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少女をベッドに寝かせてから仕事に戻っていた俺は、不意に寝室から聞こえてきた声に眉をひそめた。
こっそり部屋を覗くと、少女が何やらベッドの上で力んでいるというか、踏張っているというか。

少女はしばらく頑張っていたみたいだけど、何かを呟いてがっくりと肩を落とした。
さっきまでの厭らしい声に続いて肩で息をする彼女は扇情的で、これ以上はいろいろとヤバそうなので声を掛けた。



「エロい声出して、なにしてんの?」

「え……?」



振り返った彼女の瞳はとても綺麗な青だった。その瞬間、どくん、と胸が高鳴った気がして。

かろうじて笑顔を保ったままベッドに腰掛け、彼女の瞳をじいっと見る。



「青、かあ。いや水色かな」

「何がですか?」

「君の瞳の色だよ。ほら、俺は赤いから、なんだか新鮮で」



彼女の瞳はとても綺麗な薄い青だった。見つめていると吸い込まれそうになる、深くてでも澄んだ空のように高さを持った瞳。

なんとなく、彼女の髪を手に取った。さらさらでとても柔らかい。



「あの…何か?」

「何かって……あれだけ派手に人んちの窓壊しておきながらすごい神経だね」



ここぞとばかりにからかうと、彼女は慌てたように頭を下げた。



「ごめんなさい」

「ま、いいよ。その代わり、君のこと教えて欲しいなあ」



顔を上げた彼女の瞳を見つめずにはいられない。その理由はよく分からないけれど、本当に美しく、魅力的だった。

彼女は少し考えてから割とあっさりと口を開いた。



「へぇ……」



天使、ねぇ。
無神論者の俺にとっては鼻で笑ってやりたい話だったけど、実際俺は羽根に包まれてる彼女とか、羽根が跡形もなく消える瞬間を目撃している。

そういえば羽根がない。出したりしまったりできるものなのだろうか。

俺の視線に気付いたのか、彼女は少し目を伏せて説明した。



「……あの、信じてもらえますか?」

「信じるも何も、俺は君から羽根が生えてるの見ちゃったからね。すぐに消えちゃったけど……現実として受け入れるしかないさ」



そう言ってあげると、彼女は安心したように息をついた。
さらに話を聞くと、力が戻るまで短くはない時間がかかるようだ。

……………………。



「じゃあさ、力が戻るまでここに居ていいよ」

「えっ?」



驚く彼女に、ね?と笑いかけると、彼女はありがとうございますとまた頭を下げた。



「あ、そういえば君、名前は?」

「名前、ですか」



そのあと名前が無いと聞かされて、多少なりとも驚いた。

でもまあ……無いなら付けちゃえばいい話だよね。
付けてあげる、とあっさり言った俺の言葉に、今度は彼女自身が驚いたようで。
何がいいかなと悩んでいる内に、彼女の表情は驚きから期待に満ちたものに変わっていた。

それがなんだか可愛くて、思わずくすりと小さく笑ってしまったとき──…、

ひとつの言葉が頭に浮かんだ

そうだ、これだ……!



「決めた!君は空だ!」

「空……」

「そうだよ。君は今から空だ」



空は少し頬を紅潮させてぎゅっと胸を押さえた。どこか具合が悪くなったのだろうか、慌てて大丈夫?と声をかけると、ふるふると首を横に振った。



「違うんです。私、嬉しくって」

「嬉しい?」

「はい。こんな素敵な人に、こんなに素敵な名前を付けて貰って……嬉しいです、とっても。ありがとうございます」



ふわりと笑った空は、とても綺麗で、可愛くて、自分でも顔が熱くなるのが分かった。くそ、なんだこれ。
照れ隠しするように空の頭を撫でる。



「これからよろしくね、空」

「はい。よろしくお願いします、折原さん」



臨也でいいと言ったら臨也さん?と首を傾げられた。ああもう一々そういう仕草しないでくれるかな。
とりあえず、もう一回頭を撫でてやる。すると彼女が気持ちよさそうにうっとりと目を閉じるものだから、また顔が熱くなった。






青い瞳が俺を捕える

ああ、閉じ込めてしまいたい
(逃がさない、逃げられない)





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