……えー。
私はいま、とっても困ってます。
「津軽、いい加減離してくれないかな?」
「それは無理だ」
私の両腕は八面六臂と津軽にがっちりホールドされていた。身動きが取れないから、二人の間であたふたするしかない。
そもそもどうしてこうなったかというと、どうやら私を捕まえるとチョコが貰える、という勝手なルールがいつの間にか出来上がっていたらしく…ちゃんと全員分用意してあるのに。
「何度も言うけど、なまえの腕を掴んだのは俺の方が早かったからね?」
「いや、俺の方が早かった」
「だいたいこういう時は年功序列で俺に譲るものじゃない?俺長男だよ?」
「恋愛に年齢なんか関係あるか」
「津軽ってたまにクサイ台詞簡単に言うよね」
腕を掴まれたまま私を挟んで行われる口喧嘩(?)に、私もうんざりする。お前ら子供か子供なのか。普段は冷静な大人なのになぁ…。
「ねぇ、私ちゃんとみんなの分用意してるよ?」
「俺はバレンタインをなまえと二人きりで過ごしたいんだよ」
「…俺もだ」
イケメン二人にそう言ってもらうのはとても嬉しいんだけど…やっぱりこの状況はあまり嬉しくない。
─こうなれば最後の手段だ。
私は意を決して口を開いた。
「二人とも手離さなかったらチョコあげない」
「「え…」」
「だからとりあえず離して」
「「でもなまえ、」」
「3日は口利かないよ」
そこまで言ってようやく二人は諦めたようだった。「せーので離すからね」と念入りに確認して、八面六臂が「せーの」と声を掛ける。
「はい、じゃあなまえは俺がもらってくということで」
「は…ちょっ、デリック!?」
八面六臂も津軽もちゃんと手を離したのに、私の自由は束の間だった。腕を解放された途端後ろからデリックに抱き上げられたからだ。
実に爽やかな笑顔でじゃ、と片腕を上げると、デリックはスタスタと歩きだす。
「いや待て待て待て」
「俺たちが黙って見逃すと思うか?」
がしり、と八面六臂と津軽の手がデリックの肩を掴んだ。なんだかさっきよりも状況が悪化してる気が…!
デリックの腕の中でだらだらと変な汗をかいている私を知ってか知らずか、デリックは笑顔を崩さずにあっさりと言い放った。
「じゃあ俺の分のチョコお前らにやるから、なまえは俺のな!」
「いや意味わかんないし」
「俺、チョコよりなまえが欲しいんだもん」
「そんなの俺だってそうだよ!チョコよりなまえが食べた「八面六臂、気持ちはわかるが今は自重すべきだ」
「オイお前らチョコレートもやんねーぞ」
さっきから随分好き勝手やってくれてるじゃない。さすがに怒るよ?イケメンだから何でも許されるってわけじゃないんだよ?
「はい決めました。今年はバレンタイン無しね」
「「「え?」」」
「だから無し。作ったチョコは私が食べるから」
力の抜けたデリックの腕から抜け出してキッチンへ向かう。冷蔵庫から昨日作ったチョコババロアを取り出して、躊躇いもなくそれを口に入れた。
「ん…おいしい」
「あの…なまえ?」
「なに?いつまでも喧嘩してる八面六臂たちには無いよ」
あーん、とまた一口。我ながら良い出来だ。これを食べてもらえないのは正直ちょっと凹むけど…でも自分で言いだしたことだし、たまには厳しくしないと。
……本当は、みんなで仲良く食べてもらいたかったんだけどなぁ。
「……うあー!わかったわかった、謝るよ!八面六臂、津軽、ごめんな」
「あっデリックずるい!最初に謝るとか…」
「八面六臂、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう。二人とも、俺も大人気なかった。悪かったな」
お、なんだか和解の雰囲気?
残るは八面六臂。彼は自分の顔を袖の赤いファーで隠しながら、もごもごと口を動かした。
「…ご、めん」
八面六臂が言い終わると、三人がこちらを見つめてきた。軽くため息をついて三人に手招きをする。
「みんなこっちおいで。ババロアはまだあるから、みんなで食べよう」
ぎこちなくテーブルにつく三人に、冷蔵庫からババロアを取出しながら苦笑する。まったく、素直じゃないというか何というか。私もチョコも、逃げたりしないのにね。
「はい、どうぞ」
「ん」
「いただきます」
「…うまっ!」
八面六臂がみんなに配って、津軽が号令かけて、デリックが感想を言う。なんだ、息ぴったりじゃない。
頬杖をついて三人を見て思わずくすりと笑った。
「なまえ、なに?」
「んーん。…私、八面六臂も津軽もデリックも大好きよ」
私の言葉を聞いたあと、三人ともぽかんとし、八面六臂は袖で顔を隠し、津軽は微笑み、デリックは少し照れたようにはにかんだ。
……うん。やっぱり私、この子たちのこと大好きだ。
愛の山分け「じゃあなまえは今日俺と寝るから」
「何言ってる。俺とだ」
「ちげーよ俺だよ!」
「いや、普通に私一人で寝るからね」
◆◆◆◆◆
なんだか全体的にキャラ崩壊してる気が…。
そしてデリックの出番が予想以上に多くなってしまいました。こ、こんな感じでよろしかったでしょうか…?
風見刹那さま、ありがとうございました!