喧嘩したって、君が好き! [1]
※夢小説作品としての時期は…
『ぱらのいあ』様では連載の『序章』編終了後、
『深淵の地平線』では連載Tのマンモン戦終了後です。
また、紫乃とディーヴァは会ったことがあり今ではお茶飲み友達ですが、お互いのパートナー(ダンテ)とは面識がない設定です。
当方のコラボ小説とは別物としてお読みくださいませ。
■ □ ■ □ ■
今日も今日とて紫乃が掃除を終えて事務所に戻ったところ、ピザの空き箱、脱いだ服が落ちているのが目に入った。
掃除したばかりの箇所に、である。
「また落ちてる…」
投げ捨てたであろう本人は、定位置にて雑誌を読んでいる。
紫乃はダンテの雑誌を取り上げると、ダンテの正面に向き直った。
「オイオイ、紫乃、今大事なところなんだ」
「ダンテ、何度言ったらわかるの?せっかく掃除してるそばからこれじゃキリがないでしょう」
雑誌を取り返そうと手を伸ばすが、紫乃の放った言葉の元に一刀両断されてしまった。
「食事を作ってるのにもかかわらずピザのデリバリーを取るのは好物なんだしこの際目をつぶる。でも、食べた後の箱を何で床に放置するのかしら。すぐそこにゴミ箱もあるし、入り切らなければゴミ袋だってあるのに」
紫乃のさし示す先をたどると近い位置にゴミ箱があった。
床に放置してもゴミ箱に入れてもそんなに距離はかわらないだろう。
そして紫乃はぐしゃぐしゃに落ちているダンテのインナーを手にとり本人につきつけた。
「それにこの服、脱いだあとその辺に投げ捨ててあるのはどうしてなの?」
珍しく目を吊り上げる紫乃には魔力の揺らぎが目に見えた。
少し怒っているようだが、ダンテの目にはそんなところすらかわいく映った。
「前に、脱いだ服は洗濯かごに入れてってお願いしたよね?ゴミもちゃんと捨てるって約束したよね?どっちも「わかった」って返事してしばらくはキチンとやってくれてたじゃない」
そんなこともあったような気もする。
「あー…あとでまとめてやればイイだろ?毎回チマチマと片付けるのはやっぱり俺の性にあわねぇ」
「約束は約束でしょ!いいからやって!」
「ハイハイ、すみませんでした。ったく、母親みてぇにうるせぇな…めんどくせぇったらありゃしねぇや…」
「…今なんて言った?めんどくさい?…もういい、自分で掃除でも何でも好きにやりなさい!」
紫乃は持っていた服を投げ付けるかのように押し付けると、魔力を展開させダンテとの間に結界の壁をつくった。
「紫乃!?」
紫乃側からダンテの姿は丸見えだが、ダンテからは見えていない。
マンモンとの戦いで見せたマジックミラーのような結界である。
紫乃との空間を遮断され閉じ込められた。
これでは紫乃に近づくことが出来ない。
それだけではなく、向こう側が全く見えない。
ダンテはまさか自分がこの結界に阻まれる側になるとは思わなかった。
おろおろと結界の前で立ち往生するダンテに、紫乃のそばにいたマハが嘲笑う。
「ククク、まぬけ顔だな」
「じゃあねダンテ。行こう、マハ」
紫乃の冷たい声だけがダンテの耳に届いた。
「お、おい、紫乃!?紫乃ーッッ!!」
叫ぶが時すでに遅し。
紫乃はもう一度展開させた『ゲート』でどこかへ移動したあとだった。
そしてこちらは同時刻のもう一つの世界…
「なぁディーヴァ、もっとオレをかまえよ〜」
ダンテがディーヴァの背中にべったり暖を取るかのように張りつく。
それに対しディーヴァはダンテの顔も見ず、教科書と睨めっこをしたまま軽くあしらった。
「今勉強中なの、あとでストロベリーサンデー作るから少し待っててくれる?」
「お、ストサン作るのか!やった!…って、そうじゃなくて」
だがダンテはストロベリーサンデー1つで釣れるほど、単純ではなかったみたいだ。
「ディーヴァ、勉強なんてどーでもいいよ、どうせ大学行くわけじゃないんだろ?それよりもっと恋人らしいことしようぜ。たとえば…何分間キスし続けられるか、とかな」
少し照れたのか尻すぼみになりながらダンテは要望を言った。
ディーヴァが聞こえないくらい小さな声を出す。
「…でも…」
「ん…ディーヴァ?」
「どうでも…」
「え?」
「どうでもいいですって!?」
ブワッ!!
