着て見て食べて楽しもう[3]


 夕方になり、西の空が茜色に染まり始める時刻。
 四人は京都をあとにし、紫乃の実家へと戻っていた。今夜の夕食はディーヴァと紫乃が作り、この家でお泊りをすることになっている。

「んー、楽しかったなぁ!」

 秋葉原でコスプレをしたり、お好み焼きを食べたり、京都で寺院巡りをしたりと、初めてのことだらけでディーヴァは満足そうに笑んだ。

「お昼いっぱい食べたのに、もうお腹が空き始めちゃった」

「ディーヴァは食いしん坊だな。晩メシもチーズいっぱい入れるのか?」

「うん、食べたいね!」

「そのうち身体がチーズみたいにとろけて伸びるんじゃね? あ、胸はチーズ以上にやわらかくて気持ちいい……」

「ダンテー! 変なこと言わないの!」

 にまにまと緩んだ表情を見せる若に、ディーヴァが慌てて言葉を遮る。まだからかおうとする若はディーヴァから逃げ、それをディーヴァが追いかける。
 微笑ましい二人に髭が楽しそうに笑うが、ふと視線を周囲の木々に移す。既に嗅ぎ慣れた、しかし気分の良いものではないその臭い。

「ふむ……あんまり外ではしゃいでるから野次馬が集まってきたようだ」

 若とディーヴァは立ち止まり、紫乃も髭の視線の先を見やれば、家の周囲を囲むようにして立つ木々の合間から何体もの異形が飛び出した。
 姿を現したのは、蜘蛛型の悪魔アルケニーと、大きな爪と丸い盾を持つ爬虫類型の悪魔アサルトだった。

「おいおい、日本って安全な国じゃなかったか!?」

「えっと……昔、一度悪魔が出たことがあって……その影響かしら……」

 冷や汗を流しながら若が叫ぶと、紫乃が少し困惑した様子で悪魔を見つめる。
 若はディーヴァを守りつつ紫乃達のところへ戻る。あと少しで合流出来るところで、ディーヴァが思いきり体勢を崩して倒れた。

「きゃあ!」

 突然足が自由がきかなくなった。ディーヴァは自分の足元を見れば、白い糸が巻き付き、その糸を辿っていけば一体のアルケニーがいた。女性的な外見のせいか不気味な度合いが増しており、視線が合っただけで背筋に寒気が走る。
 そうしている間にも、アルケニーはさらに糸を吐き出し、ディーヴァをからめとる。

「ディーヴァ!」

 若は慌ててアルケニーの吐き出した糸をちぎろうと手を伸ばすが、それより一瞬早くアルケニーがディーヴァに飛びかかり、カマキリのような前肢で身動きの取れないディーヴァを掴み上げ、素早くその場を離れた。

「や……やだ……ダンテ!」

 ディーヴァが目尻に涙を浮かべて若に助けを求める。
 ディーヴァを捕らえたアルケニーの真下に、淡く光る何かが現れた。次第にはっきりしてきたのは、まるで食虫植物に似た異形。花が蕾に戻るかのようにその『口』を閉じると、捕らえられたディーヴァはアルケニーともどもその異形に飲み込まれてしまった。

「ディーヴァ!! くそっ……」

 すぐ近くにいて何も出来なかった己に、若は憤りを感じた。目の前で悪魔に捕られるだけではなく、連れ去られてしまった。

「若いの、嘆くのは早いぞ」

 拳を強く握り締めて歯を食いしばる若にリベリオンが差し出された。髭が、玄関に立てかけていた自分と若のリベリオンを持ってきたのだ。
 観光旅行には必要ないものだが、いつもの癖でダンテ二人はリベリオンを事務所から持ってきていた。
 ちなみに、エボニー&アイボリーは銃ということで紫乃の許可が下りなかった。いくら住宅街から少し離れているとはいえ、盛大に銃声を鳴らせば確実に通報されてしまう。

