第29話 悪魔狩り
十月になり、涼しい季節が訪れた。
午後10時半を過ぎた頃、『Devil May Cry』に一組の男女が駆け込んできた。その二人はスラム街に住みついている不良グループのメンバーで、紫乃とも親しい間柄でもある。
少女は以前、料理を作ってみようかなと言ったことがあり、少年はそんな彼女に不得意だからやめておけとからかった、あの二人だ。
ダンテと紫乃の関係や、無闇に事務所に近付くなという話を知っている彼らが事務所を訪れたことに疑問を感じつつも、紫乃は二人を出迎えた。
「あら、ジャックにルーシー。いらっしゃい」
「なあ、ここって依頼したら何でも受けてくれるんだよな!?」
「トマスが、トマスが……!」
切羽詰まった二人に異変を感じるも、紫乃はひとまずソファーに腰掛けるよう勧める。マハが気持ちよさそうにまどろんでいたが、彼に場所を譲ってもらった。
本来ならばお茶でもてなしたいところだが、どうも二人の尋常ではない慌てぶりにキッチンへは向かわず、紫乃はそのまま話を聞くことにした。
「実はさ、最近スラム街の一角に変なのが出るって噂があるんだ」
「変なの?」
「ああ……てっきり幽霊か何かの類だろうって思って、確認も兼ねてさっきみんなでそこに行ったんだ」
「ここから離れたところにある廃墟なの」
「初めのうちは何にもなかったんだけど、奥に進んで行ったらおかしな声が聞こえてさ……やっぱり幽霊かってことで出ようとしたら化け物が……!」
どうやら、興味本位で廃墟に出向いたはいいものの、帰り際に何者かに襲われたのだという。
「紫乃、トマスって知ってるだろ、俺達のグループにいる臆病なあいつ」
紫乃は頷いた。ジャックのグループで最も順位の低い位置にいるあの臆病な男トマスのことは紫乃もよく覚えている。彼と初めて出会ったのは、事務所で働き始めて一週間が経過した頃だ。
「そいつがさ、逃げ遅れたメンバー庇って化け物を足止めしてくれたんだけど、まだ廃墟の中にいるんだ……」
「え!?」
「一緒に逃げようって言ったんだけど……みんなに逃げろって叫んで囮になってくれたの……っ」
ジャックは恐れと焦りで落ち着かず、ルーシーに至ってはポロポロと涙を流し始めた。
「ねえ、その化け物はどんな格好してるかはわかる?」
「えっと、何かでっかい鎌みたいな刃物が付いてて……」
「あと、ふらふら揺れてたわ」
二人の話を聞く限り、化け物というのは悪魔であることに違いない。大きな刃物を持ち、不安定に揺れる動きをする悪魔といえばスケアクロウだろう。
「ダンテは……ダンテはいないのか……?」
「今、別の依頼で出ていて……」
突然駆け込んできたというのに、店主のダンテの姿が見えないことを不思議に思ったジャックが尋ねてみれば、彼は仕事で不在らしい。依頼を引き受けて現地に赴くのはダンテだと聞いている。その彼がいないということは、トマスを助けられない。
どうしよう、とジャックは絶望の淵に足が囚われる感覚に襲われた。いくらメンバー全員で廃墟のことで盛り上がったものの、行く決断をしたのはリーダーであるジャックだ。一時の好奇心のために仲間を失ってしまう。自分は何て愚かな決断を下したのだろう。
顔を俯かせて歯を食いしばるジャックを、ルーシーが泣きべそをかきながらも慰める。
そんな二人を放っておくことなど、紫乃には出来なかった。
「──わかった。私をその廃墟に案内して」
悪魔絡みの依頼となれば店主のダンテの指示を仰がないといけないのだが、今はダンテが不在で緊急事態だ。悪魔が相手ならば半魔である紫乃でも対応出来るし、それに少し前に魔具も入手している。
そう考える紫乃の肩に、今まで静かにしていたマハが肩にのぼり、ジャックとルーシーに聞こえないよう小さな声で話しかけてきた。
「主、この者達の仲間を助けたい気持ちはわかるが、ダンテの帰りを待つ方が賢明ではないか」
「でも、早くしないとトマスさんが危ないわ。マハはダンテが戻ってきたら、このことを伝えてちょうだい」
マハに小声で返答すると、紫乃は廃墟へ案内するよう二人を促した。
「……困った主だ」
マハは小さくため息をつくと、紫乃の肩から飛び降りてソファーへと戻った。
それから紫乃は廃墟の場所を聞き出すと、ジャック、ルーシーらと共に廃墟へと向かうのだった。
* * *
ダンテの機嫌はすこぶる良かった。依頼の電話が入ったのが午後7時過ぎで、つい先程仕事を終わらせて今は帰路の途中である。
簡単な依頼内容に比例して報酬は決して高くはなかったが、気前の良い依頼主から赤ワインを貰った。
帰ったら紫乃と一緒に味わおう。浮かれた気分で事務所に到着したが、何かがおかしいことに気付いた。
まず、店名のネオンサインが消えていた。それに、紫乃がいるはずなのに室内が暗い。もしかしてもう寝たのだろうかとも思ったが、何故か紫乃の気配が感じられない。怪訝に思いながらも玄関の扉を開けて中に入れば、ソファーにいるマハと目が合った。
「ダンテ、戻って来たか」
「どうしたんだ、マハ? 紫乃は出かけてんのか?」
「手短に言うぞ。主は不良の男を助けるために廃墟へ向かった」
「……何?」
ダンテは一瞬耳を疑った。
紫乃が不良を助けに行った、だって?
