バレンタイン企画 | ナノ



ふんふんと鼻歌を歌いながら池袋の街を歩く。スキップしたい気持ちを抑えながら少しだけ手の中の袋を揺らした。

そんな私の肩を、誰かがぽん、と軽く叩いた。


「、臨也!」

「やぁ」


振り返ると黒いコートを身に纏った臨也がそこに立っていた。ニコニコと細められた瞳が、手の中の袋に向かう。


「それ、シズちゃんに?」

「うん。バレンタイン」

「なまえはよくあんな化け物と付き合えるよねぇ」

「静雄は化け物じゃないよ」


むうっと頬を膨らませると、臨也は宥めるように両手を上げた。…自分から言ったことなのに。


「というか私もう行きたいんだけど。時間無いし…」

「まぁまぁ、大丈夫だよ。それよりその袋の中身は何?クッキー?ケーキかな?」


何が大丈夫なのかさっぱり分からない上に矢継ぎ早に質問されて、私も逃げるに逃げられなくなってしまった。早く静雄の所へ行きたいのに、臨也はなかなか私を離してくれない。

やっとの思いで臨也を振り切り、待ち合わせ場所の公園に入る。そこにはもう静雄がいて、私は小走りで静雄に近づいた。


「静雄!」

「……おう」

「ごめん、待った?」

「まぁな」


何だか静雄の機嫌が悪いような…?サングラスの向こう側にある瞳はよく見えないけれど、黒いオーラはなんとなく見えます…。


「静雄、なんか怒ってる」

「……」


疑問系ではなく肯定文で言うと、静雄はくわえた煙草を手に取って白い煙を吐き出した。それは大きなため息にも聞こえて、私は眉をひそめる。


「ちょっと、何なの?」

「そりゃこっちの台詞だ。臨也の野郎と立ち話して遅れてくるなんて」


どうやらさっきのやり取りを見ていたらしい。これはヤバいなぁ…。


「俺との待ち合わせよりノミ蟲との世間話の方が大事ってことかよ」

「はぁ?」


ちょっと待ってよ。私は別に臨也と話したかったわけじゃ…てか私だって早く静雄に会いたかったっつーの!
という心の叫びを吐き出す前に、静雄がまた口を開いた。


「……帰る」

「は!?」

「帰るっつったんだよ。お前はノミ蟲にでも相手してもらえばいいだろ」

「はああ!!?」


これはさすがに、堪忍袋の緒が切れた。確かに遅れてきた私が悪いけどそんな言い方しなくたっていいじゃない!だいたい遅れたのだって臨也に無理矢理絡まれたからで…!


「私だって好きで臨也と話してたわけじゃない!私だって、私だって早く静雄に会ってこれ渡したくて…っもういい!」


言葉より涙が出てきて、私はその場から走りだした。後ろで静雄の声が聞こえる。でも、足は止めない。
人混みの中を掻き分けて掻き分けて、走りから早足に変わった頃、袋の中から作ったマカロンを掴み出した。


「こんなの…っ」

「おい!」


突然反対の腕を掴まれて肩がびくりと跳ねる。ゆっくり振り向くと、そこには見慣れた金髪が立っていた。


「何よ」

「何って…その、お前のさっきの言葉…本当か?」

「まだ疑うんだ?…そうだよ、私静雄に会ってこれ渡すつもりだったんだよ!」


掴んでいたマカロンを一気に静雄の口に押しつける。明らかに容量オーバーなその量に、私の指の隙間からぼろぼろとクリームや生地が零れた。
静雄は目を見開いて、こくん、とちょっとだけ口に入ったマカロンを飲み込むと、今度は自ら口を開けて口と私の手の間にあるマカロンを食べていった。最後にペロリと私の手のひらを舐めて、申し訳なさそうな顔をする。


「なまえ…」

「なに」

「悪かった」


捨てられた子犬のような目でこちらを見てくる静雄から、思わず目線を逸らす。その目、反則だっての…!


「なんつーか、なまえが他の男と…ましてや臨也と話してるの見たらイライラ、して」

「……いいよ、もう」


ぶっきらぼうに返すと、握られた手が僅かに揺れた。
さっきまで怒りで頭に血が上ってたのに、今は別のことで血が上ってる。


「その…マカロン、もっと食べたい」

「…仕方ないなぁ。こうやって手作りで渡すの、静雄だけなんだからね?」


少し睨み付けるように目線を上げれば、静雄は赤くなりながらも嬉しそうに笑った。その笑顔に、私もつられて笑う。


「それにしても、もったいねぇな、これ」

「うん。でもまだたくさんあるし…って、」

「ふはい」


ぱく、と静雄は私の指をくわえた。いや、確かに私の手はクリームやら何やらでべたべたですけど!いきなりそういうのしないで心臓止まる!


「ん、綺麗になった」

「静雄の唾液塗れだよちくしょう」

「やっぱうまいな。早く家帰って食おうぜ」

「人の話を聞け!」


さっきまでのことが嘘のようにけろりとした態度を取っているけど、私は敢えて気付かないフリをした。

先に歩きだした静雄の耳が、まだほんのり赤く染まっている、なんて。






嫉妬は苦く、
チョコは甘い


「ところでよぉ、なんで臨也と一緒にいたんだよ」
「無理矢理絡まれて」
「よぉし殺す。明日殺す確実に殺すめらっと殺す」
「(明日の池袋は荒れるな)」






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ベタな展開をもっと上手に書ける技術が欲しいです…。詳しい設定を送っていただいたのに活かせている自信がないorz
嫉妬ネタ大好きです!静雄はきっと臨也以外でも怒りますね(笑)

咲さま、ありがとうございました!