「ディーヴァを飲み込んだのはフォルトっていう悪魔だ。直接的なダメージはないが、悪魔の巣食う異界に送られる」

 髭の言葉を聞いて、若は青ざめた。ディーヴァは戦う術を持たないので、そんなところに送られても危険しかない。

「今なら間に合うかもしれねぇ。こっちは任せろ」

 そう言って、髭は若にリベリオンを握らせると、フォルトが姿を現すタイミングを見計らって飛び立った。

「ディーヴァをしっかり守ってこい」

 若は髭のその言葉をしっかり聞き取ると、フォルトの口に飲み込まれた。

 * * *

「──きゃんっ!」

 どさり、と落下した衝撃がディーヴァを襲った。地面に叩き付けられたわけでもないので、あまり痛くはない。
 それよりも、蜘蛛の糸で絡め取られ、アルケニーに掴み上げられている方が恐ろしかった。虫嫌いのディーヴァにとって、これほど大きく、すぐ近くに蜘蛛がいるのだ。恐怖を感じないわけがない。
 フォルトに飲み込まれて送られた先は、見たことのない場所だった。何かの洞窟のようであり、穴の開いたところからは光が差し込んでいる。紫乃の家でないのは確かだ。

 ──体の自由がきかない。
 粘着性のある糸のおかげで、糸から抜け出そうともがいてもびくともしない。
 抵抗を続けていると、近かったアルケニーの顔がさらに近くなった。目は血のように赤く、頭部や体躯は人形のように白い。不気味なくらいはっきりとしたコントラストに、ディーヴァは戦慄を感じた。

「やだっ……いや……ダンテ!」

 助けてほしい。
 そう強く思った直後、どさりと何かが落ちてくる音が聞こえた。そちらを見れば、たった今心に思い浮かべた相手が痛そうに臀部をさすっている。

「いてぇ……」

「ダンテ!」

 名前を呼ばれて若が振り返れば、白い糸に絡め取られたディーヴァがこちらを涙目で見つめていた。

「ディーヴァ! アルケニー、てめぇさっさとディーヴァを放せ!」

 若はすぐに体勢を立て直してリベリオンを構える。
 一方、アルケニーは若が現れたというのに彼を見向きもしなかった。どうやら、ディーヴァを捕らえて注意力が散漫しているようだ。
 そんなアルケニーに斬りかかれば、簡単に倒せてディーヴァを解放することが出来た。

「ダンテ! ダンテ……!」

 糸から解放されると、ディーヴァは飛びかかるように若に抱き付き、怖かったと泣きじゃくる。

「間に合って良かった……怪我はないか?」

 嗚咽で上手く言葉が出てこないので、ディーヴァhはこくこくと何度も頷いて答えた。

「そっか、良かった」

 若はディーヴァの頭を優しく撫で、落ち着くまで泣かせてあげようと思ったが、そう出来ない理由があった。

「ディーヴァ、悪いがちょっと離れててくれねぇか? 先にこいつらを片付けねぇと」

 若とディーヴァの周囲には、何体もの悪魔が蠢いていた。
 スケアクロウが四体、アサルトが二体、キメラシードが三体。アサルトはこの場所に送られる前にいたが、他の二種類の悪魔は見たことがない。
 若はディーヴァを自分の後ろに立たせ、リベリオンの柄を握り直し、まずは近くにいるスケアクロウを一体倒す。スケアクロウが弱いことは、外見や動きでわかる。
 そんなスケアクロウよりも遅い動きをしているのがキメラシード。黒い木の根を思わせる容貌で、悪魔にしてはのろまな奴だ、すぐに倒せる、と若が先にアサルトを相手にしようとした時だ。

「なっ……」

 今までゆっくりとした動作で動いていたキメラシードが突如、素早い動きで近くにいたアサルトに飛びかかった。その後間もなく、キメラシードはアサルトに取り付き、キメラ・アサルトへ変貌を遂げ、媒体となったアサルトの動きとは別に刃を振り回し始めた。

「他の悪魔にくっついて何しようってんだ?」

 若は気にすることなくキメラ・アサルトに飛びかかる。リベリオンを振りかざせば、斬られてダメージを負ったアサルトは躊躇する動きを見せたが、アサルトに取り付いたキメラシードの刃は怯むことなく若を襲う。

