魔法の手


 紫乃は漫画を読んでいるダンテの手の上に、自分の手を重ねてみた。

「どうしたんだ、darling?」

「ダンテの手、大きいなって思って」

 紫乃は自分の手よりもはるかに大きなダンテの手を見つめる。女性とは全く違ったそれは、指は太く掌は分厚い。ダンテは全体的にがっしりとしているので、とても男性的な魅力に溢れていると思う。

「私、ダンテの手、好きだよ」

 ふふ、と少し気恥ずかしそうに言えば、ダンテは手をひらりと回すと紫乃の手を包み込むようにして指を絡ませた。

「俺も紫乃の手が好きだぜ。いろんな料理が生み出せる魔法の手だ」

 読んでいた漫画を机に置くと、ダンテは紫乃を自分の膝の上に座らせる。

「だが、俺にしか出来ない料理がある」

「ダンテにしか出来ない?」

 紫乃は少し考えてみた。ダンテにしか出来ないものとは一体何だろう。
 ピザ作り?
 ストロベリーサンデー?
 そもそも彼は料理は得意ではない方だ。ピザもストロベリーサンデーも、自作したという話は一度も聞いたことがない。
 では、銃の改造……は料理ではないことに気付き、頭に浮かんだこの考えを払拭する。

 紫乃から解答が出てこないので、ダンテは答えを言うことにした。

「紫乃だよ」

「え?」

 まさかの答えに、紫乃は首を傾げる。

「どういう意味?」

「唇を使えば蕩けさせて、指を使えば蜜が出せて、俺自身を使えば世界にたった一つしかない『紫乃』っていう女になる」

「……っ!」

 どういう意味かを理解した紫乃の顔が、羞恥で赤く染まった。

「ダ……ダンテのスケベ!」

「たくさん愛し合ってるんだから、そんなに恥ずかしがることないだろ」

「そうだけど……じゃなくて、まだお昼だよ!」

「夜ならいいのか?」

「ち、違……!」

 ダンテがニヤニヤと笑って屁理屈を言えば、紫乃はさらに赤面した。

「もう! これ以上変なこと言ったら、ピザにオリーブたくさん入れてやるんだから!」

「あー……それは勘弁」

 好きなピザに嫌いなオリーブが入るのは遠慮願いたい。ダンテはもっと紫乃をからかってみたかったのだが、苦笑するだけにとどめた。

「機嫌直してくれよ、darling。今日、夕食作るの手伝うから」

「……仕方ないなぁ」

 柔和な笑みを向けられてしまえば、怒気なんてあっさりと削がれてしまう。本当に彼の笑顔には弱いなぁ、と心の中で苦笑した紫乃は、夕食をダンテと一緒に作ることを約束した。


Web拍手掲載期間
2012/07/19〜2013/08/09
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