第3話 侵入


 朝になった。
 目を覚ました紫乃が時刻を確認すれば7時半になろうとしていた。
 起床しようと小さく身を捩れば、すぐ隣ではダンテが小さないびきをたてて気持ちよさそうに眠っている。紫乃は彼を起こさないよう注意しながらベッドを抜け出し、床に落とされた衣服を拾い上げて着替えた。

「ふあぁ……」

 あくびをして大きく背伸びをしたあと、カーテンを少し開けた。南向きの大きな窓の外を覗くと、薄い青色の空と白い雲が広がっていた。
 鍵をはずして窓を開け、東の空を見やれば、眩しいくらいの朝日が顔を覗かせていた。

「わあ、綺麗!」

 老夫人が言っていたように、晴れ渡った青空と朝日の美しさに感嘆の息が漏れた。

 今のところフォルトゥナでの滞在予定は一泊で、今日行われる魔剣祭で教団トップの教皇を暗殺し、とある魔剣を入手したら事務所に戻る予定だ。けれど、魔剣祭は夕方行われるので、夕日も楽しむことが出来るだろう。

「主」

 下の方から聞き慣れた声が聞こえてきたので覗き込むと、宿に入る前に別れたマハとダンタリオンがいた。

「おはよう、マハ、ダンタリオン」

 おいでと手招きすれば、マハは少し姿勢を低くしたあと思いきり後ろ足に力を入れて勢い良く跳び、建物の外壁を駆け上った。ダンタリオンも地を蹴って跳躍し、部屋の中に入る。

「少し街を見て回ったのですが……」

「どの住民も今時の格好ではないな」

「そうね。ここのご夫婦も中世みたいな服だったわ」

 服装だけでなく、建造物も現代の様式ではない。まるで、中世で時間が止まったような街。

「ダンテの奴はまだ寝ているのか」

「朝に弱いからね。まだ起きそうにないし……チェックアウトの時間延ばしてもらってくるわ」

「かしこまりました」

 予定としては午前中のうちにチェックアウトしてどんな街並みなのか見て回るつもりだったのだが、ダンテが起きないのでその予定は脆くも崩れ去った。
 紫乃が部屋を出て一階に下りれば、老夫人と出くわした。

「おはようございます」

「おはよう。昨日は眠れたかしら?」

「はい。……あの、ちょっとお願いしたいことがありまして」

 なあに、と老夫人は小さく首を傾げる。

「夫は朝に弱くて、おそらくお昼頃にしか起きられないんです。だから、チェックアウトの時間を延ばして頂ければと思いまして……」

「まあ、そうだったの。わかったわ、ゆっくり休んでいてちょうだい」

「すみません」

「気にしないで。それじゃあ、あなただけでも朝食を召し上がってはどうかしら?」

 起きてしまえば空腹を覚えるものだ。紫乃のことを案じてくれているのだと思うと、紫乃は断ることは出来ずに朝食を作って貰うことにした。

「あなた、昨日の奥様に朝食を作ってちょうだい」

「あいよー」

 カウンターの奥から老主人の返事が聞こえたあと、部屋に朝食を持っていくと言われたので、紫乃は一度部屋に戻った。

 しばらくして部屋に運ばれた朝食は、ハムなどが挟んであるベーグルサンドとサラダだった。紫乃はハムをマハに分け与え、自分も食べる。
 一方、ダンタリオンは食事は不要ということで何も食べなかった。
 ベーグル生地は弾力があって美味しいし、野菜も新鮮だ。美味しい朝食に満足した紫乃は、ダンテが起きるまでマハと遊ぶことにした。

