食べすぎには御注意を。 [2]


* * *

…ふう、サンデー作ってちょっと頭を冷やしたら、落ち着いたわ。

簡素ながらも出来上がったストロベリーサンデー。
紫乃はダンテの目の前に、それを笑顔で置いた。

「さあ、どうぞ。ダンテの大好きなストロベリーサンデーよ」

「サンキュー、やっぱりデザートといったらストロベリーサンデーは外せないよな」

言うが早いか、スプーンを手に食べ始めるダンテ。

うむ、美味い。
いつも食べてるストロベリーサンデーとは何かが違うが、美味い。
そもそも何が違うのか、と聞かれると何も言えないのだが。

疑問に思うことといえば…。
そういえば紫乃の先ほどの慌てようは一体なんだったのだろうか。

「なあ紫乃。さっき、何を慌ててたんだ?」

「っ!?」

ゴホッ!
飲んでいたお茶をむせてしまった。

「何でもないから気にしないでっ!!……ね、ダンテ?」

「う、うんー?わかった」

少々気になるが、あまりにも必死な紫乃にダンテはそれ以上何も言わないことにした。

紫乃が洋菓子から一転して、和菓子を皿に乗せてきた。
先ほどとうって変わってほくほく顔で嬉しそうだ。

「へぇ、和菓子もあったのか」

「ええ。まさかここでも和菓子が見られるとは思わなくって。ついつい取りすぎちゃったわ」

涼しげな錦玉かんに、きんつば、かわいらしい形をした練りきりに、カステラ、水まんじゅう、栗ようかんなんてものまでそろっていた。
やはり日本人だということだろう、祖国の味を見つけて取らずにいられなかったのかもしれない。

「食べるのがもったいないわね」

「そうだな」

対するダンテの皿にはケーキ。
しかもただのケーキではなく、紫乃の皿に乗った和菓子のように手の込んだ繊細な飴細工が飾られたスイーツや、綿菓子がふんわりと乗ったスイーツだった。

どちらの皿に乗るものも、かわいくそして美しい。

「まるで綺麗な美術品のようだわ」

「うぅむ、この装飾すら食べれるってんだからスゲェよなぁ…」

ケーキの上の鮮やかな蝶々の形の飴細工を割らぬようそっと取って電灯の明かりに透かしてみるダンテ。
光に当てると、紫乃の瞳のように透明感のある、しかしはっきりした色合いの紫に輝く。

