バレンタイン企画 | ナノ



女の子が男の子にチョコレートを渡すという、もはや社会現象と化した日。
私は静雄のアパートを訪れていた。


「しーずーおー」


返事はない。
あれ?さっき電話したときは家にいるって言ってたんだけどな…。てか鍵かけてないし。無用心。
なんて思いながら勝手に上がらせて貰った。きょろきょろと部屋を見渡すけどいない。ん?なんか寝息が聞こえる。


「こいつ……」


リビングとはカーテンで仕切った向こうの部屋に、静雄はいた。ベッドの上ですぴすぴと寝息を立てている。くっそ可愛い寝顔しやがって。


「静雄ー、起きろー」

「ん…、ぁ?」

「あんたさっきは電話に出たじゃない。起きてたんじゃないの?」

「あー…二度寝した」


そういや電話越しの声がはっきりしないなとは思ったけど。電話越しだからなんて思って気にしなかった。

また眠りに落ちようとする静雄から布団を剥ぎ取る。静雄はダンゴ虫のようにベッドの上で縮こまった。


「さみぃ…」

「そう思うんだったらいい加減半袖で寝るのやめなさい……って、うわ」


いきなり腕を引かれて私もベッドにダイブした。正確にはダイブさせられた。
気付けば静雄の腕の中。これはまずい。非常にまずい。


「なまえあったけー……」

「私を湯たんぽ代わりにするな!……はぁ。これじゃせっかく作ったプリン食べれないじゃん」

「プリン?」


私を抱いたまま静雄は勢い良く起き上がった。まだうとうとしてる癖に、プリンにはしっかり反応している。彼女よりもプリンってかこの野郎。

静雄に抱かれたまま、私はそう、と頷いた。


「食う…」

「あっちにあるよ」

「ん、」


私を抱えたまま、のそりとベッドから降りてリビングへ向かった。ちょっとこれ犬みたいで恥ずかしい。
私をソファに下ろすと、静雄はキッチンからスプーンを持ってきた。


「……」

「……」

「……」

「…わかったわかった。そんな見つめなくても今出してあげますよ」


テーブルに置いた箱を開ける。中には4つのプリン。いつもとは違うプリンに、静雄は感嘆の声を上げた。


「今日はね、チョコプリン」

「チョコ?」

「はい問題です。今日は何月何日で何の日でしょうか?」


寝起きの頭で必死に考えている静雄は、見ててなかなか面白い。カレンダーで日付を確認して、やっと静雄は「ああ」と納得した。


「バレンタイン」

「正解。だからね、チョコにしてみたの」

「そうか…。あ、なまえ」


箱から出したチョコプリンをまじまじと見たあと、静雄は私にスプーンを差し出した。


「なに」

「あ」

「え?」

「あー」


ぱかりと口を開いてそこを指差す。…そうかそういうことか。私に食べさせろ、と、そういうことですか。
呆れからため息をつくけど、答えてあげる私も私だ。


「はい、あー」

「ん」

「おいしい?」

「ん、うまい」


もっと、とねだる静雄にプリンを食べさせていると、突然静雄が私を抱き上げた。膝の上で静雄と向き合うように座らされる。


「こっちのがいい」

「…はいはい」


まったく…これじゃデカい子供だ。でもプリンを食べてへにゃりと笑う静雄を見てたら…なんか、うん。別にいいかな、なんて。

静雄は空になったプリン容器をテーブルに置く代わりに、また箱からプリンを取った。


「寝起きでプリン2個って…お腹壊すよ?」

「大丈夫だって」


何を根拠に。
パクパクと、今度は自分でプリンを頬張っている静雄を見ていて、なんだか自分も食べたくなった。から、静雄の腕に手を伸ばす。


「あー、」

「……」


静雄と同じように口をかぱりと開けた。けど、静雄はじっと見つめたあとに掬ったプリンをぱくりと自分の口の中に入れてしまった。


「え、くれないんんッ!?」


ムッと頬を膨らませた私の口に噛み付くようなキスをされる。無理矢理唇を抉じ開けられて、そこから冷たい何かが流れ込んできた。
ちょっ、マジ…?


「ん、んん……っ!」

「は、」

「ふぅ、んく…」


こくりと喉が鳴るのを確認してから静雄はやっと唇を離した。ぐったりと静雄の胸にもたれかかる。


「死ぬかと…」

「うまかったろ?」

「味なんかわかるかバカ」


ぐっと額をその胸板に押しつけると、静雄は喉の奥でくつくつと笑った。そして今度こそスプーンに乗せたプリンを私の口元に寄せる。


「あま…。もうちょっと甘さ控えた方がよかったかも」

「そうか?俺は別に普通だけどな。…ん、うまい」


そう?と静雄を見上げて、返事をされる前にその唇に噛み付いた。だんだん深くなる口付けに静雄が私の腰に手を回す。たっぷり時間をかけてキスをしたあと、私は意地悪そうに笑った。


「どっちが甘い?」

「……断然、こっち」


ぺろりと私の唇を舐めて、またキスをする。

ああ、この行為が終わる頃にはきっと、プリンは溶けてしまっているだろう。






溶けるからだ

「あ…なまえのチョコプリン、が……」
「…また作ってあげるから」






◆◆◆◆◆
ただイチャイチャしているだけのお話になった気が…汗
静雄はいつまで経っても甘えたさんなイメージがあるので甘えさせてみました。あーんとか…本当にすみません…!
あと感想などは気にしなくても大丈夫ですよ。読んでくださっただけですごく嬉しいです!

ぜろさま、ありがとうございました!