 * * *

「……ん」

 ダンテが小さく身じろぎして目を開ければ、窓際で椅子に座った紫乃が、膝の上で丸まっているマハを撫でて外を眺めていた。彼女のすぐそばにはダンタリオンもいる。

「ねえ、マハ」

「何だ」

「肉球触らせて」

「うむ」

 おもむろにお願いをしてきた紫乃が、小さく可愛らしい猫の足を掴み、足裏の肉球をやわやわと触り始めた。
 紫乃は時折、こうやってマハの肉球を触ることがある。血の契約により主従関係となった紫乃とマハの間には、絶対的な上下関係がある。紫乃が言葉一つで命令すればマハは従わなければいけないが、彼女は命令することは極力避け、今のように『お願い』をする。
 マハにとって紫乃は、瀕死のところを救ってくれた命の恩人であり、主だ。純粋な悪魔の大半が人間との混血である紫乃やダンテを厭うのに対し、マハはそのようなことがなかった。むしろ気紛れで魔界を抜け出してきた変わり者だ。
 そんなマハは紫乃のことが好きで、『お願い』を聞き入れて彼女の好きなようにさせている。

「柔らかくて気持ちいいなぁ。私、マハの肉球好きよ」

「私も主に触れられて嬉しく思う」

 ──何だ、この状況は。
 肉球の部分を取り除いた会話だけならば、仲睦まじい恋人同士の会話に聞こえなくもない。だが、婚約者を差し置いて目の前でいちゃつかれると妬いてしまう。それが例え猫(正確には悪魔だが)であっても嫉妬の対象となる。

「……こっちは紫乃に触れられなくて寂しいんだが」

 拗ねた口調で言葉を発してやれば、紫乃がこちらを振り向いた。

「あ、おはよう、ダンテ」

「遅いぞ。もう正午を過ぎてしまったではないか」

「おはようございます」

 仕事なのだから早起きしろと言うマハの小言は聞こえないふりをしたダンテだが、紫乃の視線と意識が自分へ向けられたのですぐに機嫌は直った。
 紫乃は膝からマハを下ろすと、ベッドに横になっているダンテの元へ寄る。

「今、何時だ?」

「ちょうど12時半になったところ」

 そうかと短く答え、ダンテは起き上がる。夜中の行為で何も身に着けていないダンテの裸体を直視しないよう、紫乃は彼の下着や衣服を手渡し、着替えてもらった。
 ダンタリオンはブレスレットとして紫乃の右腕につけられたあと、ダンテと紫乃は宿をチェックアウトし、マハを交えてフォルトゥナの街をいろいろ見て回ることにした。

 * * *

 やがて夕方になり、いよいよ魔剣祭の開催時刻が近づいてきた。
 西日が空をオレンジ色に染め、はっきりとした陰影をつける建物の屋上の何もない空間に、淡い光を放つ『ゲート』が瞬時のうちに形成され、二人と一匹が屋上の床に足をつけた。

「サンキュー、紫乃」

「どういたしまして」

 現在、ダンテと紫乃とマハはフォルトゥナの街中をいろいろ見て回ったのち、魔剣祭が行われる大歌劇場に向かっている途中だ。

「綺麗な夕日ね」

 宿屋の老夫人からは、宿の最上階から眺める朝日と夕日が綺麗だと教えられた。朝日は今朝見た。夕日は、宿からではないが、フォルトゥナの街をオレンジ色に染める景色は何とも言えない美しさだった。

「ここもいいが、俺は紫乃の実家の方が好きだぜ」

 日本にある紫乃の家がすっかり気に入ったダンテは紫乃にそう笑いかけると、ちらりと下へ視線を移した。
 夕日で暗い影を落としている路地には多くの悪魔が蠢いている。バランスの悪そうな構造をした身体に、鎌のような大きな刃を備えたスケアクロウという種類だ。
 そんな悪魔が蠢いている路地に、一人の少年が駆け込んできた。影の中でも煌く銀の髪に、暗い青色のコートを翻し、首にヘッドホンをさげている。
 そして、何より人目を惹くのは、まるで骨折でもしているかのように固定された右腕。
 ダンテだけでなく、紫乃とマハも路地を見下ろし少年を見つめる。
 少年は臆することなくスケアクロウの集団へ突っ込むと、まずは跳び蹴りを喰らわせた。続いて左手でスケアクロウを殴り飛ばし、近くにいる他のスケアクロウの刃をがっしり掴んだかと思うと、豪快に振り回して刃だけを引きちぎる。素手だった少年はその刃を手にすると、スケアクロウにさらなる追撃を加えた。
 再び地を蹴った少年は建物の壁を走り、そばで跳ねているスケアクロウを足場にしてさらに跳躍し、刃を振りかざして次々と悪魔達を斬り捨てていく。

