「臨也さん、これ見てください!」
「わ、どうしたの、それ」
最近部屋に籠もりがちだった空が突然部屋から出てきたと思うと、両手で赤い布を差し出された。ふわふわしてて見るからにとても暖かそうなそれを手に取って広げる。
「…マフラー」
「はい。臨也さん、出かける時はいつもコートしか着ないので……」
「、ってことは、これ俺にくれるの?」
「あ…は、はい。あの、あまり上手に編めなくて見栄えが悪いんですけど…」
そうかなぁ…。確かに少し模様が寄っているところがあるけれど、気にするほどでもない。というか、空の手作りなら何でも喜んで受け取るし。
「ありがとう」
そう言って少し眉を下げて顔を赤くする空の額にキスを落とした。赤かった顔が更に赤くなる。慣れないなぁと心の中で苦笑してから、空を抱きしめた。
「せっかく空が編んでくれたんだし、使わなきゃ損だよね。少し遅い時間だけど出かけようか」
「本当ですか!?」
空は俺の胸から顔を上げてぱあっと輝かせた。波江も帰らせてしまったし、今から出かけてたまには夕食を外で済ませてもいいだろう。
準備しておいで、と頭を撫でれば、空は満面の笑みで部屋に駆け込んだ。
外に出ると、肌を切るような冷たい空気に空が身を震わせた。
「……ほら、」
そんな空に向かって手を差し出す。少し照れたように笑って素直に握られた空の手を、俺のコートのポケットに一緒に入れた。
普段インドア派であまり外に出ない俺でも、こんな時ばかりは「寒くて良かった」なんて思ってしまう。だって、こうやって君の手をポケットに招くことができるから。
「寒くなりましたね」
「うん」
「雪、降らないかなぁ」
「それはまだかな」
「そうなんですか?」と少し残念そうに言う空を見て、少し笑った。落ち葉を踏むたびにかさかさと音がする。それが二人分聞こえるだけで、なんだか楽しくなった。
この東京では雪は降っても積もらない。真っ白い雪の絨毯に二人で足跡をつけれたらいいな、なんて、柄にもなくロマンチックなことを考えて。
「真っ白な雪を、臨也さんと二人で見たいです。そして二人で雪の上を歩きたいな」
「、そうだね」
ふわりと笑う空に、俺も笑って頷いた。握った手がじんわりと熱を増す。俺と当たらずも遠からずだ。本当に、君には適わない。
いつの間にか歩調が速くなっていたようで、空が一生懸命付いてきているのに気付いて歩調を緩めた。
ごめん、と言えば笑って首を振る。いや、知ってるんだ。君は俺より歩幅が狭いこと。
二人並んで歩けるようにゆっくり進む。空が映る景色は、どんなに灰色でもカラーに見えた。
「…雪、一緒に見よう。足跡もちゃんと残して」
「っ……はい!」
その笑顔が、元気いっぱいに頷いたその顔が、少しだけ陰った気がして。
俺が黙って握る手に力を込めれば、空も黙って握り返してくれた。そのことに安心してがさりとわざと音を大きく立てた。
「来年も、再来年も、その次の年も。一緒に雪の上を歩こう。二人だけの足跡を残すんだ」
「はい。…一緒、です」
僅かに擦り寄ってきた空に、俺も距離を詰める。
空が吐く白い息をぼんやりと眺めて、
「(早く、降ればいいのに)」
そうしたら、一刻も早く空に雪を見せられるのに。
ずっと一緒にいられるのなら、タイムリミットなんてないはずなのに、どうしてこんなに急かされたような気持ちになるんだろう。
そんなことを考えて、俺もまた暗い空に白い息を吐き出した。
ポケットの中の手を失いたくないとまた強く握ったのに、君は気付いたかな。
足元はコンクリート
いつか、二人で足跡を刻むことを夢見て
imaged by
スノースマイル
/BUMP OF CHICKEN