お風呂に入って、豪華な晩御飯を食べて。売店から買ってきたビールとワインをテーブルに置いて、私たちは部屋でゆっくりと過ごしていた。
なぜ開けていなかったかというと…。
「はーさっぱりした」
「おかえりー。露天風呂、どうだった?」
「気持ちよかったですよ。星空も綺麗で」
「おそとのおふろ、すき!」
デリックと日々也が部屋の露天風呂に入っていたからだ。一緒に入っていたサイケとイザにゃんがほっこりとした顔で戻ってきたのを見て、私も明日入ろう、と密かに心に決める。朝イチがいいか。男子が寝てる間に入っちゃおう。
「先に飲んでても良かったのに」
「んーん、どうせお腹いっぱいで、少し時間置きたかったし、いいよ」
「……奏」
突然静雄に呼ばれて、ん?とそちらに視線を向ける。その声色がいつもと違うと思ったのは、私の思い過ごしではなかったらしい。いつになく真剣な眼差しをした静雄が、こちらを見ていた。
「ちょっとさ、外、出ねぇか?」
「外?」
「ああ。その…二人、で」
二人。
その言葉に、じんわり顔が熱くなる。これはミニデートみたいなものなのだろうか。
「外に行くの?おれも外に行きたい!」
「ぼくも!」
「だーめ。サイケもにゃんにゃんもお留守番な」
「臨也もだ」
「言われなくてもわかってるよ、津軽」
臨也はむっと二重の意味で頬を膨らませた。なんでだめなの?と首を傾げるサイケとイザにゃんの相手をしているデリックに代わって、日々也がにっこり笑いながら小さな声で囁く。
「お二人で行ってきてください。どうぞごゆっくり」
その代わり、お酒は無くなっているかもしれませんよ?なんて少しからかうように笑う日々也に、私も笑った。いつの間にこんな冗談覚えたんだか。最初は堅苦しい性格だったのにね。
静雄は日々也にありがとな、とお礼を述べると、私の手を引いて部屋を出た。エレベーターで一階へ向かう。
静雄が私を連れてきたのは、このホテルの中庭だった。春の夜の空気はまだ暖かいとは言えなくて、ひんやりとした肌寒さにふるりと体を震わせる。
「寒いか?」
「ううん、平気」
中庭にはいくつかのベンチが設置されていたけど、この肌寒さのせいか私たち以外誰の姿も見られなかった。
静雄の手に引かれるまま、中庭の真ん中にある小さな噴水の前にあるベンチに腰掛ける。
「日々也の言ってた通り、星、綺麗だね」
「…そうだな」
それからしばらく、流れる水の音と星空を堪能していると、繋いでいた静雄の手に力を込められた。ずっと思ってたけど、静雄の手、すごく熱い。いつも以上に。
「なぁ奏、」
「なに?」
「お前はさ、どうして俺を好きになったんだ?」
唐突に繰り出された質問に目をパチクリさせる。
「なに、突然…」
「俺のこと、本当に好きか?俺といて、楽しいか?落ち着くか?」
どこか緊張した顔で私を見る静雄に、いきなりどうしたの、とか、そんな矢継ぎ早に聞かれても、とか、言いたいことはあったのに、喉の奥で詰まってしまって。ちゃんと答えないとって、ひたすらこれだけを考えた。
だから、私も静雄から目を逸らさずに答える。
「……好きだよ。静雄の強い所も、優しい所も、弱い所も全部好き。もちろん、一緒にいて落ち着くし、癒される。だからどうしてなんて関係ない。私が今、静雄を好きなことに変わりはないんだから」
なんて熱い告白。他人事のようにそう思った。息を呑んだ静雄の頬が、ほんのりと赤く染まる。堪らずに視線を下に向けると、静雄が強く握っていた手を離して、両手でぎゅっと握り拳を作ったのが見えた。
「俺は…俺も、奏のことが、好きだ」
「う、うん」
「奏と一緒にいると、心があったかくなる。居心地がよくて…いつも、惹かれてるんだ。もっと一緒にいたい、って…」
……っや、これ無理!絶対顔上げれない!
私のそんな思いとは裏腹に、静雄は「奏」とまた私の名前を呼んだ。思わず顔を上げて、月明かりに照らされた静雄に視線を合わせる。あ、金髪、きれい……。
「もっと…いや、ずっと、一緒にいてくれ。愛してるんだ、奏。だから…」
静雄がごそごそと羽織のポケットから何かを取り出した。
え、ちょっと待って。これってまさか、え、ちょっと…。
「俺と、結婚してください」
パカリと開いた小箱の中の指輪が、月明かりに照らされてキラリと光った。