 悪魔との戦いに慣れている少年を、ダンテは腕を組んで、紫乃とマハはただ静かに見つめていた。

「あの坊や、なかなかやるな」

 数多の悪魔と戦ってきたダンテから見れば、少年は若さにまかせて暴れているような感じではあるが、片腕で悪魔を振り回してその刃をもぎとった腕力は目を見張るものがある。
 だが、今は大歌劇場にいる教皇のところへ向かわねばならない。ダンテは路地の少年から視線をはずすと、紫乃に話しかけた。

「紫乃、行くぞ」

「あ、うん」

 名前を呼ばれた紫乃は再び『ゲート』を出すと、共に別の場所へ移動した。


 ほどなくして少年──ネロは路地で行く手を塞いでいた悪魔を全て倒した。ふう、と一息ついて建物の屋上を見上げてみたが、誰もいない。何かの気配を感じたのだが、気のせいだったのだろうか。

「…………」

 だが、今は急いでいるのだ、ゆっくりしていられない。ネロは悪魔からもぎ取った刃を地面に投げ捨てると、再び走り出した。
 向かう先は、魔剣祭が行われている大歌劇場。

 * * *

「今より二千年前──」

 荘厳な装飾が施された大歌劇場の礼拝堂では、魔剣祭と呼ばれる催し物が行われていた。フォルトゥナ住民のほとんどが魔剣教団に属しており、信仰を捧げる場所となっている建物である。
 白いフードを被った信徒達は、一人の老人の言葉を静かに聴いていた。
 フォルトゥナ住民を束ね、信徒達の信仰心を集める人物は教皇サンクトゥス。彼の後ろには巨大な石像がそびえたっている。それは、教団で崇められている魔剣士スパーダその人の像だ。

「魔剣士スパーダは悪魔でありながら、我ら人間のために剣を取って下さった。されど、人はその事実を忘れ去り、今や堕落の極みにあると言って良い」

 白いフードで中世の服装ばかりの信徒達の中に、フードを被るどころか、服装も現代的なネロが紛れて椅子に腰掛けていた。首にさげているヘッドホンからは音楽が漏れ出しており、周囲の者が迷惑そうに彼のことをチラチラと見てくる。
 そんなネロのことを、舞台上の袖にいる教団の騎士団長クレドも顔をしかめて一瞥した。すぐにでも指摘してやりたいが、今は魔剣祭の最中である。進行を中断させるわけにはいかないので、クレドは何もせず再びサンクトゥスへ視線を戻した。

「あの忌まわしき時代が再来すれば……封じられた魔界が復活すれば、我らはあまりにか弱い。抗うことなど出来ようはずもない」

 ネロにとって、魔剣祭などどうでも良かった。
 もともと神の存在を信じない不信心者であり、単独行動を好み協調性に欠ける性格であるため、周囲の人間からも疎まれやすい言動を取っている。
 そのため、すぐにでもこの場から立ち去りたかったのだが、そうしない理由があった。それは、隣の空いたスペースに置いてある水色の包装紙でラッピングされた箱を渡す相手がいるからだ。
 サンクトゥスの説法が続いている中、一人の女性がネロの元へやって来る。つい先程まで澄んだ歌声を響かせていたキリエだ。
 歌っている時は姿が見当たらなかったので(それでも彼は歌の終盤直前に来場していた)、どうしたのと目でネロに訴えたが、水色の箱に気付いて手に取った。プレゼント用の包装がされている箱は、ネロが自分への贈り物として用意してくれたのだと理解したキリエは嬉しさのあまり笑みをこぼすが、ネロは素っ気無い態度でヘッドホンを耳に当て、キリエから顔を背けるばかり。