「何……!?」

 元々動き回るアサルトと、そのアサルトとは違う動きをする刃が、若を踏み止まらせた。

「……どうなってんだよ……」

「もしかして、あの黒い根っこみたいなやつって、他の悪魔とくっつかせたら駄目なんじゃない?」

 単体では鈍い動きだが、他の悪魔に取り付くと刃を振り回す。
 一度見ただけでそのことに気付いたディーヴァに、若は称賛の言葉を贈る。

「やっぱディーヴァは頭いいな。ってことは、まだ他の悪魔にくっついてない奴を先に倒した方がいいってことか」

 他の悪魔に取り付いていないキメラシードはあと二体。キメラ・アサルトがディーヴァへ向かわないよう自分に注意を引きつけると、若はキメラシード二体を先に片付けた。

 あとは、スケアクロウ三体とアサルト一体、そしてキメラ・アサルト一体だ。
 スケアクロウは難なく倒せ、アサルトも大きな爪に注意を払いつつ倒していった。残るはキメラ・アサルト。二つの悪魔が一つになり、それぞれ違う動きをするため、注意が必要だ。

「ダンテ、大丈夫?」

「心配すんな。テメンニグルの悪魔どもに比べたら可愛いレベルだ」

 ディーヴァを守れるのは自分しかおらず、ディーヴァは自分を信じて頼りにしている。それだけで力が湧いてくる。
 若はキメラ・アサルトへ向き直り、改めて剣先を一つとなった悪魔へ向けた。

「せっかくの誕生日に茶々を入れるなんてお前らも野暮だな。こんな日はおとなしくしておくってのがマナーってもんだぜ」

 若は低級悪魔に言っても言葉を理解しないことは承知している。しかし、ディーヴァの誕生日を台無しにしかねない悪魔の登場は許しがたかった。
 若は地面を蹴り、キメラ・アサルトへリベリオンを振りかぶった。

 * * *

 一方、髭はリベリオンを、紫乃は守り刀の短刀を使い、家の前で悪魔達を倒していた。

「それにしても、普段は悪魔なんて出ないのに、どうして今日は出たのかしら?」

 紫乃が首を傾げると、髭はぽつりと漏らした。

「天使に反応した、とか」

「ディーヴァちゃんに?」

「天使は悪魔にとっちゃご馳走だしな」

 言われてみれば確かにそうだ、と紫乃は思った。悪魔にしてみれば天使は格好の獲物である。そのご馳走を、貪欲な悪魔が見逃すはずがない。

 髭と紫乃は、次々と悪魔を倒す。攻撃を受けて息絶えた悪魔の血液は流れ落ちる前に結晶に変化し、肉体共々砂塵と化す。
 時折フォルトが二人の足元に現れるが避けることは難しくはなく、飛び退いてフォルトが姿を現したところを狙えば良い。

「獲物の真下に現れるなんて羨ましいぜ」

「どうして?」

「だって紫乃がスカート履いてたら──」

「もう! こういう時に何考えてるよの!」

 戦闘の最中だというのに、この男の頭の中は相変わらずピンク色だ。訊くんじゃなかった、と紫乃が呆れて溜息をついた時、背後に気配を感じて振り返れば、アルケニーの赤い目と視線が合った。
 その直後、白い糸が紫乃を襲う。

「やっ……!」

 瞬時に糸に絡め取られ身動きが取れなくなった。おまけに優勢と踏んだアルケニーが飛びかかってきたので紫乃は地面に倒れ、アルケニーは鎌状の前肢を振り上げる。

「紫乃!」

 アルケニーの前肢が振り下ろされ、痛みを覚悟した。しかし、その前肢が紫乃を切り裂く前にアルケニーの動きが止まった。
 やや離れたところでアサルト達の相手をしていた髭が一瞬で距離を詰め、アルケニーを一撃で砂に帰したからだ。

「大丈夫か?」

「うん、ありがとう」

 髭はリベリオンの剣先で糸を切って紫乃を解放させると、彼女の手を引いて立ち上がらせる。

 改めて周囲を見回すと、悪魔の数はあと三体までに減っていた。倒した数は髭が多く、紫乃は近寄ってくる悪魔を倒す程度。
 デビルハンターとしての技量も経験も髭の方が圧倒的に勝っている上、短刀ではリベリオンのリーチの良さにかなわない。そのため、どうしても倒した数に差が出てしまうのは仕方がないのだが。

