食べすぎには御注意を。 [1]
今回の依頼者は有名な菓子店のパティシエ。
ダンテと紫乃が依頼の報酬金の他に貰ったのは、そのパティシエが監修を務める高級ホテルで展開されるというケーキバイキングの無料チケットだった。
しばらく行列を並び開店と同時に店内に入ると、中にはすでに美味しそうなケーキが何種類も並んでおり、食欲をそそる甘い香りがしていた。
「美味しそう」
「…すげぇな、圧巻だ」
女性である紫乃はもちろん、美味しそうなケーキを前にウキウキしている。
隣のダンテはウキウキというよりはビックリしていた。
甘党とはいえ、ダンテがこのようなバイキングに今まで縁があったはずもなく、そこらのケーキ店なんか目じゃないほどの色とりどりのケーキの連続に開いた口が閉じない。
「早く食べたいわ、行きましょうダンテ」
止まってしまったダンテの袖をひき、紫乃は案内役のウェイターに着いていく。
ケーキ達を素通りし案内されたテーブル席には指定席と書かれた札が置かれ、他の客からはあまり目立たず、それでいてケーキ達にはとても近い特等席が用意されていた。
しかも制限時間がない。
チケットをくれたパティシエの粋な計らいだろう。
「ダンテはバイキングのマナーとかルールを知らなかったわよね」
「そりゃあ、来たことないからな。紫乃は来たことあるのか?」
「友人と何回かね」
紫乃はダンテにバイキングでのマナーやルールを丁寧に教えた。
まあ、ダンテに限って食べ物を残すことはまずないだろうから、その辺は問題ないだろう。
ただしケーキの上にオリーブでも乗っかっているなら話は別である。
立ち上がった2人は、ケーキがずらりと並ぶ場所へ。
端に積み重なる皿を一枚取り、好きなケーキをのんびりと物色し始めるダンテと紫乃。
周りの者達は目の色を変えて飢えた動物のように皿へケーキを乗せていた。
彼女達には時間制限があるのだからしかたないのかもしれない。
「しっかし、バカ高いのによく並ぶな〜」
「高いお金を支払って食べてもいいってくらい、ここのケーキバイキングって美味しいことで有名なのよ」
端から端までゆっくりと共にケーキを品定めしていきながら、会話する。
有名と、そう紫乃が言う通り、どれも美味しそうだ。
「実はここ、一回来たかったのよね」
「へえ…。紫乃、うれしいか?」
「ええ、そりゃもう!」
にっこりとまるで子供に戻ったような明るい笑顔を向けてくる紫乃。
「そうか」
これてよかった。
こんな笑顔の紫乃を見れるのなら来た甲斐があるというものだ。
「さて、じゃあ今日はたらふく食べるぜ。たくさん食べたら運動しないといけないがな」
「そうね、ダンテが暴れられるような悪魔退治のお仕事があるといいわね」
先程笑顔を向けてきた時とはうって変わり、今の紫乃は少しばかりトゲのある言い方だ。
「……根にもってるのか?そんなに、嫌だったか?」
実を言うとこの男、店の前で並んでいる時に紫乃にイタズラしたのだ。
混んでいて少々イラ立っていたことと、暇をもて余したとのことでいきなり深いキスをしてきたのである。
いくらスキンシップの激しいお国柄とはいえ、他人が周りにたくさんいる中でキスするなんて恥ずかしくてたまらない。
あの時は恥ずかしさとディープキスの息苦しさでその場から消えてしまいたいと思ったほどだ。
周りにいたのが人間でなく依頼で駆除する予定の悪魔だったとしたら、ゲートを使って逃走していただろう。
「嫌だったわけじゃないけど……。人に見られるのは恥ずかしいからやめてちょうだい」
「人前じゃなけりゃいいのか?」
「んもうっ!!」
熱くなってきた頬を冷ますように、手団扇でぱたぱたあおぐ。
顔が赤いのも、上層していく頬の温度もしばらくは元には戻りそうにない。
「ああ、最初から好きなスイーツを取ろうとしてたのに、なんだか熱くなっちゃったわ。冷たいスイーツから食べようかしら」