…最後までとっておこう。

和菓子もそうだが、ここのスイーツ…本当にグレードが高い。

自分と紫乃の結婚式はこんな感じに美しいウェディングケーキで祝いたいところだ。
と、内心幸せな考えを働かせていると…。

「こんな素敵なケーキを作るパティシエさんに、ウェディングケーキは作ってほしいものよね」

「!」

紫乃が感嘆のため息を吐き出しながら、指に輝く指輪を見つめる。

驚いた。
紫乃も同じことを考えていてくれたとは。

「ね、『アナタ』?」

「あ、ああ…そうだな……」

そう微笑んで言われ、思わずダンテが顔を赤らめる番となった。

* * *

「ふう、美味しかったわ」

一通りの気になるスイーツを食べた2人は小さなフレッシュフルーツを摘まみながら、食後の紅茶を飲んでいる。

「んー。美味かったけど紫乃の作る菓子のが美味いな。あとでストサン作ってくれ」

「さっき作ったじゃない」

「あれはあれ、これはこれだ。紫乃が一から作るストサンとは別物だ。帰ったら食べたい」

「呆れた!あんなにいっぱい食べたのに、まだ食べ足りないの?」

クスクスと笑いながらも、嬉しいお願いをいうダンテには何でもしてあげたくなってしまう。

「紫乃の菓子は別腹ってやつだな」

「もう…」

口直しのブドウやサクランボを摘み取って口に運ぶ紫乃。

そのぷるぷるした唇に触れたい。
ダンテは紫乃に咥えられているフルーツになりたいと切に思った。

会計はないにしろお世話になったウェイターにチップを払い、2人は店を出る。
ここまでたくさん食べた、本当にたっくさんだ。

「食べ過ぎちゃった。しばらく甘いものは要らないかも。帰って体重計に乗るのがこわいわね…」

「なら運動すればいいだろ?」

続きは紫乃の耳元にスッと近づいて囁く。

「ベッドの上で、な…」

「そ、そんなことするわけないじゃない…!」

吐息混じりに言われドキドキしながらも、紫乃はなんとか断った。

「冗談だ」

ダンテは肩をすくませ答えた。

「あやしいわね…。まあ、いいわ。ゲートを開くから早く帰りましょうか」

「いや、たまには歩いて帰ろうぜ。腹ごなしにもなるしな」

「それもそうね」

「お手をどうぞ、My darling」

2人は仲睦まじく腕を絡ませ、ゆっくりと帰り道を歩き出した。
そのあと、ベッドの上で運動したかどうかは、皆様の想像におまかせしよう。


そしてこちらはダンテとディーヴァの場合。

「今日は食べるぞー」

「おー!朝ごはん抜いちゃったからかなあ、おなかすいたぁ…」

今2人は偶然に手に入った、いや、エンツォからぶんどったスイーツ食べ放題半額チケットを使ってとあるホテルのラウンジに並んでいた。

開店までまだ少しあるが、ここまで菓子の焼ける甘〜い匂いが漂ってくる。
…よだれものだ。

「ふわぁ、いい匂い…」

「ああ、甘〜い匂いだな。ん?これはディーヴァの大好物のチーズケーキかもな」

「チーズ!?」

その言葉を聞き、すでに目がチーズチーズ言っている。

ぐうきゅるるる〜。
更にディーヴァの腹の虫が泣きわめく。
ディーヴァは本当にチーズに目がなくてしょうもない女の子である。

「でも、あと数分は我慢しろよ?」

開店まであと数分。

いつもならば落ち着きがないのはダンテの方だが、今はディーヴァの方がよっぽど落ち着きがない状態だ。
ダンテは、待ちきれないとばかりに落ち着かないディーヴァを撫でていさめようと手を伸ばした。

ぱくり、カジカジ。

「…は?」

ディーヴァに手を齧られた。
しかも、けっこう力強く、である。

「いでぇぇぇ!?」

「うぅぅ…ダンテのおてて、チーズの味しない。美味しくないからいらないや……」

「当たり前だろ!ふーっふーっ!ったく、痛ぇな…」

女性は甘いものに目がないとは聞くが、いつも大人しいディーヴァがここまでの力を発揮するとは…。
菓子の力ってすげー。

と、そんなこんなで開店して、席に案内を受けたダンテとディーヴァ。

皿を手にスイーツの元へ急ぐと、そこには楽園があった。
ショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン、フレッシュフルーツのケーキなど王道のケーキに小さなプチフールはもちろん、アイスクリーム、ジェラートなど冷たいスイーツなども取り揃えてある。
スイーツの宝石箱やー!!

「うっひょう!イチゴのケーキがわんさかだぜ!!」

「うわぁ、チーズのお菓子もリンゴのお菓子もいっぱい!全部制覇したいなー!」

「腹が破裂してもしらないぞ?」

「むしろ本望だよ!」

キラキラした笑顔を浮かべ、子どものようにはしゃぐ2人。

ダンテは色鮮やかなサマープティングやらイチゴを使うスイーツをポンポンと皿に乗せていく。
が、ある一点で手が止まった。

「ピザがある…」

「ほんとだ。あ、パスタもある。カルボナーラ食べたいな……」

そしてディーヴァの目に、二枚目の皿にピザをとるダンテの姿が映る。
なんと気が早い。

「って、もうピザ取ってるし…。しかも取りすぎっ!あのねダンテ、今日のメインはピザじゃなくてスイーツなんだからね?元とってよ、元!」

そう注意するディーヴァも人のことは言えない。
ディーヴァの皿を目にしたダンテはギョッとしてしまった。

「うわ、お前こそすげぇ量だな。マジでそんなに食べるのか?残すなよ?残しちゃいけないんだろ」

残さないように適度な量をとって食べるのが、食べ放題のルールだ。
お残しは許しまへんで!!

そう、ディーヴァの皿にはありとあらゆるチーズの名がつくスイーツ、リンゴを使った菓子、プリン各種、紅茶のシフォンケーキなどがどっさり乗っかっていたのだ。

「だ、大丈夫だと思う。多分……」

「ゆっくり味わって食えよ?太らないっていってもニキビできるぞ」

「うっ…嫌なこと言わないでくれる?」

席について食べ始めたダンテとディーヴァ。
ディーヴァは今更ながらニキビのことで少し不安になってしまった。

まあいい、今は食べるのが先だ。
あとのことはその時考えればいいだけのこと!