ディーヴァの言葉と共に翼が出現した。
エンジェルトリガー解放である。
「うわ、びっくりした!」
「大学は確かに行かないかもしれない、でも勉強なんてどうでもいいなんてどういうことよ!?あたし卒業したいの!ダンテみたいな『バカ』にはわかんないかもしれないけど、高校は卒業するのがとっても…とっても!大変なの!!これ以上邪魔しないでよ!ダンテのバカ!そんなにキスしたかったらその辺の悪魔とでもしてなさい!キス、キス、キス!そればっかり!発情期のネコじゃないんだから盛るのはやめてよねっ」
「な…バカ…?そりゃバカかもしんねぇけど、そこまで言うことないだろ?それにオレは発情期じゃねぇ!オレを一体何だと思ってんだよ!!勉強の方がオレより大事っていうのかよ!勉強したって数学なんかどこで使うんだよ!?わっけわかんねぇ暗号なんかつかわねーよ!」
「あーうるさいうるさい!もういい、あたし出てく!もっと勉強しやすいところ探すからいいもん!」
「あーそうかよ!ご勝手に!」
売り言葉に買い言葉とはこのことか。
ディーヴァは素早く翼を体にしまうと玄関のドアへと向かった。
その時事務所内に悪魔のような気配を感じた。
「な…何?」
「悪魔か…?何でここに…」
事務所内に出現するということは、敵でないか、元人間か、よほどの上級悪魔である可能性が高いか。
ディーヴァと喧嘩しているとは言っても、嫌いになったわけではないのだ。
というか誰がディーヴァを嫌いになれようか。
ダンテはディーヴァをかばうように立った。
だが、明らかに敵意は感じられなかったため、ダンテは警戒をやめた。
しばらくすると空中に淡く輝く光の扉が現れ、そこからディーヴァの見知った姿が出て来た。
漆黒のアジアンビューティーな髪、紫色にキラキラと輝く瞳…紫乃だった。
最近出来たディーヴァの友人にして、美しい半魔の女性である。
「え、紫乃さん?」
「ディーヴァちゃん?」
ディーヴァもダンテも驚いていたが、紫乃はもっと驚いていた。
紫乃は周りをきょろきょろと見回してここがどこだか確認した。
似たような家具が置いてはあるのだが、ところどころ違う。
「あれ?私、もしかして無意識にディーヴァちゃんの世界につないじゃった?」
「主…行く場所を決めていなかったのか」
「どこか遠くへ行きたいと漠然とした考えでつないじゃったから…」
その肩に乗ったマハがあきれ顔になる。
申し訳なさそうにマハを見てからディーヴァに向き直る。
「って、ディーヴァちゃん泣いてたの?」
「紫乃さんこそ泣いた跡があるみたい…どうして?」
両者ともその目尻には涙が流れた跡がくっきりと残っていた。
「ちょっとダンテと喧嘩しちゃったの」
「あー…あたしと同じだね、今ちょうど家を飛び出そうとしてたとこなんだ」
紫乃とディーヴァで話をしているのを聞き流しながら、ダンテは紫乃をぶしつけに眺めた。
漂う悪魔の気配は紫乃と、その肩のネコから来ている。
ネコは完全な悪魔のようだが、紫乃は少し違った感じがした。
「オイ、アンタ…誰だよ、悪魔の気配がするがディーヴァの知り合いなのか?」
「知り合いというか、友人かな?」
「うん。そうだね、あたしと紫乃さんは友人だよ」
「まぁ今はいいか。言っとくけど遊びに来たんだとしてもオレ達は喧嘩中だぜ」
「今聞いた。うーん、どうしようかな、場所借りてていい?帰るにしてもこっちって違う世界だから、下手に動けないし」
「どうぞお好きに」
「ディーヴァちゃんは別にかまわない?」
「ダンテがいいならいいと思う、ここはダンテの家であってあたしの家じゃないし」
「フンッ!」
「ふーんだ!」
「あらら、ホントに喧嘩してるんだ。私はどちらかというと勝手に出てきちゃった感があるからなぁ…ありがとう、それじゃ少しの間ここにいさせてもらうわね」
紫乃はディーヴァの耳元に口を寄せるとこっそり耳打ちした。
「じゃあ、ディーヴァちゃんは代わりに私の世界に行ってる?」
「え…?」
「喧嘩してるなら行くところと言っても、外じゃ悪魔に襲われるかもしれないでしょ?」
