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17階に着いた頃にはすでにそいつはエレベーターの入り口に立っていた。どんだけ早いんだ、こいつは…という疑問が頭を過るが。それに優先順位を付けるとしたら、特にいらない質問の方だと思ったからあえて何も言わなかった。
「よし、こっちだ」
「あ…あぁ…」
とりあえずこいつが歩き始めたから着いて行く。
それにしても…
「おいフウシン、」
そう。これだ
「…あの、それ…」
「おー?」
「名前…」
さっきから名前を何度も呼ばれるものだから少し気になって。
俺は昔から名前で呼ばれることが少なかったから、今さら名前で呼ばれるのは少し違和感があるものだ
「名前がどうかしたか?」
「いや…ただ…、1日を通してそんなに呼ばれるのは無いことだから…少しだけ気になって…」
「ほー、そうかそうか。…いいよな、フウシンって」
「…」
「ん、イヤか?」
「あ…っ、いや、違う。イヤだとかじゃないけど…」
「ならフウシンでいいな、これからも」
これから…?
これからって…
「………」
「おー、今度はなんだ?」
「……」
「…ったく。おいフウシン。言いたいことあんなら言えよ。黙ってても伝わんねぇぞ?」
「……、殺さないのは何故だ?」
優先順位をつけるならきっと、この質問は俺の中では上の方。だから聞いてみたんだけど…一つ、間があいた。そしてため息と同時に返ってくる言葉
「またそれかよ。さっきも言ったけど、」
「…っ、生きていても悪いことことばかりだ」
あぁ、俺は一体何を言い出すんだ。我ながら駄々をこねてる子供みたいだと思った。けど、一度溢れ出すと何故か止まらなくなるものだ
「これ以上悪いことなんて見たくないし考えたくない…だから、」
「だったら、これから作ってけばいいじゃねぇか、楽しいこと」
「…あ…、……はぁ…」
溢れてたものが、止まらないと思っていたら簡単に止まった。
ダメだ、ポジティブなやつにネガティブなこと言っても気持ちなんてわかって貰えない。少しでも熱くなった自分が……って、ほらまただ。
どうして俺は他人に何かをわかってもらおうとしているんだ……?
「くくっ。……って、フウシン!着いたぞ。無駄にデケェのとご対面だ」
考えている内に、科学班室と書かれたドアが開かれた……と同時にものすごい空気が重い事に気付く。
でもそのシンとした空気は、怒鳴り声と共にぶち壊れた―――
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