「これでよし…っと。……これでよし、なのか?」
チョコタルトを前に、腕を組んで首を傾げる。
もはや5個目となったチョコタルトは、1個目よりは見栄えがいい。まぁフルーツとか乗ってるわけじゃないから見栄えも何もないのだけど。
「問題は、味か……」
チョコの甘さとかリキュールの量とかいろいろ試して出来上がった5個目のチョコタルト。津軽好みの味にできたと思うんだけど…。
…正直、自信がない。
津軽はかなり料理が上手い。そこらのレストランで食べるより、家で津軽の手料理を食べる方がよっぽどいい、と思えるくらいに。
そんな津軽に私の手料理をあげるのは、とっても恥ずかしいと言いますか、緊張すると言いますか…。
「ぜっっ…たいムリ!」
ガツンとシンクに頭をぶつける。
でもなぁ…せっかく作ったしなぁ。
食べてもらいたい、なぁ…。
「…考えても仕方ない!とりあえず片付けよ」
1個目から4個目までは静雄とか臨也とかドタチンたちにあげればいっか。味見の為にちょっと欠けてるけど津軽の為だ我慢してもらおう。
あらかじめ買っておいた箱に練習台たちと本命を一つずつ入れて、まとめて私の部屋に置いておくことにした。
津軽が帰ってきたのはちょうどキッチンの掃除が終わった頃だった。
「ただいま」
「おかえりー」
「夕飯何食べたい?」
「うーん……パスタ!」
「分かった。…なまえ、」
「なに?」
「なんか、甘い匂いがしないか?」
びくりと私の肩が跳ねる。
相変わらず鋭いですね津軽さん…。ソファの上でぎこちなく津軽の方に顔を向けながら、私は作り笑いを浮かべた。
「き、気のせいじゃない?」
「そうか…?」
「そうだよ!」
まだ首を傾げながらも納得した津軽に胸を撫で下ろす。ふー、危ない危ない。
その後津軽が作ってくれたカルボナーラで私はますます自信を失った。和服で作ってめっちゃ美味しくてそんでカッコいいってどういうことよ。
「(やっぱり無理…)」
「なまえ」
「なっなに!?」
「何か、隠し事してる?」
ソファで隣から覗き込まれれば本日二度目の肩が跳ねる。その青い瞳から逃れるように視線を外してブンブンと手を振った。
「や、別に!?」
「でも、なんかそわそわしてるし…。それとも俺には話せないことか?」
しゅん、と見るからに落ち込んでいる津軽を見て私が隠し通せるわけ、なかった。
ちょっと待ってて、と言い残し自分の部屋からあの箱を持ってくる。
「実は、ですね」
「ああ」
「今日はバレンタインデーなので、津軽にチョコタルトを、作ったのですよ」
「…ああ!」
ああ!って…。もしかして今日がバレンタインって知らなかった?いやいや津軽だったらあり得るよ…!
いそいそと箱からタルトを出しながら軽くため息をついた。
「美味そうだ」
「いや、見た目は良くても味は保障できないから!」
「食べる」
人の話聞いてますかー?
津軽はキッチンからナイフとサーバー、それに皿とフォークという、食べる気満々の道具を持ってきた。
早速切ろうとする津軽から「いや、私がやる」と言ってナイフを奪い取り、私が切り分ける。
「いただきます」
「ど、どうぞ…」
こんなに緊張したのはいつ以来だろう。料理長に味見してもらう新人シェフの気持ちって、こんな感じ?
ドキドキと津軽がタルトを飲み込むのを待つ。
「……うまい」
「ほんとっ!?」
「ああ」
津軽は笑って頷くと、またタルトを口に運んだ。良かった。良かった…!
食後なのにあっさり2切れを完食した津軽の横で、安堵の息をしてコーヒーを飲む。
「はぁ…。本当に良かった」
「そんな大げさな」
「大げさじゃないよ。津軽ってすごく料理上手じゃない。私の中で一番だし。だからさ、私の手料理食べて不味かったらどうしようって、そう思ったら出せなくて」
なんとなく気恥ずかしくて、膝の上で指遊びをしながら小さい声で理由を話した。と、津軽が突然私を抱きしめた。
「つ、津軽…?」
「チョコの甘さも、酒の風味も、全部俺好みだった。なまえが俺の料理を一番だと言ってくれたように、俺だってなまえの料理が一番好きだ」
ぎゅう、と更に力を込められて、私は嬉しいんだか恥ずかしいんだかで心臓がうるさかった。
ただ、今度からは私も津軽にご飯作ってあげよう、なんて、うるさい心臓の音を聞きながら考えた。
君には適わない「実はまだ実験台のが4個ほどあるんだけど…」
「食べる」
「えっいいよ!他の人に配ろうかと思ってたし」
「全部食べるから…他の奴になんかやるな」
「(なにこいつかわいい)」
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津軽は料理上手、が定着しているこのサイトで、ものすごくおいしいシチュエーションをいただきました!
津軽は恋愛もののイベントにはあまり関心がなさそう…ということで、夢主に言われるまでバレンタインを忘れていた津軽。でもホワイトデーにはものっすごいお返しをしてくれるに違いありません(笑)
小町塑羅さま、ありがとうございました!