「確かに…」
「私もこの能力があるから極力外には出たくないし」
「…じゃあお邪魔しようかな?紫乃さんの好きなダンテがどんな人なのかちょっと気になるもん」
「お互いのダンテの言い分を聞くのもいいね」
「うん、ちょっと不安だけどね…」
ディーヴァは向こうのダンテに会ったことがないため、知らない悪魔に会うようなものだと感じた。
それを話すと、紫乃は笑った。
「大丈夫、違うダンテだけど根っこはかわらないよ。喧嘩の理由が何かはわからないけどディーヴァちゃんも最終的には仲直りしたいでしょ?」
「うん…じゃあ、紫乃さんの方のダンテの話も聞いてみるね」
「ありがとう。私、ちょっと言い過ぎちゃったから反省もしてるんだけど、出て来た手前帰りづらいのよ。取り合えずお互いの気持ちが収まったら戻りましょうね!」
「うん、そうだね!」
ダンテは笑い合うディーヴァと紫乃をむすっとしたまま見ながら、大きな欠伸をした。
どうやら話はまとまったようである。
紫乃の作った『ゲート』を通ってディーヴァが行ってしまい、その場には紫乃、ダンテ、ネコのマハだけが残された。
この若いダンテからはイライラとした空気がただよってくる。
下手に刺激すると弾丸でも飛んできそうだ。
だが、紫乃は臆することなくダンテに話しかけた。
結局はダンテに変わりはないのだ、何も恐がることなどない。
「ずいぶんと怒ってるみたいね」
「まあな。アンタも喧嘩してきたって聞こえた…奇遇だな」
「ああ…うん」
「アンタ、変わった気配するよな…それでディーヴァと友人ってことは、天使なのか?でもなんか違うような…」
珍しく考えこむダンテに紫乃は苦笑する。
それを見たマハが小馬鹿にするような視線を向けた。
「貴様はバカなのか?天使の気配など、ここには皆無だ。主は貴様と同じ半魔ぞ」
「半魔!?…オレ以外にもいたのかよ。でも友人って…アンタよくディーヴァと仲良くなれたな。あいつ悪魔は恐いハズだぜ?」
「そこは…ホラ、同性だし色々あってね。それよりアンタじゃなくて紫乃だから」
「ははぁ、同性って便利だな」
ダンテは羨ましげに答えた。
興味が湧き出したのか、ダンテはキチンと紫乃に向き直って会話することにした。
好奇心旺盛なのはダンテの特徴である。
「なあ、アンタ今いくつなんだ?」
その質問に紫乃でなくマハがぶちギレる。
「貴様!女性に歳を聞くのは失礼だぞ!?それにさっきも言われたろう!アンタと呼ぶでない!」
シャシャシャッ!!
マハはダンテの顔を勢いよく引っ掻いた。
姿はネコと言えど、悪魔なためか引っ掻くよりは切り裂いたに近い。
涙目になってダンテは顔を押さえた。
いくらすぐ治ると言っても痛いものは痛い。
「いってぇ!」
「まあまあ。マハ、いいから…私は今23だよ。ダンテは確か19だっけ?」
ジワジワ治っていく傷を確かめながらダンテは更に話す。
呼び方を訂正するのも忘れない。
「アンt…じゃない、紫乃は年上だったんだな…悪い、童顔に見えた」
「外国の人と比べると日本人は童顔だもの」
「ジャパニーズか、その割には意外に背が高いんじゃね?」
「これは平均的な身長なんだけどなぁ…もしかしてディーヴァちゃんと比べてない?」
ディーヴァは155pで、意外と英語圏の人間にしてはミニマムサイズである。
「そういや、ディーヴァは背が小さいような気がする。でもオレの腕にすっぽり収まる感じがかわいいよな!抱き心地最高なんだぜ!!」
抱き締めた時の感触を思い出したのか、ダンテはその場で身悶えしながらジタバタしだした。
ディーヴァが見たらひくレベルだろう…いなくて正解だ。
「ハイハイ、ごちそうさま!」
その様子に紫乃は苦笑しか返せない。
しかし、マハは違った。
「くだらん…」
「お、バカにすんのか?やるか?」
ダンテがマハに向けてファイティングポーズを取る。
「…こいつって悪魔だよな?普通のネコの姿してるとかはじめてみたぜ!」
ダンテはそばにあった適当な物をマハの前でちらつかせた。