「…すまん」
「もういいのよ。それより食べましょうか」
クスクス笑った紫乃は最初のスイーツを自分の皿に乗せた。
スイーツが並べてあるのを見ていくと、王道といわれるショートケーキや、モンブラン、チーズケーキにチョコレートケーキ、季節のフレッシュなフルーツをふんだんに使った豪華なケーキに、タルトタタン、パイなど色とりどりカラフルなスイーツがたくさん並んでいた。
どれも美味しそうで目移りしてしまう。
紫乃は自分の皿に、甘酸っぱいラズベリーソースがかかった小さなチョコレートケーキと様々なベリーいっぱいのタルト、カラフルなマカロン、小さめのフロランタン、マドレーヌなどのプチフールを乗せている。
「食べてみたいのがいっぱいあって困っちゃったわ」
「みたいだな」
紫乃は女の子。
甘い物には目がないということなのか、ほくほくした笑顔を浮かべていた。
「食事系もあるみたいだぞ、飽きたらそっちに行ってもいいな…」
「そうね。あ、ほら、ダンテの好きなイチゴ系のスイーツは全部こっちのコーナーに置いてあるわ」
「おお、そりゃいい」
ダンテの皿にはみるみるうちにイチゴスイーツが山盛りになっていく。
その量は紫乃が乗せる量をはるかに上回っていた。
最初っから飛ばしすぎな気がしないでもないが、本人はとても嬉しそうだしそのまま好きにさせておこう。
「ダンテったら本当にイチゴが好きなんだから」
「まあな。こういうところからも、オレが浮気しない男だってわかるだろ?」
他のスイーツにはいかない=浮気しない!とは少々安直すぎないだろうか。
だが、ダンテはいつだって紫乃だけを見て紫乃だけを愛している、それはこれから先も変わらない。
「はいはい、ありがとう。さ、食べましょうか」
席に戻った2人はおしぼりで手を拭き、フォークを手に食べ始めた。
小さくともみっちりと濃厚なチョコレートケーキは甘酸っぱいラズベリーソースがよく合い、ストロベリー、ラズベリー、ブルーベリーなど種類豊富なベリーが詰まったタルトも生地の甘さとフルーツのフレッシュさが相まってとても美味しい。
EAT ME!!といわんばかりに誘惑してきたプチフール達も、それぞれがいろいろな香りと味を紫乃の口の中に運んできた。
「すっごく美味しい…!!」
「ああ、さすが有名店だけあるな。マジ美味い」
頬が落ちそうなほどだ。
ダンテなどは一心不乱に食べているから、よほど美味しいのだろう。
味を堪能していると、案内役を買って出ていたウェイターが何やら大き目グラスを持ってやって来た。
コト、と置かれたそれはブラックタピオカがたっぷり入ったアイスミルクティーのよう。
「こちらは当店パティシエからのサービスになります」
「へえ…これも美味そうだ」
「ありがとうございます…」
何から何までなんだか悪い気がしないでもない。
…と、ここで紫乃がそのアイスミルクティーに刺さったストローを見て驚いた。
途中がハート型に湾曲している、恋人達用のストローだったのだ。
「こ、これって…」
「ハハハ!こりゃ嬉しいサービスだな!さて、飲もうぜ」
これを飲むとどうやってもダンテの顔を間近で見なくてはいけない。
紫乃は恥ずかしそうに顔を赤らめ、ダンテはニヤニヤと嬉しそうにしながら、ミルクティーを飲んだ。
紫乃とダンテの2人は、続いて冷たいデザートのコーナーへやって来た。
「本当にすごい種類ね…一日じゃ食べきれなさそう」
「だな。アイスだけでかなりの種類があるぜ」
色々な味のアイスクリーム、シャーベット、ムースにババロア、ゼリーなどもある。
ゼリーにいたっては、珍しいことに薔薇の花弁が入ったきれいなものまであった。
ダンテはその一画にかき氷の機械が置いてあるのに気が付いた。
確か紫乃の実家にもあった気がする。
「面白そうだ。紫乃はこれ、使えるか?」
「かき氷!氷を入れて自分で作るみたいね。ダンテ、…いえ、お客様、お1ついかがですか?」