「我らはただ祈りを捧げよう。どんな困難が我らを襲おうとも、神が必ず救って下さると信じて祈るのだ」

 ネロの隣に腰掛けたキリエは、他の信徒がそうしたように、サンクトゥスの言葉に合わせて胸の前で両手を握る。それが、教団が崇める魔剣士スパーダへの祈りである。
 不気味なくらい静かに祈りを捧げる信徒達を見渡したネロはため息をつくとヘッドホンをはずし、椅子から立ち上がった。

「ネロ……どうしたの?」

「帰るのさ」

 キリエが立ち上がったネロに気付いて声をかける。

「でもお祈りが……」

「眠たくなるだけだ」

 これ以上、こんな面白くもない場所にいたくはない。
 そう言いたげなネロは礼拝堂をあとにしようと歩き出し、キリエは戸惑いながらも引き止めるため彼を追う。
 その時、ネロの腕に変化が起こった。一ヶ月前、キリエを悪魔から守る際に負傷した右腕──今では人間のものとはかけ離れたそれが、青白く光り出したのだ。
 直後、何かの気配を察知して上を仰ぎ見れば、一人の男が礼拝堂の真上のステンドグラスを派手に破って落ちてきた。侵入者は銀髪で大剣を背負い、赤いコートを身にまとっている。
 赤の男が下り立った場所はサンクトゥスの目の前。素早い動きで銃を手に取り、引き金を引けば、礼拝堂内に銃声が響き渡った。
 一瞬の出来事に、その場にいた信徒達は何が起こったのか理解出来ず、侵入者と、侵入者の向こう側にいるサンクトゥスをただただ見つめる。
 礼拝堂内を反響していた銃声がやむと、再び静寂が訪れた。銃口を下ろし、立ち上がって背後の信徒達を振り返る侵入者の顔には鮮血が飛び散り、サンクトゥスは床に倒れている。
 ──侵入者が教皇を殺害した。
 目の前で行われた出来事を、信徒達はようやく理解する。

「教皇!」

 クレドが叫び、教団騎士が腰の剣を一斉に抜いた。
 侵入者の襲撃に、信者達は慌てふためいて逃げ惑う。パニック状態に陥り、ある者は躓き、ある者は赤の男を見て怯える。
 右腕の輝きがおさまったネロは、自分の腕から赤の男──ダンテへ視線を移した。
 剣を構えた何人もの教団騎士が舞台上に駆け上がり、ダンテを取り囲む。大勢でかかれば侵入者を捕らえることが出来ると踏んだのだろうが、そんなものはダンテには通用しない。襲いかかってきた教団騎士を蹴り飛ばしていくが、何人目かの教団騎士については片足で押さえつけてリベリオンで貫き、息の根を止めてしまった。

 ネロは、教団騎士が侵入者の相手をしている間、キリエを外に連れ出そうと彼女の手を掴んで走り出す。だが、突然のことにキリエがはずみでプレゼントの箱を落としてしまった。軽い音を立てて床に落ちた箱は、逃げ惑う信徒達に踏み潰されて箱の形が変わる。
 それでもせっかくネロがくれた贈り物を拾いたいキリエは引き返そうとしたが、戻ってはいけないと言うかのようにネロがキリエを止め、逃げることを優先させた。

 銃弾を受けて倒れたサンクトゥスに、クレドと数人の教団騎士が駆け寄って悪態をつく。

「くそ……!」

 周囲が動揺している最中も、ダンテは自分を取り囲む教団騎士の相手をしていた。蹴り飛ばしたり、リベリオンで貫いたりする。
 そうして何人目かの騎士団員の息の根を止めた頃、ようやく取り囲んでいた団員がいなくなった。
 近くに倒れたサンクトゥスとそれを抱き起こすクレドしかいない状況に気付いたダンテは、ゆっくりとクレドへ歩み寄る。