マハはもちろん習性で反応してしまう。
「くっ体が勝手に…!」
「ほーれほーれ、ハハハ!チョロいな」
「あのさ、実際の姿はヒョウに似てるから怒らせないほうがいいと思うよ」
紫乃が注意するもダンテは遊び続けていた。
だが、マハも沸き上がる怒りを我慢しなかった。
相手は主の愛する『ダンテ』ではなく、違う世界の若い『ダンテ』なのである。
我慢する必要もない。
「ネコ扱いするな!」
一瞬にして真の姿に戻ったマハは、ダンテの頭に勢いよく鋭い牙を食い込ませた。
「ぎゃあ!」
「あーあ、手遅れだったみたいね」
「…もっと早く言えよ」
頭からダバダバ血を流しながらダンテは呟いた。
その間もマハはダンテの頭をかじっている。
「やめなさいマハ、お腹壊すよ。ディーヴァちゃんだったら美味しそうだけど、ダンテは絶対美味しくないでしょ」
「…そうだな主」
要の言葉にマハは大人しく噛みつくのをやめ、ネコの姿に戻った。
「ちょっと待て、オレのディーヴァを狙うな!」
「ふふ、大事な友人だから食べるわけないでしょう?食べちゃいたいっていう衝動はそこまで起きなかったわ。それに冗談に決まってるじゃない」
「同じく。いくら天使だとしても、主の友人を喰らうなど夢見が悪過ぎる…」
慌てるダンテに紫乃もマハも笑った。
「ならいいけど。悪魔には冗談通じないのもいるから恐いんだよな…」
「貴方はどうなの?ディーヴァちゃんといてつらくない?」
紫乃がそう聞くと、ダンテは下をむいて深く嘆息した。
そしてしばらくたってから小さくこぼした。
「好きだから我慢してるけどさ、正直いっつもしんどいよ」
ダンテは少し前に不覚にも悪魔に重傷を負わせられた時のことを話した。
それによると、ダンテは弱り切ったことで自分の中の悪魔を呼び覚まし、我慢していた天使の力への渇望を止められなかったという。
結果、ディーヴァの了解のもと、彼女の力が溶け込む血液をもらって回復したというのだ。
その話に紫乃よりもマハが驚いた。
「なんと、天使との間に契約を結んだのか!」
「マハ、悪魔と天使の間でも契約が発生するの?」
「詳しくはわからないが少しは発生するはず、ただあの娘との場合、力強さはないからなんとも言えんが…」
「そんなシステムがあるのか?」
「主と我はその関係だ」
「ならオレはディーヴァのしもべってことになるな」
ダンテは頭の中で想い描いてみる。
うん、もはやディーヴァのしもべでもいいかもしれない。
でもちょっと待てよ…
「あのさ、ディーヴァには言わねぇで欲しいんだけど、実は初めてディーヴァに会った時、死にかけで意識のねぇあいつにオレの血をわけたんだ」
「ならば力差を考えるとお前が主で、あの娘がしもべにあたる」
「うわ。ディーヴァちゃん、かわいそう…」
紫乃はダンテに言いように命令されるディーヴァを想い描いた。
想像の中のダンテはディーヴァにいやらしいことばかり要求している。
「なんでかわいそうなんだよ!失礼だな!」
「とりあえず変なことディーヴァちゃんに強要しようとしないようにね?」
「しねぇよ!ったく…そういえばさっきの魔方陣どうなってんだよ、要の悪魔としての能力だろ?」
「ええ、そうよ。私の悪魔としての能力は空間をつなぐ『ゲート』を作ることなの」
そう言ってダンテの目の前に『ゲート』を作り通ってみせる。
ダンテはおもしろい!すげー!とはしゃぎながら自分も出たり入ったりを繰り返した。
自分の世界のダンテと同じ言動を見せるダンテに、紫乃は懐かしさを覚えた。
「へー『ゲート』ってことは魔界にもつながるのか?」
聞いてくることまで同じである。
紫乃は下手につながるとも言えないので、きっぱりと言い切った。
「つながらないので安心して」
「ならいいんだ」
「それにつながったとしても危ないからつなぎません。…だけど、今でも魔界につながるって信じ込んでいる悪魔達がいて狙われ続けてるのよ」
「うわ、ディーヴァと似てんじゃん!紫乃も大変なんだな…」
紫乃はもう必要ないだろうと思い、ダンテのために開いていた『ゲート』を閉じた。