「スラム街のはずれの廃墟に悪魔が出没したらしくてな。主が親しくしている不良が襲われて、主はその救出に」
「何てこった……」
ダンテはため息をついた。折角早く仕事を終えて紫乃との時間が過ごせると思っていたのに。
依頼主から貰ってきたワインをテーブルに置くと、ダンテは再び扉を開けて外に出た。
「マハ、場所はわかるか?」
「ああ、こちらだ」
事務所を出た一人と一匹は、スラム街のはずれにあるという廃墟目指して夜道を駆けて行った。
* * *
紫乃はジャックとルーシーと共に廃墟へ向かった。
以前は屋敷として整備されていたのだろうが、住人がいなくなって久しい今となっては敷地内は雑草が覆い茂り、かつては綺麗に磨かれていた窓ガラスは何枚も割れている。
廃墟の塀の外に五人ほどの少年がかたまっているのが見えた。いずれもジャックのグループのメンバーだ。
「あっ、ジャック、ルーシー!」
「紫乃だけ……? ダンテはいなかったのか?」
走ってきたジャックとルーシーの元へメンバーが集まってきた。しかし、『Devil May Cry』に行ってダンテを呼んでくると言っていたのに、そのダンテの姿が見当たらないことに首を傾げる。
「別の依頼でいなかったんだ。そしたら紫乃がここに連れてけって……」
ジャックとルーシーとしても不思議だった。便利屋として依頼に向かうのはダンテなのに、何故紫乃がここに連れて行けと言ったのだろう。
「トマスさんはあの中に?」
「あ、ああ……まだあいつだけ中に……」
「外に出てこねぇんだ!」
「──私が行ってきます。危ないので、皆はここで待っていて」
決して中には入らないように。
そう言い重ねると、紫乃は廃墟となった屋敷の中へ消えて行った。
* * *
屋敷に入れば悪魔の気配が室内全体を漂い、奥に進めば進むほど濃くなっているように感じた。
トマスの名を叫びながら手当たり次第に部屋から部屋へ移動し確認していくが、彼の姿は何処にもない。その途中、何度かスケアクロウが襲いかかってきたが、今はトマスを捜す方が先決だ。相手をせずに屋敷内を駆け巡り、二階へ上がる。
その時、奥の部屋から物音が聞こえた。すぐにその部屋に向かえば、捜し人と会うことが出来た。
物置部屋のような場所で、大きな箱や荷物が乱雑に置かれ、埃をかぶっている。暗闇の中、部屋の隅で人影が動くのを紫乃は見逃さなかった。
「トマスさん?」
「ひいぃ! こっ……こっちに来るなぁ!」
トマスがもっと身を隠そうと縮こまる。突然部屋に入ってきた紫乃のことを悪魔だと思い込んでいるようで、その声は恐怖に震えている。
「落ち着いてくださいトマスさん、私です」
紫乃が改めて彼の名を呼べば幾分か落ち着きを取り戻したようで、紫乃を見上げた。
「……あ……君は……」
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
つん、と紫乃の鼻を鉄の臭いが刺激した。トマスをよくよく見れば、彼の着ているトレーナーの右の袖が赤黒く染まっている。たいした量の出血ではないのだが、このまま放っておくわけにもいかない。
紫乃は自分の左腕のブラウスの袖を引きちぎると、トマスの右腕に巻きつけた。
「救急用品がないからこれくらいしか出来ませんが……」
「君がどうしてここに……?」
「ジャックとルーシーがうちに来たんです。あなたがまだ中にいるって聞いたから」
つまり、助けに来てくれたのだとわかると、トマスは安堵の息をついた。
「みんなはちゃんと逃げ出せたのか……?」
「ええ、無事です。でも、みんなあなたのことを心配して外で待っています」
トマスがジャックのグループに誘われたきっかけは、ジャック本人がトマスに声をかけて勧誘してきたからだ。
臆病な性格のため、ジャックのグループでも立場のランクは一番下だが、以前所属していたグループよりもはるかに楽しく、メンバー全員が仲良く接してくる。