「兄さん!」

 兄が襲われると思ったキリエが、ネロの手を振りほどいてクレドの元へ駆け寄った。

「キリエ!」

 ──駄目だ、あの男に近付いてはいけない。
 ネロは慌てて左手を伸ばしてキリエを引き止めようとしたが、彼女は一足先にネロから離れてしまった。

 ダンテの背後に一人の教団騎士が剣を振りかざし、襲いかかってきた。だが、ダンテは振り向きざまにリベリオンでそれを斬り捨てる。断末魔の叫び声をあげながら後方へ倒れる騎士と、クレドに駆け寄るキリエの肩がぶつかってしまい、キリエがバランスを崩して倒れた。
 起き上がろうとしたキリエが顔を上げれば、すぐそばにサンクトゥスの返り血を顔に浴びた男が見下ろしてきた。彼に恐怖と威圧感を覚えたキリエは怯え、震えた。


「あ……」

 ダンテが割ったステンドグラスの天井の外側に待機していた紫乃が声をもらした。マハも紫乃の隣でダンテの動向を見つめている。
 教皇を抱える男を兄と呼び、騎士にぶつかって倒れた女性をダンテが見下ろしている。ダンテが女性を傷つけることはないが、女性は明らかにダンテに怯えていた。

「いきなり教皇を撃って、おまけに返り血浴びた顔で見下ろされてるんだもんね……」

「無理もない」

 私がただの人間であの女性と同じ状況なら怯えるわ、と紫乃はキリエに同情した。
 それと同時に、あとでちゃんとダンテに「返り血を浴びた状態で相手を威嚇しないように」と注意しておこう。そう決心した紫乃は、引き続き礼拝堂内を見下ろし、ダンテの帰りを待った。


 キリエが危ない。ネロはただキリエを守るため全力で駆けて床を蹴り、ダンテの顔面にドロップキックを喰らわせる。
 続けてブルーローズを取り出し、迷うことなくダンテに向けて引き金を引いた。だが、ダンテはリベリオンの刃を使い、あっさりと弾を弾き返すも弾の衝撃は重く、そのまま後方へ押し飛ばされてしまった。このままだと石像に叩き付けられてしまう。
 それを避けるために、ダンテはリベリオンを石像の頭部に突き立てて堪える。
 常人離れしたダンテにネロは臆することなくさらに追撃をかけ、巨大な石像の腕の上でダンテと対峙した。

「ネロ!」

 起き上がったキリエの元へクレドが駆け寄り、妹を後ろに庇う。

「キリエ、クレドと逃げろ!」

「すぐに応援を呼ぶ! 死ぬなよ、ネロ!」

 キリエとクレドが逃げ出したのが最後で、礼拝堂内にはダンテとネロの二人だけが残った。

「期待せずに待つさ」

 ネロはダンテから視線をはずさず、礼拝の時からずっと音楽が鳴りっぱなしのヘッドホンを床に放り出した。

 バン!

 銃声が鳴り、ダンテめがけて銃弾が一直線に飛んでいく。しかし、近距離から撃ったにもかかわらず、ダンテは上に跳び上がってあっさりと銃弾をかわす。
 ダンテを追ってすぐさまネロも跳び上がり、両脚でダンテの首元をがっしりと挟み込むと、ダンテと互いに銃口を向けて相手に撃ち込む。だが、ネロはダンテの銃を口でくわえて自分に銃口が向かないようにし、ダンテは上半身を仰け反らせて銃撃を交わした。

 銃撃を喰らわせることが出来ないのなら、とネロは思いきり力を込めて下半身をひねり、両脚でダンテをスパーダ像へ投げ飛ばす。そんなネロの攻撃も、ダンテにとってはダメージを負うことなく像の頭上へひらりと着地した。
 そこへネロが追撃し、その衝撃で像の頭部に刺さっていたリベリオンが宙へ放り出されてダンテの元へ戻る。
 やがて二人は、像の上から床の上へと下り立った。