「ところで『ゲート』とやらを通ってディーヴァはどこ行ったんだよ?」
「私の世界に遊びに行ってもらったわ」
「え、紫乃の世界?」
そう言えばディーヴァは知っていても、このダンテには説明していなかった。
紫乃は自分がどこから来たのか、どこにつながっているのかをダンテに聞かせる。
そして30代のダンテと暮らしてることも教えた。
「は?30過ぎのオレがいるのか!?」
「ええ。ダンテと私は、その…恋仲よ」
「え?オレはディーヴァ以外は愛せないはず…どういうことだ?」
始めはダンテもちんぷんかんぷんだった。
だが、並行世界、パラレルワールドをわかりやすく説明してようやく、紫乃の世界とこちらの世界が別ものだと理解した。
「私の世界のダンテがあなたの未来の姿だったら、ディーヴァちゃんが存在してないのはおかしいでしょう?」
「まぁな。オレがディーヴァを守りきれない未来があるわけないし」
「ふふ、自信たっぷりね」
「30代っつっても、オレが相手なんだろ。オレはディーヴァ一筋だからな。惚れんなよ?」
ダンテは自分で一番かっこいいと思う角度で紫乃を見ると、ニヤリとニヒルな笑みを浮かべた。
それに対して紫乃は1つも赤くなることなく、スッパリと言い切った。
「ご心配なく。貴方もかっこいいけど、私が好きになったのは私の世界のダンテだから。私から見た貴方は元気が有り余ってる若者にしか見えないわ」
「歳、4つしかかわんねぇだろが…」
でもやっぱりダンテだ。
このころからやはり根本的なものは何一つ変わらないってことかもしれない。
きっとこのダンテも成長したら同じような悪魔を憎む正義の心と魂を持つダンテになるのだろうと思う。
世界が違ってもかわらない何かがそこにはあった。
「その格好も若さの象徴ね」
続いて紫乃はダンテの服装に着目した。
まっかなコートは紫乃の世界のダンテも同じだ。
だが、コートの中には何も着ておらず、素肌が外気にさらされている。
さっきから何だか寒気を少し感じる紫乃にとってそれは見ているだけでも凍えそうだ。
マハはあえて言葉にしなかったが、若いというよりかは頭が弱そうな奴の格好だと思った。
「寒そう、中にも服着たら?体冷やすといくら半魔でも腰痛になるわよ。よくディーヴァちゃんがそんな服直視できるわ」
「慣れたんだろ」
「…慣れってこわい…」
ディーヴァはデートの時以外ダンテの格好についてもはや何も言わないらしい。
尊敬にあたいすると同時にディーヴァが着々とダンテに感化されていっている気がして不安になった。
ダンテが話を戻した。
「ん、ちょっと待てよ、結局オレが相手ならディーヴァとられちまわねぇ?うわぁぁぁ!大変だ!!ディーヴァがオレだけどオレじゃない他のオレに取られちまう!」
「もう!さっきの話ちゃんと理解したんじゃないの?違う世界なんだからそれはないでしょう!」
ダンテは半狂乱になってその場を走り回った。
その行動は完全に子供である。
こいつバカだ、マハはそう思った。
「それに貴方だって浮気する気はない、ちがう?」
「当たり前だろ、オレはディーヴァ以外好きになることなんてない!」
ようやく落ち着いたダンテは立ち止まる。
「私のダンテだってそうよ、浮気なんてしないわ。…まったく、そんなに好きなのに喧嘩したの?」
「紫乃んとこだって喧嘩してたんだろ」
「まぁ、そうね…」
思いだすとなんだかむかむかしてきた。
いくら好きになった相手とて、あの行動は許せない。
紫乃はダンテにマシンガントークよろしく、自分の世界のダンテの愚痴を言い始めた。
片付けをしない、ゴミを散らかす。
おまけに服も投げ捨てる。
ちゃんとやると約束したのにやらない。
しかも何度も同じことの繰り返し…
ダンテも人のことはいえないので(というより未来の自分だが)、紫乃の話を身を縮める思いで聞いたのであった。
それによると向こうの世界の自分はかなり紫乃にゾッコンであるとうかがえた。
悪戯ばかりして毎回家事の邪魔をしてくるらしい。
