろんPKもやっていたことはご存知ですよね?》
《はい》
PKとはPlayer Killer──つまり、プレイヤーが他プレイヤーを攻撃して倒すこと。PKを嫌う人もいるので、むやみやたらにPKを行うと憎まれるのだ。その憎悪が完全に癒えていない限り、正義や義憤で敵対する場合もあるだろう。アインズ・ウール・ゴウンの名が広がっても安全とは言い切れない。
《他のプレイヤーからの憎しみが消えていなければ、アインズ・ウール・ゴウンの名を耳にして復讐されることも考えられます。それは避けたいので、出来る限り敵対行動は取りたくありません》
《そうですね。この世界についてもわからないことだらけですし、敵対するようなことはしたくないですね》
万が一アインズ・ウール・ゴウンへの恨みで襲撃された場合、対策を練る必要があるだろう。ナザリック地下大墳墓の現在の戦力からすれば、レベル100プレイヤー三十人程度なら一気に殲滅出来る。ワールドアイテムの使用を前提とするならば難攻不落の要塞となる。だが、援軍がない状態の籠城戦は愚の極みだ。
《ただ命をつなぐだけならあれこれ考えなくて楽なんでしょうけど……そうはいきませんね》
アインズが苦笑する。彼の言葉の意味をすぐに理解したアーデルハイトは頷いた。
《元はNPCだったとはいえ、今は意思を持った存在ですし、子供みたいな感覚がするんですよね》
プレイヤーだったアインズとアーデルハイト以外のナザリックの住人は、元はプレイヤーが作ったNPCだ。外見を作られ、設定を書き込まれ、AIを組み込まれ、主人の命令に忠実に従うだけの存在だった。それが意思を持つ一つの個として動き、判断をする存在へと変わった。
そんな変化があっても、アインズやアーデルハイトから見れば子供のようなものだ。彼らが人間へ敵意を向けていても、親にも似た愛情を抱いている。
「どうかされましたか?」
メッセージでやりとりをしているとは知らない村長が、急に静かになった二人を不思議に思って声をかけた。
アインズはすぐに詫びを入れる。
「いえ、何でもありません。想定より少々違っていたようなので取り乱してしまいました。それより、他の話を聞かせて頂けますか?」
「はい、わかりました」
長い間引きこもっていたので、昔と今の情報の差異に困惑していたのだろう。村長はそう思うと、次はモンスターについて話し出した。
この世界でも、ユグドラシルと同じようなモンスターがいるらしい。近くの森には『森の賢王』と呼ばれる魔獣もいるし、エルフやドワーフといった人間種、ゴブリン、オーク、オーガなどの亜人種もいる。そんな亜人達が国家を作っている場合もあるそうだ。
モンスターを報酬次第で退治している冒険者と呼ばれる者も存在しており、マジック・キャスターも多数いるという。大きな都市には冒険者達のギルドが作られている。
また、最寄りの城塞都市エ・ランテルについての情報も貰った。人口などの詳細は知らないが、この辺りでは最も大きな都市らしい。情報を収集するならそこが一番良いだろう、とも。
《アインズさん……こう言うのも悪いですが、小さな村ではあまり詳しいことはわかりませんね》
《ですね……現実世界みたいに、通信手段も発達していないようですし……》
二人は、辺境の小さな村では有益な情報は集まらないことを悟った。都市部に人員を送り込むなりした方が早いだろう。
村長と会話を交わしていて改めて思ったのが言語だ。アインズやアーデルハイトは日本語で喋っているが、村長の口をよく観察すれば日本語の口の動きではなかった。どうやら、相手に伝わるまでに自動的に翻訳がされているらしい。
言語を言語として認識しているのなら、おそらく人間以外の生き物との交流が出来るのではないだろうか。犬や猫といった動物でも。どうしてそんなことが行われているかはわからないが、村長はおかしいとは思ってないようだ。当たり前のことだと受け取っている。
つまり、世界の法則だ。魔法の存在する世界だから、アインズやアーデルハイトのいた元の世界とは全く異なる法則があってもおかしくはない。