そんな彼らと廃墟と化した屋敷を訪れたはいいものの、幽霊の類だと思っていたものが恐ろしい化け物であることにおののいた。すぐに屋敷から逃げようと走ったが、メンバーの一人が誤って転んでしまい、化け物に襲われそうになった。
その時、臆病な性格だと自覚している己の身体が無意識に動いて化け物に体当たりをしてメンバーの窮地を救ったことに、トマスは自分自身信じられない気持ちであった。
それからは化け物から逃げるために必死に屋敷内を走った。ただ、無我夢中で周りをよく見ていなかったため、二階の奥にあるこんな物置部屋に入り込んでしまい、外に出られなくなったのだ。
早く外に出ましょうと紫乃が口を開きかけた時、部屋のドアが破壊された。慌ててそちらを振り向けば、数体のスケアクロウが室内へ侵入してくるのが見えた。
「ひ……ば、化け物……っ」
もう駄目だとトマスは恐怖に震え、頭を庇うようにしてうずくまる。
先に悪魔を処理しないと危険だと判断した紫乃は、トマスのそばにある荷物を動かし、彼が悪魔の視界に入らないよう壁を作る。
「トマスさん、ちょっとそのまま隠れていてくださいね」
そう言うと、紫乃は右手首の銀色のブレスレットに意識を向ける。八月に日本で出会った悪魔ダンタリオン。かつて母親の魔具として仕えていた彼が、今度は娘である紫乃に仕えるために再び魔具として姿を変えたものである。
ダンタリオンはすぐに輝いて形状が変化し、日本刀へと変わった。紫乃は刀の柄を握り、スケアクロウに斬りかかった。
ズダ袋の中には魔界の甲虫の一種が大量に詰まっており、その連携力は凄まじく、人間を襲う衝動はさすがは魔界の生物の一員である。下級悪魔であるが、戦う力を持たない人間にしてみれば充分すぎる脅威となる。けれど半魔である紫乃にとってはさしたる相手ではなく、数回斬りつければ中身の甲虫ともども消滅した。
ほどなくして物置部屋に侵入してきたスケアクロウを倒し、背後のトマスを振り返ろうとした時、彼の短い悲鳴が聞こえた。
「ひぃぃ!」
すぐに後ろを向けば、一体の悪魔が空中を漂っていた。黒いマントを身にまとったその悪魔の顔は赤く、目の部分は青かった。その顔は、まるで昆虫のような印象を受けた。
次の瞬間、ふよふよ漂う黒い悪魔が己の爪をトマスめがけて伸ばす。
「うわぁ!!」
紫乃は刀を振って追い払えば、悪魔はするりと逃げて壁の中に姿を消した。トマスの元へ駆け寄れば、間一髪で悪魔の爪を避けていた。
「大丈夫ですか!?」
「……ああ……」
命に別条はないのでひとまずホッとしたが、まだ安心は出来ない。まずはトマスを外に逃がさなければ。
そう考えていると、あの黒いマント姿の悪魔が壁をすり抜けて戻ってきた。ところが、一体ではなく、三体に増えている。
「応援ってわけ……」
先程、悪魔の黒いマントのようなものに刀の先が触れたが、確実な手ごたえはなかった。よくよく見ればそのマントは実体のあるものとは思えず、まるでガスのようだった。
おまけに空中をふわふわと漂い逃げるものだから、刀だけでは確実なダメージを与えることが出来ない。
黒い悪魔が呼んだのかそうでないのかわからないが、またしてもスケアクロウがやって来た。それも、最初よりも数が多い。
事態は悪い方へ転んでいることは明らかだった。
「銃が欲しくなるところだわ……」
跳びかかってくるスケアクロウを刀で倒しながら呟く。同時に、黒い悪魔がトマスを攻撃しないよう牽制することも忘れない。
それでも刀だけでは完全に悪魔の攻撃を凌げることは出来ず、黒い悪魔が伸ばした爪が紫乃の左腕を貫いた。
「こ、の……っ!」
刀を振って悪魔を遠ざけようとした時、突然いくつもの銃声が鳴り響いて悪魔が仰け反り、紫乃から離れた。ダメージを受けたためにマント状のガスは剥がされ、何かが床に落ちてくる。
それは虫のような姿で、おそらく黒い悪魔の本体なのだろう。今まで悠々と空中を舞っていた姿が想像出来ないほど、その生き物はみすぼらしく臆病で、銃弾が撃ち込まれると息絶えた。
