バレンタイン企画 | ナノ



黒基調のシックな部屋には似合わない、甘ったるい匂いが漂う。その原因は目の前にあるテーブルにあった。


「おーいしー。臨也マシュマロ食べた?私これが一番好きかも」


隣でむぐむぐとマシュマロを味わっているのは、俺の恋人であるなまえ。今度はパインにトロトロに溶けたチョコをつけて頬張る。


「(可愛いなぁ)」

「、なに?」

「ん?なまえ可愛いなーって」


思ったことをそのまま口にすると、なまえは顔を真っ赤にして俯いた。本当に可愛いんだから、もう。

なまえが俺のマンションに来たのは30分ほど前。板チョコとマシュマロやパン、フルーツを大量に持ち、満面の笑みで「チョコフォンデュしよう!」と言った時は思わず固まってしまった。


「でもすごいなぁ。チョコフォンデュする道具まであるなんて、さすが臨也だね」

「元はチーズフォンデュをする為のものだけどね」


まぁ、チーズもチョコもそんな変わんないけど。

それにしても可愛いなぁ!カットしたフルーツをむぐむぐ食べる姿はまるで小動物だ。そんななまえを抱き上げて、俺の膝の上に乗せた。


「わっ…どうしたの突然」

「んー、なんとなく」

「これじゃ臨也食べれないじゃん」

「いーの」


膝から降りようとするなまえを後ろから抱きしめて、項に鼻を埋めた。チョコレートとは違うふわふわした匂いは、俺をくらりと酔わせる。


「…なまえって、見た目小動物のくせにエロい匂いするよね」

「えーそうかなぁ。てかなんか変態くさいよ臨也…」


語尾が小さくなってるのを聞くに、また赤面してるに違いない。クスクス笑いながら更に抱き寄せて項におでこを当てると、なまえはくすぐったそうに身を捩った。


「っもう、はいこれ!」

「ありがと」


ずいっとチョコがついたイチゴが後ろ手に差し出されて、俺はフォークを受け取った。甘酸っぱいそれに、ああ、こういうのが恋の味って言うのかな、なんて我ながらクサイことを考えていると、なまえが今度はマシュマロを差し出してきた。


「あ、やば」

「ん?」


フォークを受け取った拍子に、なまえの項にチョコレートが垂れてしまった。人肌にまで温められたチョコレートではなまえはそんなに驚かなかったらしい。

だから、そんななまえを驚かせたくて、俺はニヤリと口角を上げた。


「ひゃあっ」


ぺろ、とそのチョコレートを舐めとる。瞬間になまえがびくりと震えた。予想どおりの反応に喉の奥で笑うと、半分体をこちらに向けたなまえに睨まれた。


「ごめんごめん。あまりにも美味しそうで」

「意味わかんない」

「それより、今度はバナナが食べたいなー」


マシュマロを飲み込みながらフォークをなまえに手渡す。なまえはため息をつきながらもちゃんとバナナにチョコレートをつけて渡してくれた。
そういう素直なところも可愛くて大好きだよ。


「っ!また…、んっ」

「ねぇ…どうしようこのプレイ結構燃えてきちゃった」

「私は全然燃えな…って、やだ、痕残さないで…!」


今度はわざとチョコレートを垂らした。舐めた時に柔い皮膚に吸い付くと、簡単に赤い痕が残った。その痕をチロチロ舐めると、なまえが腕の中でバタバタと暴れだす。


「臨也、もうやめ…っ」

「だーめ。なんか止まんないもん」

「うー……」


ぱたぱたと抵抗していた手を取って手の甲に口付けると、なまえは耳まで真っ赤にしておとなしくなった。ごめんねなまえ。諦めて。


「せっかくバレンタインを一緒に過ごそうと思ってたのに…」

「一緒に過ごしてるじゃん」

「、そうじゃなくて!チョコフォンデュしながらってこと!…あ、そうだった」


突然真顔になったなまえはもそもそと腕の中から抜け出した。少し拍子抜けしていると、小さなピンクの袋が差し出される。


「私、ちゃんと作ったんだよ。トリュフ」

「え…今このタイミングで渡すの?」

「チョコフォンデュの買い物してたらすっかり忘れてた」


普通忘れるか?とか、渡すのは今じゃなくても良かったんじゃ?とかいろいろ不満はあるけれど、屈託のない笑顔でそう言われたらもう俺は苦笑しながら受け取るしかないわけで。


「食べていい?」

「どうぞー」


一口サイズのトリュフを一つ口に入れる。仄かに感じるアルコールとビターなチョコレート。ほんと、見た目小動物のくせに、ちゃんと大人の味ってわかってるよなぁ。


「臨也の口に合うといいんだけど…。どうかな?」

「美味しいよ、すごく美味しい」

「良かった」


ほっと胸を撫で下ろしたなまえを、今度は正面から抱きしめる。小さい背中に腕を回して、肩に顔を埋めると、なまえも笑いながら俺の背中に腕を回した。


「なまえ、ありがとう」

「うん。ハッピーバレンタイン、臨也」

「ハッピーバレンタイン、なまえ。…愛してる」


なまえは小さくうん、と呟いて背中に回した手に力を込めた。「私も愛してる」って言えたら完璧なんだけど。
まぁそれは、美味しい手作りチョコとおとなしく腕の中に収まっているなまえに免じて許してあげるよ。






子供で大人な

「それじゃ、早速ベッド行こうか!」
「お断りします」






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甘くするつもりが、臨也さんが変態に…!変なプレイとかさせてすみませんでした!(土下座

ゆいさま、ありがとうございました!