村長からの情報収集が一段落した時、扉の向こう側から足音が聞こえてきた。アインズはもちろん、アーデルハイトの耳にもはっきりと聞こえる。村長は足音に気づいていないようだ。どうも人間ではなくなった影響か、聴覚が研ぎ澄まされた感じがする。
近づいてくる足音は、土を踏むかすかな音。間隔は大きいが急いでいる様子はない。男性のものだ。
アインズとアーデルハイトが扉へ顔を向けるとノックの音が響いた。村長がアインズの意向をうかがう。村を救った代価として話をしているのだから、勝手な行動は取れないと思っているのだろう。
「こちらも少しばかり休憩が欲しかったので、出て頂いて構いませんよ」
「申し訳ありません」
軽く頭を下げると、村長は扉を開けた。訪ねてきたのは一人の男性だった。
「村長、お客様とのお話し中すみませんが、葬儀の準備が整ったので……」
男性の言葉に、村長はまたしてもアインズを見やる。
「構いませんとも。私達のことはお気になさらず」
「ありがとうございます。では、すぐに行くと皆に伝えてくれ」
* * *
村はずれの共同墓地で葬儀が始まった。みすぼらしい柵に囲まれたところで、墓石となる丸い石に名前を刻んだものが点在している。その中で村長が鎮魂の言葉を述べている。ユグドラシルでは聞いたことのない神の名を告げ、その魂に安息が訪れるように、と。
全ての遺体を葬るには手が足りないので、まず一部の遺体からとのことだ。その日のうちに埋葬を済ませるというのは随分気の早いものだと思うが、この世界にはアインズやアーデルハイトの知る宗教はないのだから、そういうものだと納得するしかない。
葬儀に参列した村人の中に、アインズが助けた姉妹もいた。残念ながら彼女らの両親は亡くなった。
両親の墓石には、小さな花束が捧げられている。アインズには見覚えがあった。花の種類は異なるが、かつて行われたミニゲームの賞品のプレゼント袋から出るものだ。
「あの花束は……」
村人から離れた場所で葬儀を眺めるアインズが呟いた。隣にはアーデルハイトが立ち、そばにはアルベドとテオドールが控えている。
「エンリとネムが沈んだ顔をしておったからな。笑顔になるようにプレゼント袋を渡したんじゃよ」
アーデルハイトが姉妹のところに戻った時に渡したものだという。両親の安否がわからず不安がっていた姉妹を励ますために花束が出る袋を選んだのだが、亡くなった両親への献花になってしまったことに、アーデルハイトは少し気落ちした。
「二人とも両親に花束を見せたがっていたのじゃが……亡くなった相手に見せる形になってしまうとは、皮肉もいいところじゃ」
「アーデルハイト……」
他意はなくてもこんな結果になったことにアーデルハイトが自嘲すると、アインズが気遣うような視線を送る。
「二人には悪いことをした。親思いの子供じゃ……両親もきっと喜んでおるじゃろうよ」
アインズはローブの下で撫で回すワンドをちらりと見る。象牙で出来たもので先端部分には黄金をかぶせ、握り手にはルーンを彫った神聖な雰囲気のアイテム──蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)だ。
死者復活の魔法が込められたもので、カルネ村の死者全てを蘇らせてもお釣りがくるほどたくさん所持している。
村長から聞いた話には、この世界の魔法には死者を復活させるものはないそうだ。奇跡を起こせるアイテムだが、アインズはワンドをアイテムボックスに入れた。
復活させることは容易いが、そんなことはしない。死者の魂がどうのといった宗教的な理由ではなく、単純に利益がないからだ。死を与えるマジック・キャスターと、死者を蘇らせることが出来るマジック・キャスター。どちらが厄介ごとに巻き込まれるかは想像に難くない。蘇生させたことを他言させない条件をつけても、それが守られる可能性は低い。