「ああ頼むぜ。味はもちろん…」
「イチゴ、でしょ?任せて」
クーラーボックスに入った氷をザラザラと上から入れる。
その氷は少し白く、ガリガリと削ると甘い香りの漂うふわふわの雪のように器に落ちた。
「あら、練乳氷なのね。練乳かける必要ないみたい。はい、どうぞ」
「サンキュ」
器に降り積もった淡雪氷に、たっぷりの赤いイチゴシロップをかけてダンテに手渡す。
紫乃は自分の分も作ろうとして……その手を止めた。
代わりにその小さめの器を差し出す先はダンテの目の前。
「私、ダンテが作った宇治抹茶のかき氷が食べたいわ。小豆と栗の甘露煮もちゃんと乗せたものなんだけど……作ってくれる?」
「!!……任せておけ」
紫乃のかわいいおねだり。
ダンテは腕を捲ると、かき氷の機械に向き直った。
ものすごい速さで氷を削ったため、一瞬で器がいっぱいになった。
それどころか、もう少しで機械が壊れるところだった、とだけ言っておこう。
「やっぱり夏はこれね。いただきます」
ひと掬いしたかき氷を嬉しそうに口に入れた紫乃。
だが、すぐにその目をきゅ…と瞑ってしかめてしまった。
「どうした」
「美味しいんだけど、頭にキーンときちゃって。つぅ…」
こめかみを軽く指で押さえて、冷たさからくる痛みを耐えている。
ダンテはじっと見つめて、ぼそりと呟いた。
「不謹慎だが…」
「?」
「その仕草、かわいいな」
「〜〜ッ他人事だと思って!ダンテも食べればわかるわよ」
「俺は痛みにものすごく強いぜ?でも、まあ…試してみるとするか」
ぱくり。
そう言って口に運ぶ一口が大きすぎたようだ。
食べた途端に、ダンテの脳髄に響くような痛みが走った。
「うお…。確かに頭の奥にガツンとクるねぇ」
「ほらね」
こめかみを揉むように両手で押さえるダンテがおかしくて、紫乃はくすくす笑う。
ダンテもそれをみて、やはり笑った。
冷たい物で頭が痛くなるのは人間も半魔も変わらないと、これでダンテにもちゃんとわかってもらえたようだ。
かき氷を食べ終えた2人はすでに違うスイーツへと手を伸ばしていた。
「お、これ美味いぞ」
そう言ってダンテが口にしているのはフォンダンショコラだ。
まだ出来立てなのだろう、スプーンを入れると中からチョコレートソースがとろ〜んと流れ出して甘い匂いをさせていた。
「ほら、口開けろよ。あーんしてみろ、あーん」
「えっ!?」
ダンテがスプーンに掬ったひと匙を差し出してきた。
「でも…」
もじもじと物怖じしながら目を下に向けて恥ずかしがる紫乃に、ダンテは尚も優しく差し出す。
「恋人同士なんだからこれくらいの戯れはイイだろ?ほら、チョコレートが垂れちまう」
「う、うん…」
確かに2人は恋人同士だし、ダンテの悪戯や戯れは今さら。
周りには知り合いがいるわけでもなし。
紫乃はキョロ、とだけ周りを確認し、身を乗り出した。
ぱくり。
口に含めば広がるどっしりとした濃厚な、それでいてしつこくない甘さ。
「美味いか?」
「ええ、とても。ありがとう」
確かに美味しかった。
けれど、恥ずかしさであまりしっかりと味わえなかった気もしてしまう。
紫乃はお返しとばかりに、ダンテにも自分の食べているケーキを差し出した。
「わ、わたしからも…はい、ダンテにあげるわ…」
「紫乃…」
驚いた表情で、キイチゴやオレンジのドレスを身に纏ったさわやかなケーキと、紫乃を交互に見比べるダンテ。
「…あーん、して?」
だが、ダンテが恥ずかしがるはずもなし。
彼は嬉々として差し出されたフォークを口に入れた。
「ん…美味い」
「そ、そう!良かったわね!」
フォークを引き寄せてツンとすます紫乃。
その顔は照れているのか、耳まで真っ赤に染まっていた。
なんだこのかわいい生き物。
キュンどころか、ガシッと胸が何かに鷲掴みされた気分だ。
ダンテはしばらく考えこみ、口中で微かに笑った。