「っていうか、ダンテだってそんなに取っちゃって…」

「オレは悪魔と運動してくるからいいの」

そう言って勝ち誇った笑みをディーヴァに向ける。
これは、デビルハンターだからこそできる運動療法のひとつだろう。

「あっずるい!いいもん、あたしも運動するからいいもんねー!」

「へえ、ディーヴァが運動?なんならオレとベッドの上で運動するか?」

頬杖をついてニヤニヤするダンテに、ディーヴァは深くため息を吐いてすっぱりと切り捨てた。

「はあ〜……。しないっ!ジムとか行って泳いでくるの!!」

「でもそう言って、行ったことあったか?」

「明日から本気出す!!」

「……あっそ」

その言葉ほどあてにならぬものはない。
ダンテはまだピザやらケーキが焼きたての美味しい内に食べることに決めた。

それにならってディーヴァも食事を再開する。

もぐ。
口に含んだ瞬間舌の上に広がるのは、甘いリンゴと甘いクリームが奏でる二重奏。
そして二口目にはふわふわな口当たりで、濃厚なのにさっぱりとしたフロマージュブランの味がやってきた。

「…んんん!?リンゴのシブーストも、クレメダンジェもすっごく美味しいっ!」

「そっか、よかったな。ディーヴァはリンゴもチーズも好物だもんなぁ」

「うん!ね、ダンテ…」

一度フォークを置いたディーヴァがダンテに微笑む。

「ん?」

「連れてきてくれてありがとう。ダンテ、大好きっ!」

場所が場所なら、ディーヴァから抱きついてきていたであろう言葉。
大好き、と言われてダンテは幸せいっぱいだ。

「オレも好きだぜ、ディーヴァ。もちろん、ストサンよりも、ピザよりもな。ディーヴァはチーズケーキとオレ、どっちが好きだ?」

「えー…えっと、うーん……」

その質問にディーヴァは悩みながら考える。

「迷うなよ!」

「じゃあ、ダンテ…?」

じゃあって何だ、じゃあって!
ダンテは心の中で盛大に突っ込みを入れた。

「はあ…」

「なんかごめん、ダンテ」

「別にいい」

…しかたない。
食べ物と比べる方が間違っていたのだ、そう思うことにしてダンテは目の前のケーキを口に入れた。

ああ、どれを食べても美味い。

そのあとも2人は幸せそうな表情でスイーツを食べた。
食べる、食べる、そして食べる!!

マンゴーやパッションフルーツなど南国フルーツをプレーンパンケーキに乗せて頬張るディーヴァと。
シュークリームをこれでもか!と皿に積み上げてタワーを作って「見ろ!シュークリームのテメンニグルだぜ!超こえぇ!!」とかなんとか言いながら食べるダンテ。

この2人、先の2人に比べると、かなりフリーダムである。

シュークリームが終わったと思ったら、ダンテは次に赤くないストロベリーサンデーのようなものを嬉々として持ってきた。

「ストサンじゃねぇけど似たようなのがあったぜ、ディーヴァ」

「…桃ってことはピーチメルバだね」

桃の強い芳醇な香りが漂うだけでもなんとなくわかった。
ピーチメルバとは、シロップで漬け込んだ桃にバニラアイスを重ね、ラズベリーソースやアーモンドのスライスを乗せたサンデーやパフェにも似たデザートである。

「うん、ストサンも美味いがこれもけっこうイケるな」

「どれどれ?」

どんなものかは知っているが、実を言うとディーヴァはまだ食べたことがない。
ディーヴァは物欲しそうに口を開けた。

「一口ちょうだい?…あーん」

「ったく、しゃーねーな。ほら、あーん」

ディーヴァの口にひと匙放り込むダンテは、まるで雛鳥に餌付けしている気分だと思った。
かわいいが、刺激は足りない。

…いいこと思い付いた。

「おおっと!ほっぺたについちまったぜ」

「え、うそ。どこどこ?」

ペタペタ顔を触って確認するも、どこだかわからない。

そんなディーヴァに近づいたダンテは…

ぺろっ。

「ここだ」

ディーヴァの頬でなく、唇を舐めた。

これにはさすがのディーヴァも真っ赤にならざるを得なかった。

「ダ、ダンテ!!」

「いや〜、真っ赤なイチゴちゃんになったディーヴァが見たくなっちまってな!」

ハハハハハ!唇、ごちそうさま!!
と笑い飛ばすダンテに、ディーヴァは怒り心頭。

「も〜〜〜っ!あたしからも一口あげようと思ったけど、あげないっ!すっごく美味しいイチゴのムースだけどあーげない!」

「えぇ!?そりゃないぜディーヴァ…」

頬を膨らませ、口にいれようとするディーヴァに、ダンテはしょんぼりと項垂れた。

「はあ…しょうがないなぁ。はい、あーん」

ダンテにスプーンを近づけていくディーヴァだが、そのひと匙がダンテの口に届くことはなかった。

あろうことかディーヴァは「はい、あーん」とダンテに差し出すと見せかけて自分で食べてしまったのだ。
二重構造のディーヴァの騙し討ち!

