もの凄い音がなった。確かに聞こえた

それでも痛みはなくて。
ゆっくり目を開けて見ると、俺の目の前にはスーツを着た男が立っていた。
そして、そいつの前にはキメラが居た。

ただ、俺の目に映ったキメラはさっきまでの威勢のいいものではなくて。ワニと犬が混ざった長い口がぐにゃりと曲がり、血が垂れて白目を向いた、…まさに死にかけのものだった。
ドスン、と鈍い音を立てて倒れるキメラ

「……」

正直、何が起きたのかわからない。
死んでもいいと思ってた。なのに助けられた…のか?
いや、待てよ…?
この…スーツを着た男は?

緑の長髪を赤い紐で束ねている後ろ姿しか確認出来ない。

「…誰、だ…?」

思いきって聞いてみた。
だけどかえってきたのは、はめていた皮のグローブを締め直すギュッ、という音のみ。

「お前、フウシンだろ?」

こちらを向くことなく、俺の名前を確認する目の前の男。俺の質問は無視というわけか。
…別に構わないけど。


「…何故、名前を?」
「丁度探してたからだ」
「俺を…、か?」
「おー」

短い会話のキャッチボール。まぁ俺にとってはこれでも長い方なんだが。

「このキメラ、お前が造ったんだろ?」
「え…」
「三匹混ぜれんのは現時点で科学者ポジションファーストである"フウシン"以外あり得ない、…ってな」
「……」

ちょっと待て。
もしかしてこいつ、殺し屋か?ファーストとか、ポジションを詳しく知ってるのはそう言う仕事をしている奴の証拠だと…いつかにちらっと聞いたことがあるし

「…お前は殺し屋…か?」
「だとしたら?」
「…あ…、いや…どうもしない…けど」
「ぶはっ、何だよそりゃ」


奴はこうやって含む言い方をしては笑ってみせる。

「…殺しに、来たのか?…俺を」
「あぁ、まぁな」


やはりそうか。
そろそろ俺も殺される頃だと思っていた。ファーストを与えられるイコール命を狙われやすくなるということでもある。それにあの一件以来、数々の失敗を犯してきたわけだし。それで何人も犠牲になった…

そして、俺は…


「…おい、殺るなら…、」
「でも、もう死んでたな」
「…は…?」

殺っても構わない、と言おうとしたら何を言い出すのかこの男は…
…と、今まで背中しか見せていなかったそいつがバッとこっちを振り向いた。

それでふと目が合った時、少しだけ。
本当に少しだけ、その男の真っ青な…深い青色をした目にゾッとした。

「死んでんだろ、お前。だからそんな目してんだろ、なぁ?」
「何を…」
「おいフウシン」
「…」
「どうせ死んでもいいようないい加減な命なんだろ?」

淡々と話すこいつの内容はわりと意味のわからないことだらけだ。目が死んでる、はよく言われるけど。イコール死んでるっていうのは初めて言われた。

…でも確かに、こいつの言うとおり。死んでも構わないんだ、どうなったっていいというのは間違いではない。


「おい。着いてきな、フウシン」
「いや…、は?何故そうなる」
「お前に拒否権はない。お前は余計なお世話と思うかもしれないけどよ、命の恩人だぞ。俺は」
「……」


そう言って右にはめてた血塗れのグローブを外しながら歩き始めるその男。俺はその背中を意味がわからないまま見ていた。

殺し屋なのに俺をキメラから守って。
そして挙げ句恩着せがましく言って最後には着いてきな…なんて。
別に俺は助けてなんて言ってないし、そもそもお前は俺を殺しに来たんじゃないのか?

「あの…」
「おー、そうだ」

俺の小さな声は、こいつのハキハキした声によって遮られる。

「俺はリオってんだ」


「…はぁ…」


この余裕を含んだ笑みを、俺はこの先どれだけ見ることになるのか…

この時は全く想像が着かなかった―――



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