ぱちり。
カーテンから漏れる光にいち早く反応して目を開けると、目の前にはなまえの顔があった。起こそうかな、どうしようかな、と悩んでいると、目覚まし時計が鳴った。
「ん…んー……、おはよう、イザにゃん」
「おはようなまえ(ひらがな)」
そう言うとなまえはぼくを抱きしめてくれた。ぼくはぎゅーが大好き。だから、自分からもなまえに抱きついた。
「みんなを起こしてきてくれる?」
朝みんなを起こすこと。
これはぼくの大事なお仕事。
「さいけ、さいけ」
「ぅ、ん……」
「しずおもおきて」
最近サイケは静雄と寝ていて、二人一緒に起こす。サイケはすぐ起きてくれるけど、静雄はなかなか起きてくれない。
「あさだよ、しずお」
「んぁー……」
「シズちゃん起きて」
静雄は寝起きが悪くて、しかも起こそうとすると時々捕まっちゃうから、慎重に慎重に。
まだ寝呆けている静雄をサイケに任せて、今度は臨也の部屋へ向かった。
「いざや、いざや、おきて。あさだよ」
「ぅー…もう?」
臨也はのそのそと起き上がると、眠そうに目を擦った。ぼくにはよくわからないけど、たぶんまた夜遅くまでお仕事をしてたんだと思う。
「まだねる?」
「んーん、起きるよ。おはよう、にゃんこ」
最初はすごく怖かった臨也も、今は全然怖くない。臨也は優しいから大好き。抱っこもいっぱいしてくれる。
「みんな、おはよう」
臨也に抱かれてリビングに行けば、サイケと静雄はもうそこにいて、なまえはみんなに笑いかけた。
なまえと静雄がお仕事に行って、津軽もお仕事から帰ってきて。臨也は自分の部屋に戻ってしまった。
何しようかなって考えて、サイケに絵本読もうって言ったら、読んでくれた。
「でね!このおじいさんが拾った猫の夢を見るの!」
サイケは絵本通りに読まないけど、とっても面白くて夢中になっちゃう。
最初サイケに会ったとき、サイケが「お兄ちゃんになる!」って言ってたけど、ぼくはサイケのこと、本当のお兄ちゃんだと思ってるよ。一緒にいてすごく楽しいもん。
「ニャン公、サイケ、昼はなに食べたい?」
「んー、んー、イザにゃんなに食べたい?」
「……うどん!」
「そうか……。わかった」
津軽は、お父さんみたいだなって思う。いつもぼくとサイケのこと見てくれる。
公園とか、お外に行くときはいつも手を握って。津軽と手をつなぐと、安心したりするんだ。
ご飯を食べて、公園で遊んで帰ってきたら、臨也がぼくのことを抱いたままソファに横になったから、そのままじっとしていたら、いつの間にか寝ちゃってた。
外から聞こえた微かな音に耳が反応して起きる。臨也は、まだ寝てるみたいだったから、そーっと腕から抜けて玄関に行った。
「おかえり!」
「ただいま」
玄関に向かうと、予想通りなまえが帰ってきた。
「あれ、臨也もサイケも寝てるの?」
「しー、だよ」
向かい合うソファにそれぞれ寝ている臨也とサイケを見て、なまえは了解、と笑った。
「……津軽は買い物か」
「おてがみ?」
「うん。今日はハンバーグだって書いてる」
「やった!」
ハンバーグ大好き!って喜ぶぼくの頭を撫でながら、なまえはまた笑った。
なまえはいつも笑ってる。静雄と臨也がけんかしたら怒ったりするけど、いつもみんなに、にこにこしてる。
ぼくはなまえの笑った顔が大好きで、大好きで、胸のまんなかがぽかぽかして。
「あ、つがるかえってきた」
また外から聞こえてきた音に、耳をぴんと立てると、やっぱり津軽が買い物袋を下げて帰ってきた。
「おかえり。ありがとうね」
「なまえ、今日は早いな」
「うん。割と早く仕事が終わってね。ハンバーグ作るの、手伝うよ」
「ぼくもつくりたい!」
よし、一緒に作ろう!となまえはにっこり笑った。
「あぁ?手前いま何つった」
「だから、シズちゃんって意外と子供舌だよねって」
「……野菜嫌いの手前に言われたくねぇんだよ」
「あれ、否定しないんだ」
「殺す……!」
目の前で火花を散らす二人に、なまえがため息をつく。
それと同時に、ぼくは臨也の膝の上に乗って、ぷうっと頬を膨らませた。
「けんかだめなの!」
「わかってるよー。こんなの喧嘩の内に入んないって」
そう言うと、臨也はぼくを抱き直して、自分が食べていたアイスをくれた。おいしい。
でもけんかはだめだよ、ふたりとも。
「今日はにゃんこがハンバーグ作ってくれたからね」
「え、今日チビも作ったのか?」
「えーあんなに可愛いハンバーグ作ってくれたのに分かんなかったのー?」
またけんかしそう……。と思ったら、静雄がぼくにちょいちょいと手招きをした。
「ほら」
「?」
「やるよ」
そう言って、自分が食べてたプリンを差し出した。少しにがいけど、甘くておいしい。
「そうか。なまえと津軽の手伝いしたのか」
「うん!」
静雄は笑って、大きな手でぼくの頭を撫でた。静雄はあんまり言わないけど、ぼくやなまえのことを大切にしてくれるし、とても優しいのをぼくは知ってる。だから少し乱暴に撫でる手も、大好き。
「えへへー」
「イザにゃん、もう寝る時間だから、寝るよ?」
さっきなまえと臨也がじゃんけんをしてなまえが勝ったから、今日もなまえと寝ることになった。
なまえに手を引かれながら、静雄と臨也におやすみって言って、階段を上る。
「なまえ(ひらがな)」
「どうしたの?」
「あのね、」
今日思ったこと。
いつも思ってること。
「ぼく、ここのおうちにきて、みんなとかぞくになれて、よかった」
一瞬、なまえがきょとんとした。それからすぐに笑顔になって、ぼくを抱き上げた。
「ありがとう。私もイザにゃんと家族になれて嬉しいよ」
「えっとね、あのね、もういっこあるの」
ん?と笑って首を傾げたなまえに思い切り抱きついて、
「なまえ(ひらがな)も、しずおも、いざやも、さいけも、つがるも!みんなみんなだいすき!!」
言ったら、胸のまんなかがぽかぽかして、あつくなった。
なまえはそんなぼくの背中を撫でて、ありがとうってまた言った。
「私もイザにゃんだーいすき!みんなに言ったら喜ぶよ」
「じゃああしたゆう!」
「そうだね。言ってあげて」
明日することが、ひとつできた。早く明日にならないかな。わくわくしながら、ぼくはベッドに潜り込んだ。
黒猫日記ぼくの、にちじょう。
▽▽▽▽▽
黒猫視点の一日、ということで、はい。こんな感じになりました。
イザにゃん視点は書くのが初めてで、意外に難しいということに気付いたり(汗)
文章は少し単純化してます。
ちなみにイザにゃんはハート型のハンバーグを作りました。臨也は写メってから食べました(笑)
ご期待に沿っているのか激しく不安ですが、rawさまに捧げます。
リクエストありがとうございました!