死者を復活させる力は、誰もがよだれを垂らすほど欲しがるものだ。状況が変化すれば行使しても良いだろうが、今はまだ情報不足だ。ここですべきことではない、とアインズはそう判断した。
「……村を救ってやったことで満足してもらおう」
そう呟いて、アインズは後ろに立つデス・ナイトへ振り返る。これも疑問の対象だ。ユグドラシルでは特別なもの以外は、召喚されたモンスターには制限時間がある。デス・ナイトの召喚時間は既に過ぎ去っているはずだが、まだ消滅していない。魔法の効果が変わったのだろうか。
アインズのそばに控えているモンスターはデス・ナイトだけでなく、忍者服を着た黒い蜘蛛に似たモンスターもいる。八本足には鋭い刃が生えている。
八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)だ。
周囲を見渡しても、村人達がこちらに注意している様子は見られない。異様な姿をした蜘蛛のモンスターがいれば注目の的だ。けれど、そこまで考えて思い出したのは、エイトエッジ・アサシンは不可視化を行える能力を持っていること。
「エイトエッジ・アサシン? アルベド、これは……?」
「アインズ様とアーデルハイト様にお目どおりがしたいとのことで連れて参りました」
アルベドが答えると、エイトエッジ・アサシンが頭を下げる。
「モモンガ様にアーデルハイト様、ご機嫌麗しく──」
「世辞はいらん。それよりもお前が後詰ということか?」
「はっ。私以下、四百のシモベ達がこの村を襲撃出来るように準備を整えております」
恭しく頭を下げるエイトエッジ・アサシンの言葉に、アーデルハイトが首を傾げ、アインズが納得する。
「……襲撃? どういうことじゃ?」
「なるほど……どうもセバスには伝言ゲームの才はないらしい」
ナザリックを出る直前、カルネ村を助けた際、もしアインズ自身に何かあった時のために、隠密行動や透明化に秀でた者を忍ばせておくようセバスに伝えていた。アインズは攻撃も受けていないし、命の危機にすら至ってもいない。それなのに多くのシモベで襲撃出来る態勢を整えているとは。
「襲撃の必要はない。既に問題は解決済みだ」
アインズはそうエイトエッジ・アサシンに伝えると、指揮している者は誰かと尋ねればアウラとマーレだと答えた。デミウルゴスとシャルティアはナザリック内で警備、コキュートスはナザリック周辺警備に入っているとも答えた。
なるほど、準備は万端らしい。だが、大事に至っていないのに数が多いことを懸念したアインズは、アウラとマーレ以外は撤収するよう命令した。
「それで、お前達エイトエッジ・アサシンは今回何名で来た?」
「総数十五名になります」
「では、お前達もアウラとマーレと同じく待機だ」
アインズとアーデルハイトは、了解の意として頭を下げたエイトエッジ・アサシンから葬儀へと視線を移した。まだ終わる気配はない。アインズは踵を返し、村への道をゆっくりと歩き出した。やや遅れてアーデルハイトが彼と並んで歩き、その後ろをアルベドやテオドール、デス・ナイトが続いた。
* * *
葬儀に中断されつつも、アインズとアーデルハイトが周辺国家やある程度の常識を学んだ頃には結構な時間が経っていた。村長の家から外に出れば、西の空に夕日が沈み始めていた。
これからすべきことを考える。まずは姿を隠して情報が集まるまで隠密行動をすることだろう。だが、カルネ村を救ったことでそれは出来なくなった。村を襲撃した騎士を逃がしたからだ。
仮に騎士を全滅させたとしても、彼らが所属する国は原因を探る。元の世界では科学調査が発達していたように、この世界では別の手段での調査が発達しているかもしれない。
そうでなくても、生き残った村人がいる以上、アインズの元まで調べが辿り着く可能性は高い。情報が漏れないようにするには村人全員をナザリック地下大墳墓へ連れて行くのが確実だが、村が所属する王国側にとっては拉致に当たる。
名乗って騎士を逃がしたのは二つの狙いがあった。