「紫乃に触れるんじゃねぇよ、メフィスト」
スケアクロウによりドアが破壊された部屋の入り口に、エボニー&アイボリーを構えたダンテがいた。彼の足元にはマハもいる。
「ダンテ!」
「大丈夫か、紫乃?」
ダンテは部屋の中を漂う黒い悪魔──メフィストを全て倒すと紫乃の元へ歩み寄った。
「うん」
左腕の傷は、自身に流れる悪魔の血のおかげですぐに塞がり、事なきを得る。そんな紫乃のそばでうずくまっているトマスを見下ろして、ダンテはため息をついた。
「あいつらの仲間がまだ中にいるって聞いたんだが……まさかそいつとはな」
ダンテにとって三度目の顔合わせであり、かつて紫乃を傷付けた男のグループにいたトマスは、忘れたくても忘れられない人間だった。
「ダンテ、彼を責めないでね。悪魔からメンバー庇って怪我したんだから」
「わかってる。逃げ遅れた仲間を助けるために囮になったって聞いた」
ダンテが来たことで恐怖だけでなく気まずい雰囲気も生まれ、トマスはおそるおそるダンテを見上げた。しばし無言のままトマスを見ていたダンテだが、大きなため息をつくとトマスから視線をはずす。
「……ま、お前のこと見直した。ちょっとだけな」
「もう、素直じゃないんだから」
紫乃は苦笑しながら、ダンテの機嫌が悪くならなかったことに安堵した。
そうだ。悪魔を憎み、悪魔を狩り、悪魔から人間を守る。そんなダンテが、自ら囮になって仲間を悪魔から守ったトマスのことを責めるわけがないのだ。
「とりあえず、先にトマスさんを外に連れていってくる」
「ああ」
そう言って、紫乃はトマスのすぐそばに『ゲート』を開く。
「トマスさん、その中に入ってください」
「え……何だい、これ……」
人が一人通れるほどの大きさの光の枠が現れ、その中は夜空のような暗闇が広がっていた。さっきまで何もなかったのに、とトマスが不安げな表情で『ゲート』を見つめていると、
「そこから外に出られますから」
紫乃に背中を押されたトマスは『ゲート』の中に押し込められた。怖くて目を瞑っていたが、何処かに落下する感覚や違和感がない。どうしてと思って目を開けてみれば、そこは屋敷一階の玄関だった。
紫乃が大きな扉を開ければ、すぐそこは雑草の生えた庭が広がり、少し離れた塀の外には顔馴染みがいた。
「あっ……トマスだ!」
「戻ってきたぞ!」
「無事だったんだな!」
ジャックを先頭にメンバーがトマスの元へ駆け寄ってきた。
「紫乃、ダンテとは会えたか?」
「ええ。ルーシー、トマスさん怪我してるから手当てお願い出来る?」
「うん、任せて」
紫乃の片袖のないブラウスと、トマスの右腕を見て状態を察したルーシーが力強く頷いた。いつもはお転婆でメンバーとはしゃぎ合っているルーシーだが面倒見が良い。怪我人を放っておくことの出来ない性分の彼女に任せておけば、トマスは大丈夫だ。
「それじゃあ、みんなはここから離れてちょうだい。私はダンテのところに戻るから」
「なあ、待ってくれよ」
再び屋敷の中に戻ろうとした紫乃を引きとめたのはジャックだった。
「さっきの化け物は何だったんだ? 知ってるんだろ?」
紫乃はジャックへ振り向く。悪魔を見てしまったのだから、隠しだてすることもないと判断し、彼らに話すことにした。
「あれは悪魔なの。ただ相手を傷付けるだけの存在で、人間の敵よ」
「悪魔……? じゃあ、ダンテは何者なんだ? あの店は一体……?」
便利屋として店を構えていることはジャックも知っている。だが、開店はいつも夕方以降だし、こんな人通りのほとんどないスラム街でただの便利屋なんておかしいと思っていた。便利屋なんてものは表向きで、本当は別の仕事をしているのではないか、と。
「ダンテは悪魔を退治するデビルハンターなの。もし悪魔絡みの依頼があれば、合言葉を言ってくれたらいつでも駆け付けるわ」
悪魔を狩る存在。ああ、だから彼は随分と大きな剣を背負っていたのか。
「合言葉?」
首を傾げると、紫乃が微笑んで一言。