その笑い方は、何やら邪な考えをしている時のそれである。
「これもやるよ。とりすぎちまったからな」
「あら、美味しそうなトリュフ」
ダンテの皿は珍しくチョコづくしだったようだ。
だが、皿を寄せるもダンテが紫乃の皿にトリュフを乗せる気配はなかった。
「?…くれるんじゃないの?」
「それなんだが、ちょっと立ってこっちに来てくれるか?」
意味がわからない。
紫乃は頭の上にクエスチョンマークを出現させながらダンテに近づいた。
カタン、ダンテも立ち上がる。
何をするのかと思っている紫乃の顔に、背の高いダンテの影がかかる。
ダンテはトリュフを1つ口に含むと、紫乃に噛みつくようなキスをした。
「んっ!!」
目を見開いてキスを受け止める紫乃。
その唇は、半ば誘われるように舌先でこじ開けられた。
とろり、ダンテの口中で溶け始めたトリュフが紫乃の口中へと移動を開始する。
広がる甘い甘いチョコレートの味。
そして、洋酒をたくさん使っているのであろうお酒の香りと、小さく入っていたらしいフランボワーズの味もした。
キスの感触も相まってか、なんだか酔いそうである。
「ん、…はぁっ……ダ、ダンテっ!な、何を…っ!!」
解放された瞬間、いよいよ恥ずかしさと怒りで爆発寸前の紫乃。
だが、ダンテ肩をすくめてシレッと言ってのけた。
「悪い、さっきのかわいくてつい、な」
「だ、だからっていきなりあんな…っ!!」
かああああ!
真っ赤になった紫乃がぱくぱくと口を開けて抗議するも、ダンテはどこ吹く風。
「並んでた時よりはマシだろ?誰も見てねぇし」
いつにもまして飄々とした態度で、相変わらず食えない男である。
だが、確かにこの席は観葉植物の影となっており、他の客には目をこらさぬ限り見えないという、いわば個室席に近しいもの。
でもまさかそんなことをすると誰が考えようか。
これ以上言っても無駄と、紫乃はおとなしく席につく。
口の中には、トリュフだけでなくダンテとのキスの痺れるような後味がいつまでも残っていた。
「あちらの席の人達、甘いですね」
ほとんどの客は気がつかなかったが、こちらでお忍びデートを楽しみに来た…いや、視察をしに来た2人の内、1人は気がついていた。
フォークでケーキを口に運び続けたまま、無表情で言い放つ。
無表情というか、これでも微笑ましく見ているつもりなのだが、その表情は端から見れば鉄仮面そのもの。
目の前にある大量のケーキもちゃんと美味しいと思って食べているいるのかどうかわかったものではない。
「そうなの?」
「男の方なんかは、灼熱地獄に落とし甲斐がありそうな熱々の溺愛っぷりですね」
ククク、と凶悪そうな顔でこんなことを言うこの男の趣味は、拷問という名の仕事だ。
彼の名前は鬼灯。
閻魔大王第一補佐官を務めており、地獄の黒幕、鬼よりも鬼などと言われ、上司である閻魔大王からも恐れられている鬼神である。
仕事のひとつである拷問は、彼の趣味と実益をかねていて拷問中毒になっているといえよう。
鬼灯の向かいに座るのは、こちらも鬼神である。
彼とは反対に非常に温厚そうな空気を身にまとう女性だ。
彼女は桔梗。
鬼灯と同じ、閻魔大王の補佐官を務めている。
とはいっても、閻魔大王の補佐というよりは、鬼灯の補佐をすることの方が多いのだが。
2人は今、現世の視察にと、ケーキバイキングに訪れていた。
現世、ということで人間に鬼神だとばれぬよう2人はキャスケット帽を目深にかぶっている。
そうでないと頭に生える角や、ファンタジーものでお馴染みとなったエルフのような尖った耳が見えてしまうからだ。
桔梗はキャスケット帽から流れ落ちる艶やかな黒髪を後ろにさらりと流しながら、鬼灯に疑問を投げかけた。
「私達2人揃って視察なんて珍しいよね。来ちゃって大丈夫なのかな?」
「まあ大丈夫でしょう。たまにはいいんじゃないですか」
