伝わる優しさ


木々も秋の色を増し、少しずつ寒くなってきたある昼下がり。ダンテの誘いで二人は散歩がてら外に出ていた。

「今日は温かいですね」

「最近、風が強くて寒い日ばっかりだったもんな」

あまりに外が寒いため、依頼以外は極力外に出ないようにしていたダンテだが、今日は珍しく温かい日で、リアラを誘って散歩に行ってみようかという気になった。ダンテの誘いにリアラは喜んで頷いたため、二人でこうして街中をブラブラしているというわけだ。
だが、散歩とはいえリアラは買い物もできるようにしっかりと準備してきたらしく、財布の中には食費がちゃんと入っているらしい。「いい物があったら買えるようにするためです」と答えた彼女に主婦みたいだと思ったのは内緒である。

「ダンテさん、市場に行ってみませんか?果物とかいっぱい出てるかも」

「そうだな、行くか」

「はい」

それでも、とても楽しそうに歩く彼女を見ていると自然と笑みが溢れて。
ダンテはゆっくりとリアラの後をついて行った。

「わぁ、きれい…!」

「野菜とかたくさん出てるな」

市場に来ると、リアラは目を輝かせた。
店には秋ならではの野菜や果物がところ狭しと並べられ、とても色鮮やかだ。多くの人々が行き交い、とても賑わっている。
ダンテはリアラの手をゆっくりと掴む。リアラは目を瞬かせ、ダンテを見上げる。

「人が多いからな、はぐれたら困るだろ?なるべく離れないようにな」

「…うん」

ダンテの優しさにふわりと柔らかい笑みを浮かべ、リアラはダンテの手を握り返す。

「何買うんだ?」

「じゃがいもとかさつまいもとか…にんじんも旬ですからね、そういうのを買いたいです。今日はシチューにしましょうか。デザートはスイートポテトにして」

「いいな、うまそうだ」

夕食のメニューを話しながら、二人は市場に入った。

「けっこう買ったな」

「すみません、おいしそうなのばっかりで、つい…」

「いいさ、作るのはお前だからな」

二時間後、市場から出てきた二人は帰り道を歩いていた。リアラは大きな紙袋を一つ抱え、ダンテも紙袋を一つ抱えている。
普段ならこんなに買い込まない彼女だが、豊富な食材を見て色んな料理を考えていたら、つい次々と買ってしまったらしい。まあ、彼女のうまい料理をたくさん食べられると思えば大したことではないのだが。
にしても、大きな紙袋を抱えて歩くリアラは大変そうに見えて、ダンテはリアラに話しかける。

「なあ、リアラ」

「はい?」

「少しあそこで休まないか?ずっとそれ持って歩くのは大変だろ?」

ダンテが指差したのは近くの公園だった。公園内の遊歩道を囲むように紅葉やイチョウが並んで立っている。
確かに、紙袋で前が見え辛くて歩きにくいし、ずっと紙袋を抱えていた腕が少し痛い。
リアラはダンテの言葉に甘えることにした。

公園に入った二人は、遊歩道の近くにあったベンチに腰を下ろした。夕方に差しかかっているためか、人はまばらだ。
遊歩道を挟むように立つ紅葉やイチョウが夕焼けにより赤く染まり、とてもきれいだった。

「きれい…」

「そうだな」

しばらくその景色を眺める二人。一言も発することはないが、むしろそれが心地好かった。
静寂が二人を包む中、寒さゆえかダンテがくしゃみをした。

「っくし!」

「大丈夫ですか?ダンテさん」

「ああ…ちょっと冷えてきたかもな」

そう言って身体を擦るダンテを見て、リアラはあることを思い出す。

「ちょっと待っててくださいね」

リアラは持っていた鞄から何かを取り出し、ダンテの方へと向き直る。

「ダンテさん、ちょっとこっち向いてくれますか?」

「ん?」

首を傾げてダンテがリアラの方に身体を向けると、ふわりと何かが首に巻かれた。形を整えると、リアラは微笑む。

「はい、これで大丈夫です」

リアラの言葉につられてダンテが視線を下に向けると、赤い物が見えた。肌触りから察するに、どうやら毛糸のマフラーのようだ。

「…これ、リアラが編んだのか?」

事務所にはマフラーなんてないし、ここ最近買った記憶もない。
ダンテの問いにリアラは頷く。

「はい。最近、ダンテさんが寒いって言うからこのままじゃ外に出なくなると思って。一週間前から編んでたんです」

どうやらいつも「寒い寒い」と呟いていたことを気にしてくれていたらしい。寒いからと言って全く外に出なくなるなんてことはないが、本気で心配してくれた彼女にダンテは苦笑する。

「悪い、ありがとな」

リアラの頭を撫でてやると、彼女は目を細めて照れくさそうに笑う。

「本当に器用だよな」

赤いマフラーを持ち上げながら、ダンテは感心する。リアラの性格が現れているのか、マフラーは編み目が真っ直ぐで、大きさまできれいに揃っている。
昔、母親から編み物を教わったことがあると以前聞いたことがあったが、まさか手編みの物を本当にもらうとは思わなかった。

「そうでもないですよ。久しぶりにやったので、少し時間がかかっちゃいましたし」

「いや、十分だ。ありがたく使わせてもらう」

「本当ですか?よかった…」

安堵の笑みを浮かべると、リアラは続ける。

「マフラー、少し長めにしてみたんです。おしゃれだし、ダンテさんに似合うと思って」

「そうか。色々と考えて作ってくれたんだな。ありがとな」

「いえ、ダンテさんが喜んでくれるならそれでいいんです」

手を組みながら嬉しそうに笑うリアラに、ダンテも思わず笑みが溢れる。
ふと、何かを思いついたのか、ダンテはリアラに話しかけた。

「リアラ」

呼ばれてリアラが顔を上げると、ダンテの手が伸びてきて、首に何かをかけられた。首元に手をやると、毛糸特有のモコモコした手触りを感じた。

「温かいだろ?」

そう言ってダンテは笑う。首元のマフラーが緩んでいるのを見るに、どうやらマフラーをずらして自分の首にも巻いたらしい。
マフラーに顔を埋め、リアラは小さく頷く。

「…うん」

再び、静寂が二人を包む。ふいに、ダンテがぽつりと呟いた。


「事務所に帰ったら何か温かいもんが飲みたいな」

「じゃあ、ココアでも作りましょうか。ハチミツ入れたらおいしいですよ」

「いいな」

顔を見合わせ、二人は笑い合う。
小さな幸せに、二人の心は温かさに包まれていた。


▼管理人より
『雪の雫』輝月雪菜様が書かれた相互記念の夢小説でした。

雪菜様宅の長編ヒロインと4ンテで、「外出中、休憩しながらひとつのマフラーを二人で巻く」という内容のリクエストを提案させて頂きました。
雪菜様宅のヒロインはおとなしくて謙虚で健気で控えめな子。
でもおじさんには甘えちゃう可愛いヒロインです。
ほのぼのしている二人に、読んでいるこちらもほんわかしました。
ヒロイン可愛い…ぎゅってしたい(笑

雪菜様、このたびは素敵な夢を執筆して頂き、ありがとうございました!
今後ともどうぞよろしくお願い致します。

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