口直し


「紫乃、ちょっとこっち来い」

 ストロベリーサンデーを味わっていたダンテが紫乃を手招きした。
 どうしたのだろうと彼の元へ行くと、彼自身の膝の上に座るよう促される。

「ここに座って」

「……また変なこと考えてるでしょ」

「そんなことねぇよ」

 ほら早く、とダンテは数回自分の膝をポンポンと叩く。経験上、このようなことをさせるダンテは何かよからぬことを考えていることを、紫乃は学んでいた。だから警戒して無言で拒否の態度を示していたのだが、

「早くしねぇとアイスが溶けちまうだろ。座るだけでいいから」

 と言われ、再び座るよう促された。
 紫乃は小さく溜息をつくと、渋々ダンテの膝の上に腰をおろした。

「……それで、どうしたの?」

 ダンテはスプーンでアイスを掬い、口に含む。

「舌が冷たくなった」

「ウエハースを食べればいいでしょう」

 ストロベリーサンデーにはウエハースが添えられていたのだが、既にダンテは食べてしまったようだ。
 ウエハースは、アイスを食べて冷たくなった舌の味覚と感覚を取り戻すためのもの。真っ先に食べてどうするの、と若干非難の視線を浴びせるが、ダンテは気にすることなく話を続ける。

「実はウエハースより効果の高いものがあってね」

「何かあったかしら?」

 ウエハースより舌の感覚を取り戻すことに適任なものがあるのだろうか。紫乃は疑問に思いながら他の食べ物を思い浮かべるが、クッキーやワッフルくらいしか候補が出てこない。
 わからないとダンテに視線で伝えると、ダンテは楽しそうに笑い、紫乃の唇を自分のそれで塞いだ。

「んっ」

 紫乃の唇に触れると、アイスで冷たくなったダンテの唇にじんわりと温もりが広がっていく。

「ダン……んぅ……」

 突然のキスに困惑して恋人の名を呼ぼうとしたが、それを狙っていたかのようにダンテが舌を口腔内に侵入させてきた。唇よりも冷たさの増した舌が、紫乃の舌に絡まる。温度差に驚いて舌を引っ込めた。
 しかし、退路などなく、紫乃の舌はダンテに捕らわれ、しばらくの間ダンテに口腔内を蹂躙された。
 紫乃はすっかり脱力してしまい、解放された頃には頬は上気し、目元は生理的な涙で濡れていた。

「んー、最高の口直しだな」

 ダンテはぺろりと唇を舐めた。その仕草が存外に色っぽく、紫乃の胸が高鳴る。だが、恥ずかしさでそんな気持ちになったことを知られたくない紫乃は、視線をそらした。

「……あのねぇ……」

「俺は紫乃のキスで口直ししたいんだけどな。それに、まだアイスが残ってる」

「ウエハース食べてよ」

「ふむ……それじゃあ、ウエハース取り出すからちょっとどいてくれるか」

 まだ余っているウエハースを取るため、ダンテは紫乃の背中をポンポンと軽く叩き、立ち上がらせようとする。が、紫乃は一向に動こうとしない。

「紫乃」

「……だめ……」

「ん?」

「……立て……ないの……」

 先程のキスで脱力させられたおかげで、紫乃は自力で立ち上がるどころか、足腰に力を入れることすら叶わなかった。

「紫乃は相変わらずキスに弱いな」

 キスだけじゃなく、ココも弱いけどな。
 ダンテはにやりと笑うと、スカートをたくし上げて中に手を入れ、指先で布地を撫ぜる。

「ひゃ……っ」

 最も敏感な箇所に触れられた紫乃が、身体をぴくりと反応させた。

「んじゃ、このまま食べるから、紫乃は俺に口直ししくれよ」

 とても満足気な笑みを浮かべたダンテを見た紫乃は、最初からこうするつもりだったのか、と彼の企みに気付いた。それと同時に、最初から断っておけば良かった、と後悔した。

 結局、紫乃が解放されたのは、ダンテがストロベリーサンデーを全て食べ終わり、彼の部屋でホイップクリームよりも甘い時間を過ごしてからだった。


2014/06/01
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