そのことに関しても紫乃はかなりダンテに愚痴を話した。
「嫉妬深いし、自分のいいようにさらりと持ってくし。私、いつも流されちゃうのよね。…貴方ももしかしてそうなんじゃない?」
触らぬ神に祟りなし、いやこの場合は触らぬ半魔に祟りなしか。
我関せずと大人しく聞き専に回っていたダンテに、ここで紫乃が探りを入れた。
「嫉妬はするさ。でもディーヴァをいいように流すとか…やれるならやりたいぐらいだぜ」
驚いた。
同じダンテでもここまで違うものなのだろうか。
ディーヴァにキスをしたかどうかは聞いたのだが、経験の有無を聞いてはいなかった。
ダンテのような人が相手で、まだしていなかったという事実に目を丸くする。
別に自分が大事にされていないという意味ではないが、このダンテはディーヴァをとても大切にしているようだ。
触れれば壊れるガラスのように思っているらしかった。
一度始めてしまえば、その勢いで悪魔としての自分も目覚めてしまうと危惧しているのだ。
自分のところのダンテとは違ってなんと我慢強いことか。
それでもキスのその先へ行きたいという思いは変わらないと若いダンテは述べた。
「毎日、ディーヴァとしてる夢まで見る始末だ。現実でもそうかもしれねぇが、一日中しててもきっと飽きないぜ」
一日中とはすごい。
私のところのダンテも飽きないとか言いそうだがきっとここまでではないだろう。
そして、ディーヴァの腰はそこまできっともたないと予想できて心配でたまらない。
紫乃はダンテのその想いに苦笑するしかなかった。
「若いなぁ…」
「紫乃のとこはどうなんだよ」
にやにやしながら尋ねるダンテに紫乃はしどろもどろになった。
「えっ!その…ね、年中求められてます…」
「盛りのついた獣は目の前のこいつより、あやつの方だと我は思うぞ。この間なんかは昼間から…」
「マハ!?」
突然のマハの介入に紫乃は赤くなった顔を手で覆う。
ダンテはさらにニヤついた顔をし「昼間からかよ、ずりぃな」と紫乃を冷やかした。
「わ、私のことはいいのよ、そんなにディーヴァちゃんを好きなら他の人としたいとかはないんでしょう?」
「はぁ?ディーヴァ以外となんて考えられねぇよ!」
「じゃあ、どんなにつらくてもしばらくは我慢するしかないんじゃないかしら?」
紫乃の言うことは正論である。
「待ってあげて。…ディーヴァちゃんは恐いんだと思う。もう16だから興味がないわけじゃないだろうけど、行為に対してはまだ早いと思うの。心も、体の方も。ゆっくり感大な気持ちで構えてたほうがいいんじゃない?」
「うー…わかった。ディーヴァの心の準備ができるのをじっくり待つとするか」
「がんばって」
なんだか若いダンテにこんな助言をするのも不思議な話だ。
若いダンテとディーヴァちゃんの行く末が幸せでありますようにと願った。
「ディーヴァちゃんがお酒を飲める年齢になるころにはきっと心の準備ができてるわ」
「酒か…最近飲んでねぇな」
本当を言うとここアメリカでは、18以上成人で飲酒は21からである。
そのためダンテは本当をいうならば飲酒は禁止だ。
だが、ここはスラム街、ディーヴァも目をつぶっているようだし紫乃も目をつぶることにした。
ちなみにディーヴァは今16歳、それだとダンテはあと5年は待たなくてはいけないことになる。
(あ、皆様は未成年でしたら飲酒はどうかお控えくださいませ)
「飲みてぇな…飲む機会はあったんだが、ディーヴァと飲むって約束してから一滴も飲んでねぇんだ」
「偉いわね。じゃあ代わりにあれならどう?ストロベリー…」
「サンデー!!腹も減ってきたし、そういうのならありだぜ」
「じゃあパパッと作りましょうか」
キッチンを拝借して冷蔵庫の中身をチェックする。
中には沢山の食材とお手製のソース類が揃い、ディーヴァが普段からダンテに食事を作っているのがうかがえる。
そして思った通り、サンデーの材料が一番目につくところに揃っていた。
紫乃はサンデーを手早に作った。
「うお、ディーヴァのに負けず劣らず美味い」