そう言ってのんびりと、目の前のスイーツの皿を空にしていく鬼灯。
鬼灯も桔梗もとても有能だ。
地獄に有能な人材が不在、ということは、だ。
もしかしたら今頃てんやわんやになっているかもしれない。
桔梗は知らぬことだが、今回の視察…実は鬼灯が一緒にスイーツを食べに行きたいと思い立って実現したことである。
だからこそ、鬼灯は知らぬふりをしてのんびり食べているのだった。
「これ、美味しいですね」
「鬼灯ったらよっぽど気に入ったのね。おかわり持ってこようか?」
「いえ、次は皿の枚数も増えますので自分で取りにいきます」
鬼灯はかなりの大食らいである。
どう考えてもダンテより食べている。
なのに、腹は膨らむ気配をみせないので、その胃はブラックホールなのではないのか…そう思う。
「あ、鬼灯。頬にクリームがついてる」
「ああ、すみません」
自然な流れで桔梗は鬼灯の頬についたクリームをナフキンで拭き取った。
鬼灯の方も顔を差し出してされるがままだ。
この2人も十分甘く感じるのは気のせいだろうか。
「む。桔梗、何を食べているのですか?」
「え、プリンだけど」
「………」
鬼灯は大食らいだが苦手な食べ物がある。
その1つがプリンだった。
いつも険しい感じのする顔だが、機嫌が悪かったり、嫌そうな顔をする時はさらに険しい顔になる鬼灯。
眉間の皺が深い谷を刻んでいる。
無言で自分の皿に向き直り、楽しみにしていたデザートに取り掛かる。
動物の耳や表情がついたマカロンに、金魚の形の練りきりだ。
鬼灯は顔に似合わず動物が大好きであり、視察の際には必ず動物園に寄って帰る。
更にいうと、地獄では金魚草というとても個性的かつ鳴き声が独特な植物を育てているのだ。
金魚の練りきりはその金魚草の顔に見えて愛着がわいたのかもしれない。
「このマカロンや練りきり………」
じっ………。
その視線が少し怖い。
マカロンや練りきりが生きているとしたら、冷や汗をダラダラ書き続けていたことだろう。
「……かわいいですね」
長年の付き合いである桔梗には、鬼灯の頬が微かに朱に染まったのがわかった。
そんな鬼灯に桔梗もつられて笑顔になる。
仕事で来たと言えども、鬼灯のこんな顔を見られただけで今回の視察は成功だと思えた桔梗だった。
次にカラフルなアイシングでかわいらしくコーティングされた小さなエクレールを紫乃は持ってきた。
アイシングごとに中身のクリームも違う味のようで、欲をかいて数種類とってきてしまった。
「ほお、ずいぶんカラフルだな〜」
休憩がてら軽食に走っているのか、ダンテがピザをパクつきながら感想を述べる。
「ダンテ、はんぶんこしましょ」
ナイフとフォークで綺麗に半分にしたエクレールを、ダンテのスイーツ皿に乗せる紫乃。
そのどれもが生クリームやカスタードクリームがたっぷりで美味しそうだった。
ピザを食べ終えたダンテが口と手を拭き、エクレールに手を伸ばす。
「ん、何を食べても美味いな」
「そうね。ピンク色のアイシングのはイチゴ味のクリームみたい。……あらダンテ、指にクリームがついてるわ」
「おっと!ハハハ、気にしてなかったぜ」
指についたクリームにぺろりと舌を這わせて舐めとるダンテ。
その仕草が扇情的すぎて、紫乃は動きを止めて凝視してしまった。
「けっこうべっとりついてたみたいだな。…ん、なんだ?」
「ううん、なんでもない!」
その赤い舌の動きでベッドでの情事を思い出してしまったなんて、間違っても言えない。
「わ、私…さっき自分でカスタマイズして作れるパフェのコーナー見つけたからストロベリーサンデー作ってくるわね!」
「お、おお…ありがとな……って、もう行っちまった…」
捲し立てるように早口で言った紫乃は素早く席をあとにしてしまった。
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