一つは、ナザリック地下大墳墓内に籠らない限り、アインズの情報は流れる。それならばある程度の情報を自分から流して誘導した方が良い。
もう一つは、アインズ・ウール・ゴウンという人物が村を救って騎士を殺したという情報を広めて欲しいからだ。その情報が届いて欲しいのは、もちろんユグドラシルプレイヤーだ。
《アーデルハイトさん、私が今考えていることを伝えます》
《はい》
《村長から聞いた三国──つまり、リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国のどれかに身を預けたいと思っています》
情報を入手するには国の傘下に入れば、単独で動くよりもずっとメリットが大きい。ナザリック地下大墳墓の自治権を守るためにも、どこかの勢力を後ろ盾にしておいた方が良い。
ただ、それぞれの国家の力がどの程度なのかがわからない以上、舐めてかかるのは禁物だ。アインズやアーデルハイトを超える戦闘能力の持ち主がいないとも限らない。
《大きな組織に属するのは良い案ですね、アインズさん》
《今のところ、いずれはそうしたいという希望だけですけどね》
組織に属するといっても、奴隷の立場はごめんこうむりたい。ヘロヘロのようなブラック企業もだ。いろいろな勢力に自分の存在をアピールし、立場や扱いなどを見極めてから一番良いところに身を預ける。転職の基本だ。
そんなことをいろいろ考えていたが、アインズは今日のところはこれで終わりだと言った。たった数時間しか経過していないのに、異様なくらい頭を使った。これ以上考え事をするのは億劫だ、と疲労感を振り払うかのように頭を振る。
「はあ……もういい。ここですべきことは終わった。撤収するぞ」
アインズはアーデルハイト達にそう告げると、全員頷いた。
そんな中、一人だけピリピリとした雰囲気を放つ人物がいる。アルベドだ。もう危機が去ったこの村で彼女が警戒する理由はない。
「アルベド、やはり人間は嫌いか」
「好きではありません。脆弱な生き物、下等生物……虫のように踏み潰したら、どれだけ綺麗になるかと……」
カルネ村に姉妹を連れてくる前、アーデルハイトにも指摘されたものの、アルベドの人間嫌いはそう簡単に緩和されるものではなかった。
「しかし、ここでは冷静に優しく振るまえ。演技というのは重要だぞ」
アインズの言葉にアルベドは頭を下げた。
部下の好みの把握も大事だなと心に留めたアインズは村長を捜す。去る前の礼儀として別れを告げるためだ。
「アインズ、村長はあそこみたいじゃぞ」
あっさりと村長は見つかった。アーデルハイトが目配せした先には、広場で数人の村人と相談事をしている。真剣な表情に、また厄介ごとかと察した。
「どうかされましたか、村長殿」
「おお、アインズ様にアーデルハイト様。実はこの村に馬に乗った戦士風の者達が近づいているそうで……」
なるほど、騎士に襲撃されたばかりで不安らしい。
私が対処するとアーデルハイトに小声で伝えると、アインズは村長達を安心させるために落ち着き払った声で言う。
「任せて下さい。村長殿の家に、生き残った村人を至急集めて下さい。村長殿は私と共に広場に」
アインズの提案ののち、村に鐘の音が響き渡る。それが広場に集合する合図らしい。その一方で、アインズはデス・ナイトを村長の家の近くに、アルベドは己の後ろに配置した。アーデルハイトもアインズの隣に立ち、後ろにテオドールを控えさせた。
「──来たぞ」
アーデルハイトの耳が低く響いてきた馬の足音を捉えた。ほどなくして数体の騎兵の姿が見えてきた。隊列を組み、広場へと駆けてくる。
「……武装に統一性がないようじゃが……」
「正規軍じゃないのか?」
騎兵達を観察していたアーデルハイトとアインズは、彼らの武装に違和感を抱いた。バハルス帝国の紋章を入れていた騎士達は統一された重装備だったが、今やって来た騎兵達は鎧を着てはいるが各自アレンジされている。一部だけ皮鎧であったり、鉄の装甲板をはずして鎖かたびらを露出させたりといった感じだ。
