今日はバレンタインデー。
女の子はみんなこの日に気合を入れる。かく言う私もそんな女子の一人で、机の横には紙袋が下がっていた。
「(渡せるかなぁ…)」
紙袋の中には大量の友チョコと…一つの、本命チョコ。あげる相手は私の隣の席の平和島くん。
どうしても今日中に渡したいのだけれど、朝から話し掛けては恥ずかしくなって逃げる、を繰り返して気付けばお昼休みになっていた。
うう…こ、今度こそ!
「へっ、平和島くんっ」
「ん?」
うわ声裏返っちゃった恥ずかしい!自分でも顔が熱くなるのが分かる。何度目かもしれない感覚に、私はガタリと立ち上がると「なんでもない!ごめんね!」とまた教室から逃げ出した。
「また、ダメだった…」
逃げ込んだトイレで盛大なため息をつく。朝からあんなやり取りを何回もしてるんだもん、平和島くんだって呆れてるよね。面倒くさいって思われてたら、どうしよう…。
そこまで考えて、ぷるぷると頭を振った。
「(ダメダメ!もっと前向きに考えないと!勇気出せ、私!)」
入学してすぐ、上級生に絡まれていた私を助けてくれた平和島くん。あの時からずっと…好きなんだもん。
なんとしてでも渡したい!
「よし、頑張ろ!」
決意を新たに、私はトイレから飛び出した。
「(うぅー……)」
私の決意は、一体…。
休み時間の度に話し掛けるのだけれど、結局チョコは渡せないまま、下校時間になっていた。
朝より軽くなった紙袋を手に、重いため息をつきながら生徒玄関に向かう。
「……え?」
あれ、あのシルエットってもしかしてもしかすると…?
「平和島、くん?」
「あ?……あぁ、みょうじか」
ちょうど帰るところだったのか、スニーカーの爪先をトントンしている平和島くんが、いた。
こっ、これは…神様が恵んでくれた最後のチャンスかも!
「あの、平和島くん…」
「んー?」
「えっと、あの、」
じわじわと顔が熱くなる。真っ白になりそうな私の頭に、ぽすりと何かが乗った。
「みょうじ、お前なんか今日変だぞ?」
「ぇ、」
平和島くんの、手、が。
私の頭に乗ってるううう!?
しかも顔、顔ちかいっ!
「どっか具合悪いのか?だったら無理しない方が」
「だっ、え、大丈、夫」
「本当かよ」
こつん、と額に小さな衝撃。近かった顔が更に近くなる。
平和島くんはハッとして、慌てて顔を離した。
「わっ悪い!昔から熱ある時はこうやって確認してて!…って、大丈夫か?顔真っ赤になってるぞ!」
「は、ぇ…うん!」
まさかこんな展開になるとは思いもしなかったよ…!
で、でも今度こそ渡すって決めたもん!ちゃんと、渡さないと。
「あのね、平和島くん」
「なんだ?」
「あの、あの…」
「なんだよ。言いたいことがあるならハッキリ言わねぇと…わかんねぇ」
ガシガシと頭を掻きながら平和島くんが私に視線を向ける。心臓が破裂しそう。でも…そうだよね。言わなきゃ、伝わらないよね。
「これ、平和島くんに渡そうと思って…」
「これ?」
紙袋から出した最後の一袋を差し出す。平和島くんはそれを見て目をぱちくりさせた。あああ恥ずかしいよう!
「きょっ、今日はバレンタインデーだから!チョコを!」
「え…俺にくれるのか?」
平和島くん以外の男子になんかあげないよ!それより早く受け取ってほしい。心拍数がやばい…!
平和島くんはしばらく固まったあと、照れくさそうに笑ってラッピングされたチョコを手に取った。
「あ…ありがと、な」
「いっいえ…」
しばらく二人で沈黙。
その沈黙を破ったのは平和島くんだった。
「あ…じゃあ俺帰る、けど」
「うん…」
「もし良かったら、一緒に帰んねぇ?」
「え?」
「っ悪い!やべぇ俺勝手に勘違いして……」
大きい手のひらで顔を隠しながら背を向けた平和島くんの袖を、くいっと引っ張る。
「一緒に…帰る…っ」
今日の最後の勇気を振り絞って出た言葉はとてもか細かったけれど。
平和島くんは笑いながら「おう」と返事をしてくれた。
意地悪な甘さ「もっとこっち寄れよ」
「う、うん…」
「お前、すぐ顔赤くなんのな」
「うぁ…ごめん」
「いや…(おもしれー)」
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あまり攻めな静雄を書けなかった気がします…汗
静雄はまだ付き合っていない時は無自覚で攻めそうだな、という私の妄想を詰め込んだお話でした←
彩夏さま、リクエストありがとうございました!