今やダンテは、ムンクの叫びもびっくりな絶望じみた顔をしている。
ディーヴァは苦笑すると、ダンテにもうひと匙残っていたムースを差し出した。

「うそうそ、これ残り一個だったからもうないし。あと一口あるからはい、どーぞ!…おいしいよぉ〜?」

「そうくると思ってたぜ!ありがとな、ディーヴァ!」

パアッと輝いたダンテの笑顔。
ダンテは差し出されたスプーンを嬉しそうに頬張った。

その後も食べさせあいっこは何回か続いた。

「でもお前、チーズケーキだけはくれないのな」

「当たり前です」

好物の前には恋人だろうと関係ない、誰にもあげないとディーヴァは真顔で答えた。

「…さいですか」

クレープシュゼットで焦げた前髪を気にしながら、ダンテはため息をついた。

クレープシュゼットとは、クレープにグランマルニエをかけてフランベするデザート。
ここのそれは目の前でフランベしてくれるサービスがあったのだ。

そしてダンテは身を乗り出して眺めたものだから、前髪を焦がしたのである。

「ヒャッホー!ファイヤァァァ!」

「ダンテ、叫ぶのはいいけど前髪燃えてるよ」

「え?…うあちちちっ!」

…さすがに前髪は半魔といえど再生しないようだ。

* * *

もう一回チーズとリンゴとプリンを使ったスイーツを巡るディーヴァと、イチゴのスイーツを巡ったダンテは、食べすぎて膨らんだお腹をさすりながら帰路を歩いていた。

「うぇっぷ、もう食べれないよぉ…」

「お前食いすぎだ」

「かもね。おうち帰ったら消化に良さそうなハーブティー飲みたいから、たまにはダンテ淹れてよー」

あたしもう動けない!
と、歩くダンテに腕を絡ませておねだりするディーヴァ。

「仰せのままに、お嬢様」

「ありがとう」

まるで執事のように恭しく言い、ダンテは笑う。

「ま、オレもしばらくはストサンすらいらねぇな…」

「うっわ、珍しい」

「そのくらい食べたってことだ」

あらかた食べ尽くした気がする。
しばらくは甘いものを見るのがいやになるくらい食べることができたのだから、よしとしよう。

そして。

「ぎゃあああああ!ニキビできたあああああ!!」

と騒ぐことになるとは、まだこの時のディーヴァは知らなかった。


▼管理人より
『ぱらのいあ』望月闇姫様より頂きました。
8月31日が当サイトのDMC夢ヒロインの誕生日ということで、スイーツバイキングのリクエストです。

管理人が食べたいという欲求によりリクエストをお願いしたところ、闇姫様宅のDMC夢ヒロイン&3ダンテだけでなく、鬼徹夢ヒロイン&鬼灯も登場なんて…!
嬉しすぎて顔のニヤケが止まりません!

4ダンテがスケベすぎていいですね。
公衆の面前で堂々とするのが髭らしい(笑)
何気に結婚式を考えているシーンも入れてくれています。
さすがは闇姫様…将来を見据えていますね。
私も現在の4ゲーム沿い連載後は結婚に向けての話だとか、子供の名前だとかを考えています。
(え、気が早いって?)

それにしても、美味しそうなスイーツがずらりと出てきましたね。
現実だとたくさん食べたらあとがとても怖いので、代わりにヒロイン達にたくさん食べてもらえて満足です(笑)
髭達は帰ってから運動(意味深)をしたに1票。

鬼徹の二人は髭達に比べたら、随分と落ち着いたラブラブっぷり。
可愛いスイーツを見つめる鬼灯が可愛くてハゲそう。
そういえば鬼灯ってプリンが嫌いでしたよね。
いつかプリンネタで鬼灯夢書いてみたいです。

闇姫様宅のDMC夢ヒロイン&3ダンテも登場して、ますますテンションアップでした。
シュークリームのテメンニグル。
…略してシューニグル?
これをバージルが1個1個積み上げていくところを想像すると…
お兄ちゃん可愛い。
でも、作っている彼を見ているのがバレるとダァーイされそう。

闇姫様、素敵な夢小説ありがとうございました!

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