「よかった」
「…けどなんか違う」
ダンテは何が違うのか良く分からなかった。
だが何だか無性にディーヴァの味が恋しくなった自分に気がついた。
紫乃はそれをわかっていたようだ。
「味が違うのは当たり前よ、ディーヴァちゃんのは愛情がたっぷり入ってるんだもの。ディーヴァちゃんが戻ってきたらまた作ってもらえばいいじゃない」
「うん」
素直にダンテは頷いた。
空のパフェグラスを脇に、会話の内容はダンテがどれだけディーヴァがかわいいかという物に変わった。
マハは聞きあきたのか既に紫乃のひざの上で就寝中だ。
ディーヴァのことを話すうちに会いたくなったダンテは突如として叫んだ。
「うおー!ディーヴァー!大好きだーッッ!!」
「きゃあ!びっくりしたぁ!」
「人が気持よく眠っている時に叫ぶな!」
紫乃は心臓が飛び出そうなほどびっくりしたし、マハは飛び起きて怒った。
「ってことはもう怒ってないのかしら」
「ああ。怒ってても、ヒドイこと言われてもディーヴァを許さないままなわけないだろ?」
ヒドイこととは初耳である。
『バカ』と言われたらしい。
バカかあ…
図星だったから余計怒ったのかもしれない、そう思ったが紫乃は口にしなかった。
「喧嘩の理由聞いてもいい?」
「は…?勉強してるディーヴァちゃんの邪魔したあげく、勉強なんてどうでもいいなんて言った?」
今一番ディーヴァが優先していることは学生生活である。
前に会った時に紫乃はディーヴァ本人に聞いた。
彼女は『学生の本分は勉学』というのを素でいっているのような女の子なので禁句に違いない。
「そりゃ怒るわね…ディーヴァちゃんはどうしても卒業したいって言ってたんでしょう?ならそれを応援してあげなくちゃいけないわ」
「そうだよな、今は反省してる。でもディーヴァもディーヴァだ。オレのこと盛りのついたネコって言ったんだぜ、ヒドくねぇか?盛りのついたネコって…つまり誰とでもヤっちゃうみたいに言ってるようなもんだろ。オレはディーヴァにしか反応しねぇっつの」
人はみかけによらないものだ。
軽そうな見た目と言動が目立つダンテだが、彼は浮気もよそ見もしない。
ディーヴァもよく知っているはずなのに、きっと感情にまかせて言ってしまったのだろう。
「そうね、それはディーヴァちゃんも悪いかもしれないわ。でも勉強中はピリピリしてるだろうから、終わったあとでいっぱい甘やかしてもらえばいいのよ」
私の方もかなりの頻度でちょっかいかけてくるからディーヴァちゃんの気持ちもわかるけどね。
最後に紫乃はそう付け足した。
ぶるり。
紫乃は日が陰って来たからか少しばかり寒さを感じた。
「それにしてもここ寒いわね」
ぎゅっとマハを抱きしめて暖をとる。
マハも相手が主だからか何も言わずされるがままだ。
「そりゃ、1月だからな」
「1月!?私のところは夏まっさかりなのに…」
「だからそんな薄着してたのか」
紫乃の格好は1月にはおよそ似つかわしくないほどの薄着である。
裾こそ長いが、白いシャツワンピースは薄手の素材でできているようだし、上にはシースルー素材のカーディガンを一枚ぺらりと羽織っているに過ぎないのだ。
おまけに裾からは白い生足が見え隠れしている。
1月にこの格好じゃ寒すぎるだろう。
紫乃は小さく咳こみながら傍にあった暖房に手をのばした。
「暖房入れさせてもらうわ…」
「いい、オレがやるから座ってろ。もしかして紫乃ってオレと同じ半魔なのに体調悪くなりやすい?」
「季節の変わり目なんかよく風邪になるけど…」
「へーオレなんかめったに風邪ひかねーからな…」
「半魔ってことは半分人間なんだもの、風邪くらいひきます」
「主、こいつの半分は人間でなくきっとバカなのだ。バカは風邪ひかないというしな」
「なんだと!?」
マハがこっそりと紫乃に耳打ちした。
だが、ダンテには聞こえていたようで憤慨している。
「やめなさいマハ。というか、私は貴方の格好を見てるだけで寒いわ」
「あ、そうだ。ちょっと待っててくれるか」
