あの嵐の日、滝に飛び込んだ。俺の記憶はそれから少しの間途切れている。

あの増水した川と流れの早い滝に飛び込んで、運良く生きて流れ着く先は獣人の住む村だってことは計算と情報でわかっていたんだ
まぁ…あのまま死んでも良かったけど…、なんて言ったら怒られちゃうね


「私はルプル、あなたの名前は?」

そうか、君はルプルと言うんだね。俺はずっと、君のような力を持つ獣人に会いたかったんだよ。
君と居れば、俺は追われる事がなくなると思っていたから。最初は本当にそれだけの理由だったよ

でも君は無機物なんかじゃなくて、生きているから。笑ったり、泣いたり、悲しんだり、喜んだりする。

俺はいつしか、そんな君に。だけど言えない。俺と君は歳も違うし、何より俺は……

「博士でいいよ」
「え、でも名前が無いと不便だわ」
「じゃあ…、名前は博士」

君は困った顔をした。
でもあの時はどうしても名前を知られてはいけなかったから。とくに獣人には絶対に。
そして君を逃すわけにはいかなかったから。

だけど今は、もっと別な感情が…


君が俺の名前を知ったら、泣くかな?憎むかな?

…どちらにしてもきっと、俺を嫌いになるんだろうね


ねぇルプル…
俺の、名前はね――







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