あれから、ほんの少し休む時間を貰った。気付けば足は靴ズレだらけで。
それはそうだ、研究所からエリア3までの距離を歩いたのだから。歩き慣れていない俺の足は感情とは裏腹に、悲鳴を上げていたらしい

(それにしても…薬品臭いな…)

薄暗いこの個室はさっきいた科学班室の隣…。
科学準備室だからか、ソファーの他には薬品がずらりと棚に置かれていた。
小さい頃から毎日見続けている薬品のビン…、と

(ん…?)

見慣れないものが…
これは…コーヒーメーカーか?結構年期の入ったものが机の上に置かれている…。って、誰か入って来た

「……」
「…げ…っ」

横になる俺と入ってきたそいつとで、視線が合った
この長身は…

「…金髪…」

思わず声が出てしまった。奴は相変わらず眉間に皺を刻んだ表情で俺を見ている…

「だ…誰が金髪だ、ふざけんな」

(…?)

ん、何だろう。
さっきとは違う、怒鳴り声でも何でもない普通の声量でやつは俺の横を通り抜けて行った。そして、カチャカチャと言うビンがふれ合う音だけが室内に響く

「…ったく、ライのやつ。使ったらあった場所に置いとけってあれほど…」

小さな小言も聞こえてくる。どうやら何か探し物をしているようだ

「…おい、そこ」
「え…」

と。
突然頭側から声を掛けられて、固まってしまった。

「お前の下」
「は…下…?あ、これか…?」

どうやら俺の下に、金髪が探していた小ビンがあったようだ

「…あ、気づかなかった。ごめん…」

急いで起き上がり下敷きにされてた小ビンを取り手渡しすると、奴は普通に…バッと取るわけでもなく優しくそれを受け取ってくれた。

「あ…」
「な…なんだよ…」

じーっと見ていた俺に、奴は少し戸惑った口調で言う。が、すぐにそっぽを向いた。
なんだか、さっきの怒鳴り散らしていたやつとは思えないくらい穏やかだ

「…あの、俺…」

でもさっきとは違って穏やかと言っても、またいつ怒鳴り出すかわからない。とりあえずこの場を離れようと思った。それで起き上がって、靴を履こうとした時だ


「どこ行くんだよ。休めって言われてんなら休め」
「え…?いや、でも…使うなら…」
「足いてぇんだろ。黙って休んでろ。それにこっちは使わねぇ、邪魔したな」
「あ…、え…」
「…ったく、調子狂う…!」

もたもたする俺にまた小さく舌打ちした。そしてそれを最後に、奴は部屋から出ていった。

再び一人になる…。
あの金髪は、実は穏やかな奴なんだろうか…?
なんて考えながら起こしていた上体を、またゆっくりとソファーに埋める。

(この短時間にたくさん色々な事が起こったな…)

目に映るのは、天井…

(…リオが来なかったら、あそこで死んでたな)

そんな考えがまたふと頭に浮かんだ。

(……)

そうだ、死のうと思えば、リオがさっき言ってたけど…ここは17階なんだし。窓からでも飛び降りれば…

(あ…)

そう思えば、俺は死を望んだけど。自分から死のうと思ったことは……無い…?


全部"殺してくれ"だった…?

(…)

色々と辿って考えてはみたけど。でも結局、自分の中の空虚感は消えないままだった…






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