「やっぱり短刀じゃ不利だわ。リベリオンには負けちゃうね」

 紫乃も魔具を所有しているのだが、今日はアメリカの事務所で留守番をしてもらっているので、日本には連れてきていない。

「だが、切れ味は恐ろしくいい。リベリオンよりも切れるんじゃねぇか?」

 元はただの短刀だったが、魔力が込められているため、切れ味に磨きがかかっているように感じられる。切れ味はリベリオンより上かもな、と髭が笑えば、紫乃も笑みがこぼれる。
 それからしばらくもしないうちに地上の悪魔全てを倒し終えた二人は、周囲の気配を探ってみた。そろそろ若とディーヴァが戻ってきても良い頃だ。

「お、帰ってきたようだ」

 少し離れた場所の空間が揺らいだ。奥の景色がぐにゃりと歪み、異界へ飛ばされた若とディーヴァが姿を現した。

「よっ、と」

 若がディーヴァを横抱きにした状態で戻って来た。

「おかえりなさい。二人とも大丈夫?」

「ああ。怪我ひとつしてねぇぜ」

 戻ってきた二人を紫乃が気遣えば、若が自信たっぷりに答え、ディーヴァを下ろす。

「悪魔が出たのって……あたしのせい、かな」

 少し気落ちした様子のディーヴァがぽつりと呟いた。
 過去に一度悪魔が現れたことがあるとはいえ、以降はずっと現れなかった。それなのに今日突然現れたということは、天使の血族の自分が来たからではないのか。
 そんな自問自答を繰り返していると気が滅入ってしまい、思考がどんどん悪い方向へと向かってしまう。

「──そのことは俺もそう思った」

 髭が答えれば、俯いていたディーヴァがハッと顔を上げ、不安と困惑の入り混じった表情を見せる。

「確かに天使は悪魔にとってはこの上ないご馳走だ。ましてや戦う術のないお前は格好の獲物だろうな」

「おっさん!」

 ディーヴァは天使で、戦う術を持たない。悪魔にしてみれば、ただの人間よりも喉から手が出るくらいに欲する相手だ。
 現実を告げる髭の言葉はそのとおりだ。けれど、自分を責めるディーヴァに正面きってわざわざ不安がらせることはないだろう。
 若が耐えきれずに口を挟んだが、髭は構わずに言葉を続ける。

「でもな、だからといってこいつがお前をいきなり襲ったか?」

 ディーヴァは首を横に振る。

「半分悪魔だから本能でお前に迫ることもあるだろうが、理性で抑えて我慢してると思う」

 髭が若をちらりと見れば、若は「そりゃもちろん」と言いたげに髭を見つめ返す。

「こいつはお前が好きで、さっきもお前を追いかけて助けに行ったんだぞ。それだけ大事に想われてるってことだ」

 ディーヴァはアルケニーに捕らえられてフォルトに飲み込まれた時のことを思い出した。
 そう、異界へ送られてすぐに若が来てくれたではないか。

「だから、自分のせいで悪魔が出たなんて思わないでくれ」

「そうよ、ディーヴァちゃん。あなたのせいなんて、誰も思ってないの」

 紫乃はそう言い添えると、小声で若を呼び、ディーヴァに話しかけるよう勧めた。自分や髭より、若が言う方が良いからだと考えたからだ。

「ディーヴァ、お前のせいじゃない。悪魔なんて俺が全部倒してやるから気にすんな」

「……ダンテ……」

 不安と困惑の混じったディーヴァの表情が安堵でやわらぎ、ようやくにこりと笑む。それを見て、一同もほっと胸を撫で下ろした。

「さて、早く家の中に入りましょう。夕食の準備しないと」

 今夜はディーヴァの好きなグラタンを作るのだ。そのことを思い出したディーヴァは、耳聡く聞き取り、反応を示した。

「グラタン! いっぱい作るの!」

 もちろんチーズをたっぷりかけて。
 ディーヴァの気分が一気に上昇したことに、三人は思わずふき出した。

「ディーヴァは相変わらずチーズが好きだな。そのうち主食がチーズになるんじゃね?」

「そのあとデザートだろ? あとで泣いても知らねぇぞ」

 若と髭がからかうように言えば、ディーヴァは口を尖らせて言い返す。

「ふ、増えたら減らせばいいもん!」

「増えた分は胸にいくよう祈っとこ」

「ふむ……紫乃もチーズいっぱい食え」

 若はディーヴァを、髭は紫乃を見てニヤニヤと笑う。

「そ、そんな都合良くいくわけないでしょ!」

 紫乃はわずかに赤面すると、この話は終わりよ、と区切りをつけてディーヴァの手を引き、玄関の戸を開けて中に入る。そんな反応を楽しんだダンテ二人は顔を見合わせ、再度笑った。