兜はかぶっている者もいれば、かぶっていない者もいる。どちらも共通している部分は顔をさらけ出していることだ。同じ剣をさげているが、弓や片手槍、メイスなどの予備の武器まで準備している。
騎兵の数は二十。デス・ナイトに警戒しながら、村長とアインズ達の前に綺麗に整列し、その中から一人が騎乗したまま進み出た。体格の良い男達の中でも最も目を引く屈強な男だ。
「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士を討伐するために王のご命令を受け、村々を回っている者である」
王国戦士長の言葉に村長も、村長の家の中からもざわめきが聞こえた。
だが、アインズは軽い苛立ちを覚えた。村長から貰った情報に、この人物のことが抜けていたからだ。
小さく村長に尋ねれば、王国の御前試合で優勝した人物で、王直属の精鋭の兵士達を指揮しているという。
「この村の村長だな」
ガゼフの視線がアインズから村長へ移る。
「横にいるのは誰なのか教えて欲しい」
「それには及びません」
村長が口を開く前に、アインズが一歩前に出て名乗る。
「初めまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン、彼女はアーデルハイト。この村が騎士に襲われておりましたので、助けに来たマジック・キャスターです」
アインズが軽く一礼をするとガゼフは馬から飛び降り、深々と頭を下げた。
「この村を救って頂き、感謝の言葉もない……!」
再びざわりと空気が揺らぐ。
王国戦士長という地位──おそらく特権階級の人物が、身分も明らかではない相手に敬意を示している。身分の違いが明らかなこの世界において、ガゼフの対応は驚愕そのものだろう。
「いえいえ、実は私も報酬目当てですからお気遣いなく」
「報酬? では冒険者なのかな?」
「それに近いものです」
「なるほど、かなり腕の立つ冒険者とお見受けするが……寡聞にしてゴウン殿やアーデルハイト殿の名は存じ上げませんな」
「こちらには旅の途中にたまたま通りかかったものでして。さほど名が売れていないのでしょう」
「そうか……優秀な冒険者のお時間を奪うのは少々心苦しいが、村を襲った不快な輩について詳しい説明を聞かせて頂きたい」
「もちろん喜んでお話しさせて頂きますとも」
アインズの返答に満足したガゼフは、後方にいるデス・ナイトを見る。
「今ここで二つだけお聞きしたいのだが……あれは?」
「私の生み出したシモベですよ」
「では、その仮面は?」
「マジック・キャスター的な理由によってかぶっているものです」
「仮面を外してもらえるだろうか?」
「お断りします。あれが暴走したりすると厄介ですからね」
アインズがちらりとデス・ナイトを見て指を差す。ぎょっとしたのはガゼフではなく、村長や村民達だった。デス・ナイトの力を目の当たりにした彼らは、だからアインズが変な仮面をかぶっていたのかと納得すると同時に、シモベとして使役するアインズの力量に感嘆する。
もちろん本当は正体を隠すためのものであるが、それを明かすわけにはいかない。
外すと大変なことになるというアインズの言葉に、ガゼフはこれ以上仮面について追及することをやめた。
「なるほど、取らないでいてくれた方が良いようだ」
「ありがとうございます」
ガゼフが苦笑すると、アインズは丁寧に感謝の意を伝えた。
「では、詳しい話を聞かせて欲しい。それと時間も時間なので、出来ればこの村で一晩休ませてもらいたいのだが……」
「わかりました。その辺りも踏まえて、私の家でお話しを──」
ガゼフの要望に村長が答えていた時、一人の騎兵が広場に駆け込んできた。息は大きく乱れ、大声で緊急事態を告げた。
「戦士長! 周囲に複数の人影、村を囲むような形で接近しつつあります!」
2017/07/15
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