「『Jack pot』」
屋敷の中へ戻っていった紫乃の後ろ姿を見送ると、ジャックはメンバー全員の顔を見る。
「あとはダンテ達に任せよう。俺達はトマスの手当てだ」
ジャックを含む全員が、自分ではあんな恐ろしい生き物が相手では太刀打ち出来ないと悟った。この場はデビルハンターをしているというダンテ達に任せておけば良い。
そんなジャックの言葉に全員が頷き、トマスを支えながら屋敷をあとにした。
* * *
二階の物置部屋に戻ると、マハが元の姿になっていた。今までトマスがいたため、余計に怯えさせないよう配慮してくれたのだろう。
「あいつらは帰ったか」
「ええ」
「悪魔に襲われて掠り傷で済んだあいつは運がいい」
「ところで、上にまだ悪魔がいるようだぞ」
マハが上を見上げた。
紫乃もこのまま悪魔を野放しにしておくつもりはない。先程ブレスレットに戻したダンタリオンを再び刀へ変じさせると、ダンテがヒュウと口笛を吹いた。
「ダンタリオン使いこなせてるな」
「まだあまり使ったことがないけど、不思議と手に馴染んで使いやすいの。でも……」
「でも?」
「銃があれば、さっきのメフィストみたいに、離れた場所にいる悪魔にも攻撃出来るのに」
空中にいてガス状の衣を簡単に剥がせなかったことを思い出した紫乃が、やや不満げにそう漏らすと、
「俺が紫乃の銃になって守るから気にすんな」
とダンテが紫乃の頭に手を乗せる。
「……うん」
ダンテが守ってくれると言われて嬉しい半面、照れ臭さも感じた紫乃は、小さくはにかんで頷いた。
「さて、上で騒いでる奴らと遊びに行くか」
屋敷の三階には、階下よりも多くの悪魔が蠢いていたが、どれも下級悪魔ばかりでダンテ達の敵ではなかった。
ダンテがリベリオンで豪快に斬り捨て、紫乃がダンタリオンで鮮やかに斬りかかり、マハが爪と牙を用いて次々と屠っていく。空中を漂うメフィストは、ダンテ自身が言った通り、彼が銃で倒していった。
屋敷内の全ての悪魔の殲滅に、30分もかからずに終えることが出来た。
紫乃はふうと息をつく。
「これで終わりか。雑魚ばかりで張り合いがねぇな」
肩を竦めるダンテに紫乃は苦笑した。あの魔帝と戦い封印したのだから、スケアクロウとメフィストばかりの下級悪魔ではさぞ物足りなかっただろう。
「でも、来てくれて助かったわ。ありがとう」
「紫乃のためなら地球の裏側にも駆け付けるさ」
「マハもありがとね」
「私も主のためならば、どのような命令も厭わぬ」
紫乃は刀となったダンタリオンをブレスレットへと戻すと、『ゲート』を開いて事務所へと帰還した。
「ああ、そうだ。今日の依頼主からワイン貰ってきたんだ。一緒に飲もうぜ」
「うん。ワイングラス用意してくるね」
食事はダンテが仕事に出かける前に済ませてあるので、これからは酒を楽しむだけだ。
紫乃はワイングラスなどを取りにキッチンへ向かう。
「この際、他のワインも飲むか?」
「あ、いいね。飲んじゃおうよ」
事務所には酒が常備されており、そういえば最近ワインを楽しんでいなかったことを思い出したダンテが提案すれば、紫乃が上機嫌で同意した。
普段そこまで酒を飲まない彼女にしては珍しい返答にダンテも気分を良くし、数あるワインボトルの中でも良質なものを選び抜く。
紫乃と美味しいワインを飲み明かそう。今夜は素敵な夜になりそうだ。
今回の一件でダンテの名はもちろん、紫乃のことも有名になり、時折仕事の依頼で紫乃が指名されることもあった。女性で何かあってはいけないと、ダンテは紫乃を一人で行かせることは決してせず、依頼の時は自分も同行することにしていた。
そんな二人は常に寄り添い、お互いを信頼し合いながら悪魔退治の依頼をこなしていき、同業者や関係者の間ではさらに有名になっていった。
悪魔退治なら、『Devil May Cry』へどうぞ!
2013/08/16
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