ブルッと身を震わす紫乃を見かねたダンテが席を外し、奥に引っ込んだ。
数分後、ダンテはふわふわの布とおぼんを持ってきた。
おぼんの上にはマグカップが2つ、皿が1枚乗っているのが確認出来る。
紫乃はひざかけとマグカップを渡された。
「ひざかけとホットチョコレートだ」
「ありがとう」
柔らかな色合いのひざかけからは、香水のような匂いのきついものとは違い、優しい花の香りがしていた。
きっとディーヴァが好む柔軟剤であろう。
湯気をあげるマグカップからは甘い香りが漂い、中にはマシュマロが浮いていた。
「ディーヴァがよく作ってくれるんだ」
ダンテはひっかかれたり噛みつかれたりしたのにマハにも用意していたようで、ミルクの注がれた皿をマハの前に置いた。
紫乃のところのダンテも優しいが、こちらのダンテもとても優しい。
こんなところにディーヴァはときめいたのかもしれない。
淹れ立てのそれをふうふう冷まして飲みながら紫乃はそんなことを思った。
「あ、マシュマロが口の中で溶けて美味しい…ほっとするわ」
「ああ、なんかこれ飲むと心がほっとするよな…ディーヴァが淹れてからオレの好物の1つになったんだ」
「ふふふ、ダンテは全員甘いもの好きじゃない。冬になったら私もマシュマロいりのホットチョコレート作ろうかな…」
「そうしたら?オレだったら喜ぶぜ!好きな女が作ってくれたモンならなんだって嬉しいもんだ。それより、紫乃は風邪がひどくなんねーうちに早く帰った方がいいんじゃね?」
「うーん、そうね…私が『ゲート』をつながないとディーヴァちゃんだって帰ってこれないもの。私の中でもう少し怒りとか考えが落ち着いたら帰ろうかしら?それに貴方もディーヴァちゃんに会いたいでしょうし」
「げ、まだ許してなかったのかよ」
「ダンテったら怒ってもすぐ忘れておんなじことするんだもの。少しお灸を据えないとわからない。貴方も気をつけた方がいいわよ、ディーヴァちゃんに愛想つかされない内にね」
紫乃に言われるとディーヴァに言われてるような気分だ。
ダンテは身震いした。
「サンキュ、肝にめいじとく」
とたっ!
「わー…ほんと便利……って、何これ暑い!」
ディーヴァが紫乃の住んでいる世界に降り立つと、むわっとした熱気が顔に当たった。
それ以上に体から汗が噴き出る。
予想以上に暑いのは当たり前だ。
ディーヴァは今、もこもこのセーターを着込んでいるのだ。
そして壁にかけられたカレンダーを確認すると真夏の真っただ中である。
火照る顔を手うちわであおぎ、周りを確認する。
すると、 ディーヴァが通ってきた『ゲート』が消えるとともに、目の前にあった魔力で出来ているであろう壁が消え去っていくのが見えた。
その向こうに胡坐をかいて座りこむ赤いコートの男性がいるのが目に入る。
「やっと壁が消えたか…ん?お嬢ちゃんは誰だ」
紫乃が消えたと思ったらそこにいたのは少女だった。
悪魔かと一瞬思ったが、この気配は違う。
違和感がびんびんと伝わってくる。
紫乃が好きなはずなのに妙に惹かれる何かをこの少女に感じダンテは困惑した。
だが、我慢できないほどではないのが救いであろう。
そしてなぜ自分がそんなことを思うのか全くわからなかった。
困惑するダンテをよそに少女が話しかける。
「えっと…はじめまして、ディーヴァと申します。もしかして…ダンテ、さん?」
「ああ、俺はダンテだが、今どっから来た?…妙な気配してやがるな」
ダンテは一瞬で相棒を構えた。
それはディーヴァのよく見知った物と同じだが、よく使いこまれて傷も目立っていた。
銃口を向けられてディーヴァの表情が固まる。
ひぇ〜、ど…どうやって説明しよう。
あたしの世界はあたしが説明出来たからいいけど、ここには紫乃さんいないし…なんて言っていいかわかんないよ!
「紫乃さんの友人…です。えへ!」
ディーヴァは両手を上げた状態で、へらりと笑ってあいさつした。
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