「おっさん、紫乃の胸でかくしてやれよ」

「任せろ。ディーヴァのサイズを目標にするぜ」

 ダンテ同士意気投合したあと、二人は恋人のあとを追って玄関へ向かった。

 * * *

 夕食はディーヴァの好物であるグラタンやチーズ料理がメインで、デザートには林檎などのフルーツを飾ったバースデーケーキ。ケーキにはしっかり蝋燭を立て、ディーヴァが火を吹き消した。

「ハッピーバースデー、ディーヴァ」

 お祝いの言葉を若が真っ先に告げると、ディーヴァは嬉しそうに満面の笑顔になった。

「ありがとう!」

 ケーキを均等に切り分け、四人はわいわいと話に花を咲かせて大いに盛り上がった。
 その後、夜も遅い時間になるのでディーヴァと紫乃は男性達よりも先に一緒に入浴することになったのだが──

「ちょっと! 何覗き見してるのよ!?」

「二人とも最低!!」

 男性は悲しいかな、欲求には素直で忠実な生き物だ。若と髭は浴室へ向かい、中にいるディーヴァと紫乃を一目見ようと覗きを決行したのである。
 だが、気配を絶ったはずであったが、視線に気付いた紫乃に見つかってしまったわけだ。

「いや、お泊りに覗きイベントは定石だろ」

「そうだぞ。覗かないと男が廃る」

 反省するどころか開き直るのだから始末が悪い。言葉だけでは反省の色を見せないだろう。紫乃はそう思い、少しばかり魔力を若と髭がいる場所へ向ける。
 その直後、

「ちょっ……何だよこれ!?」

「……やべ……」

 若は慌て、髭は焦りの声を発したのち、浴室の前から彼らの気配がなくなった。

「……紫乃さん、二人を何処に……?」

「しばらく外で頭を冷やしてもらいましょう」

 紫乃は魔力を操り、空間を繋げて『ゲート』を通ることが可能だ。普段はドアのように地面に対して垂直方向に『ゲート』を開くのだが、それを応用して落とし穴のような地面に対して平行に開くことも出来るようになった。
 そのため、若と髭はまさに落とし穴状態となった『ゲート』に落ち、別の場所へ送られたというわけである。その送り先は玄関先で、すぐに戻ってこられないよう家自体をしっかり亜空間の壁で閉じた。
 そうすれば、紫乃が壁を解除しない限りダンテといえど入ってこれない。

「二人には悪いけど、こうでもしないと反省しそうにないから」

「そうだね」

 強硬手段には出たくなかったけど、と紫乃が溜息をつくと、ディーヴァは苦笑して頷いた。
 静かになった浴室で、ディーヴァと紫乃はゆっくりと入浴を楽しんだ。


「あー……家自体が閉じられてる」

 玄関先に転送されたダンテ二人は、目の前に玄関があるのに亜空間の壁に阻まれて立ち尽くしていた。
『ゲート』で空間を繋げられる、亜空間の壁で出入りが不可能になる。そんな紫乃の能力を知っていた髭だったが、まさか『ゲート』を落とし穴にして転送されるとは思ってもいなかった。

「ディーヴァもそうだが、紫乃も怒ると怖いんだな……」

「まさか『ゲート』を落とし穴に応用しちまうなんてな……」

 昼間以上に調子に乗りすぎた、と二人はようやく反省し、紫乃が壁を解除してくれるのを待つしかなかった。
 そんな二人も恋人に謝って許しを貰い入浴を済ませ、就寝時間を迎えた。
 カップル同士相部屋で二つの部屋で寝ることも考えたが、結局四人集まって寝ることになった。
 翌日も休日ということもあり、四人は雑談で盛り上がり、結局就寝したのは日付が変わって二時間ほど過ぎた頃だった。


2014/11/02

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