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好きだ、好きだ、好きだ。





俺には最近悩みがある。悩みと言うよりは不満に近いが、まあ簡潔に言うとだ。


なまえが恋人として、俺に接してくれない。


こんな気持ちになるのは初めてじゃねぇし、大勢の人間が一緒に暮らしてんだから、なまえがいつも俺に構ってらんねぇのもわかってる。
わかってるんだが……。


「なまえ、今度の日曜どっか行くか?(二人で)」

「あ、じゃあ津軽とサイケも連れてっていい?あの子たち、自分の欲しいもの全然買いに行かないんだよね」


とまあ、こんな感じに発展しちまうのはどうかと思うわけだ。いや、俺が一言足りねぇのがいけないかと思わないわけではない。

でも、やっぱり、こんなのが何日も何週間も続くと、


「(俺はもうただの同居人としか見られてないんじゃねぇのか…?)」


なんて考えてしまう訳で。

そんなことを悶々と考えていたある日、風呂上がりにリビングへ戻ると、なまえがソファの上でチビとサイケにべったりくっつかれていた。
津軽もちゃっかり隣に座ってたりして、そんな四人の会話に臨也が加わったりして。

俺のことなんか気にせずに幸せそうに笑うなまえに、なんだかイライラした。


「はぁ……」


見てらんねぇ。
これ以上この光景を見てたら、きっと俺は家のモノを壊しちまう。
そんなんで気を引くつもりはさらさらない。俺は何も言わずに自分の部屋に戻った。


「子供かよ、俺……」


チビはまだ子供だし、サイケは元々スキンシップが過剰だし、津軽は俺と同じ顔して性格いいし、ノミ蟲は俺となまえにとってノミ蟲以外の何物でもねぇのはわかってる。

わかっててイライラしてんだ、俺。マジでガキくせぇ……。

外で一服でもしてくるかと立ち上がった時に、コンコン、のノックの音が聞こえた。


「……静雄?」


なまえの声だ。
…クッソ。会いたいんだか会いたくねぇんだかわかんねぇ気持ちのまま、手は勝手にドアを開けていた。


「どうしたの?」

「あ?」

「なんか、様子が変だったから……」


様子が変?そこまで気付いて原因はわかんねぇのか、なまえは。胸の中に、抱きたくない感情がメラリと揺れるのを感じる。


「何か悩みがあるなら相談に乗るよ?」


──…誰のせいだと思ってやがる!!

ドサリ、ギシリとスプリングの軋む音がした。


「痛ッ……!」

「あ……、」


ビクリ、と自分でも肩が震えるのを感じた。
いつの間にかなまえをベッドに押し倒しその腕を強く押さえ付けていて、その痛みになまえが顔をしかめたからだ。

なまえが、ため息をつく。


「こら、静雄」


やばい。嫌われた、かも。
勝手に怒ってなまえに当たって、面倒くせぇ男って、呆れられたかも、しんねぇ……。

俺が手を離してベッドの上でうなだれると、なまえがまた小さくため息をつくのが聞こえた。


「言いたいことがあるなら、言わなきゃわからないでしょう?」

「は……?」


思わぬ言葉に顔を上げると、なまえは困ったように笑った。


「私、ちゃんと聞くから」


ほら、ね?と催促するように頭を撫でられて、自分でもよくわかんねぇけど、ちょっと泣きそうになるのを、必死に堪える。


「っ…………なまえが、悪い」

「ん?(あれ、私何かしたっけ?)」

「俺にも、もっと、構え」

「(あー…そういうことか)」

「あいつら、来てから、なまえあいつらのこと、ばっかだろ……」


全く、本当にガキくせぇ。
自分自身が情けなくなって、けどなまえの手が気持ち良くて、なまえを引き寄せた。


「そっか。そうだね、うん。ごめんね」

「俺だって、もっとなまえに触りてぇ。抱きしめてぇ」

「…うん。ごめんね。気付けなくて、ごめん」


なまえは俺に抱きしめられたまま俺の頭を撫で続けてくれた。
しばらくそうしていると、不意にあ、そうだ、となまえが声を上げた。


「じゃあ今日は一緒に寝ようか」

「い、いいのか?」

「いいよ?ほら私たちって、恋人同士、だし……」


どこか恥ずかしげに頬を染めて言うなまえになんだか俺も恥ずかしくなって、なんとなくお互いに目を逸らす。


「あ、でも朝になるとサイケが来るぞ」

「今日だけベッド交換してもらえばいいじゃん。津軽とサイケはこっち、私と静雄はダブルベッド。それならサイケが入ってきても寝れるんじゃない?」


……ダブルベッドは2人用だと思うんだが。
まあいい。久しぶりになまえを抱いて寝れるんだ。面倒くせぇことは考えないことにする。


「あ、そういえばさ」

「ん?」

「静雄は私とイザにゃんたちが一緒にいるのを見て何か思うところがあったみたいだけど、私だってあるんだよ?」

「は?どんな」

「イザにゃん抱いてるのとか見てるとさ、子供ができたらあんな感じなんだろうなーって」

「…………へ」


それは、未来のなまえの隣には俺がいるということでいいのだろうか。
なまえは言ったあとに自分の言ったことが何を意味しているのか気付いたようで、ボンッと顔を赤くした。


「……なまえ、」

「いやっ、その、ナシ!今のナシ!やだ何言ってんだろう私なんで言っちゃったんだろう私!」

「なまえは気が早ぇなあ……。ってなわけで、ちょっと頑張ってみるか?」

「は、頑張るって何をですか静雄さん。ちょっと待って目がマジだよダメだって!」


結局、サイケが朝来るんだから!と最後まで断られた(その代わりに今週末に二人きりで出掛ける約束をした)。


「なまえ」

「なに?」

「なまえは俺のこと、どう思ってるんだ?」

「へ?いきなりどうしたの」

「いいから」


寝るときにベッドの中でなまえに尋ねると、俺の腕の中でなまえがうーんと考えた。


「太陽、かな」

「太陽?」

「うん。私の世界を照らしてくれる、私にとって一人だけのかけがえのない存在」

「かけがえのない存在、か」


なんだ、俺の悩みは杞憂だったのか。なまえの答えに満足して、なまえを抱く腕に少し力をこめた。


「ね、静雄は?私ってどんな存在?」

「……教えねぇ」

「えーずるいよ」


腕の中で小さく暴れるなまえを抱きしめながら、その愛しい温もりに、俺はなんて幸せなんだろうなんて思った。






好きだ、
好きだ、
好きだ。


「あ、さっきは悪かったな。痛かったし、怖かったろ?」
「ああ、気にしないでよ。全然怖くなかったし」
「本当か…?」
「うん(あんな泣きそうな子供みたいな顔で押し倒されてもね……)」










▽▽▽▽▽
静雄で嫉妬甘、ということで、まあ静雄はたぶん常に小さな嫉妬心を抱いてますがそれが溜まりに溜まってこんな状況に、という感じ、ですかね。
特に嫉妬が激しいのは意外にも臨也ではなく津軽に対してです。自分と同じ顔なだけに、性格の違いがありすぎて嫉妬心と同時に劣等感も抱いてたりして。臨也は変に煽るから津軽よりイラついてるだけです。

連載の方ではあまりこのような話は書かないので楽しかったです!
はにーさま、リクエストありがとうございました!