「余裕たっぷりでむかつく野郎だな」

 リベリオンを肩に担いだダンテと対峙するネロは、一瞬のうちに銃弾のリロードを行った。
 コートがはためいて再度ダンテへ銃口を向けた……が、いない。いつの間に移動したのだろうか、ダンテはネロの背後にある柱の陰から姿を現した。

「銃だけじゃ無理か……」

 そばにあったカリバーンを手にしたネロは剣先を床に突き立てる。次に、柄の部分をバイクのグリップと同じように数回ひねれば、不思議なことに剣からエンジン音が鳴り響いた。

「その剣、飾りじゃないんだろ?」

 ネロが挑発すると、ダンテは黙ったまま自分もリベリオンの剣先を床に突き立てて柄をひねってネロの真似をする。もちろんエンジン音はしない。
 挑発したはずが、逆に挑発されたことにネロは舌打ちし、床を蹴ってダンテめがけて剣を振り下ろした。何度か斬りかかったり、相手の攻撃を防いだりしていると、次第にネロが力で押されてきた。左手だけではダンテの一振りに耐えれなくなると、ネロの剣は弾き飛ばされてしまった。

 ダンテはリベリオンを水平に構え直し、素早い動きでネロへ向けて一直線に襲いかかる。
 スティンガーだ。
 剣を失い、攻撃を防ぐことも出来なくなったネロは思わず右腕を前に出し、あろうことかスティンガーの一撃を防いだ。直後、周囲の長椅子などが浮き上がる。それほどまでにダンテの一撃が凄まじいものとわかる。
 スティンガーの衝撃で今までネロの右腕を覆っていた布や手袋が取り払われ、その下から現れたのはまるで悪魔の一部のような右腕だった。ダンテの悪魔の力に反応しているのか、ネロの右腕が青白く輝いている。

「仕留めたと思ったんだが……どういう仕掛けになってんだ?」

 今まで一言も言葉を発しなかったダンテが喋ったので、ネロは顔をしかめた。

「喋れるのかよ……」

「喋れないなんて自己紹介をした覚えはないね」

「悪いが種明かしは──してやれないな!」

 言い終わるのと同時に右腕を振り払い、ダンテをはじき飛ばした。

「まさかお前もか?」

「あ?」

「しかしピンとこねぇな……どうもお前からは掃き溜めの臭いがしない」

 顔をしかめてダンテの言葉の意味を図りかねているネロを尻目に、ダンテは思案する。
 自分と同じだと確信が持てなかったわけではない。常人離れした戦闘力や、自分の戦いについて来ているネロに、ダンテは彼に悪魔の血が流れていることに気付いていた。だが、今ようやく人間のものではない右腕を見て確信した。
 ──この坊やも、人間と悪魔の子。

「こっちは時間がねぇんだよ。人が来る前に終わらせてやる!」

 スパーダ像が携えていた巨大な剣を、ネロから発せられている青い半透明の大きな手が掴み、ダンテめがけて投げつけるもかわされる。
 再びダンテがスティンガーを繰り出せば、ネロが今度はデビル・ブリンガーでリベリオンを掴み、ダンテを軽々と放り投げた。乱雑に散らばった長椅子に投げられたダンテだが、流石に戦い慣れしているだけあってすぐに体勢を整え、脚を組んでネロを見据える。

「まだやるか? 来いよ、遊んでやる」

 息切れしているネロとは対照的に、ダンテは不敵に笑い、余裕を見せ付けた。

「タフだな。じゃあ……」

 先程ダンテに弾き飛ばされた剣を拾い上げたネロがダンテに斬りかかるも、やはりリベリオンで防がれてしまう。

「徹底的に叩くまでのことだ」

「そりゃ楽しみだ」


2013/11/23

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