子猫との日常 | ナノ


「ねぇ、旅行行かない?」


始まりは、夕食のテーブルで発せられた臨也の一言。私たちはその一言に、同時に箸を止めた。


「行くって、どこに」

「箱根」

「どうやって?電車か?」

「なんと奏は自動車の免許を持ってます」

「車、無いですよ?」

「レンタカーがある」


津軽とデリックと日々也の質問にぽんぽん答える臨也に、私は静雄と顔を見合わせた。てか運転私かよ!

臨也の気まぐれには何度も振り回されたけど…うーん、旅行かぁ…。サイケとイザにゃんも「はこね?どこ?なにある?」と興味津々みたいだし…。


「……行こっか」

「そうこなくちゃ」

「いつ?いつ行くの?」


サイケが身を乗り出して臨也に尋ねる。


「奏は土日休みだよね?」

「まぁ、基本は」

「じゃあ来週の土日でいいんじゃない?ああ、津軽は来週休みにしてもらったから心配しなくて大丈夫。というか、もう旅館に予約入れちゃったし。…シズちゃんは休み不規則だから分かんないか」

「あ、もしもしトムさんすか。あの、来週の土日なんすけど…はい、はい…。じゃあ…はい、ありがとうございます。どうもー。…………休み、取れた」


あまりの手際の良さに呆然とする。臨也もそうだけど、静雄も静雄だ。臨也は隠そうともせずに舌打ちをした。
まぁ、どうこう言っていてもしっかり8人分の予約をしてるんだろう。

臨也も、以前に比べだいぶ変わったから。










「疲れた…」

「お疲れ。ここ温泉あるし、ゆっくり疲れ取りなよ」

ぐったりとした私の肩を、臨也が軽く叩いた。

いくら運転免許を持っていたって、普段車に乗らない私がいきなり8人乗りのワゴン車運転したらそりゃ疲れるに決まってる。ペダル重いしプレッシャーすごいし…。ペーパードライバーもいいとこだ。


「ねぇかなで。おんせんって、なぁに?」

「え?あれ、イザにゃん温泉知らなかったっけ」


私の問いに、日々也と手を繋いだイザにゃんはこっくりと頷いた。んん…たぶんテレビでしか見たことないからだな。映像と名前が一致してないんだきっと。


「みんなでお風呂入れるところだよ」

「みんな?しずおも、いざやも、つがるもさいけも、でりっくもひびやも、かなでもいっしょ?」

「うーん、私は無理かなー」


ぽふぽふと帽子の上から頭を撫でてあげる。横からの熱い視線なんて感じない、絶対感じないんだから!だけど誰か私と静雄の間に入ってくれないかな、なんか変なプレッシャーは感じる!


「にゃんにゃんだけじゃなくて、俺らも温泉は初めてだからな。あー楽しみ!」

「そうですね。臨也さん、早くお部屋に行きましょう」


デリックと日々也がそう言って、私たちは旅館へと歩き出した。うん、なんかわかんないけど助かった…。

チェックインを済ませて、従業員のお姉さんに案内された部屋は、定員8人の大きな部屋だった。まさか8人部屋だなんて思わなくて、その広さに少しびっくりする。


「そんなに珍しくもないよ。12人部屋もあるくらいだからね」

「ひろーい!あ、津軽見て!さっき行ったみずうみ!」

「本当だ。いい景色だな」


サイケや津軽の言う通り、窓の外は絶景で、湖に夕日の赤が射してとても綺麗だった。と、その景色の横に何か衝立のようなものがこの部屋から出ているのに気付く。


「あれ、なんだろ」


床の間の隣に扉がある。そこにはもう静雄が立っていて、くいくいと親指でその先を指した。


「ん、露天風呂ついてる」

「わ…すごい……」


絶え間なく温泉が注がれる四角い浴槽は檜で、とても落ち着く匂いがする。露天風呂付きの8人部屋…これ1人どんだけお金かかるの…。


「ねぇ臨也。本当にいいの?私たち全員の旅費が臨也持ちで」

「いいんだよ。俺が無理矢理予定立てたんだし。あ、シズちゃんは後で払ってもらっても構わないよ」

「うぜぇ」


どこに行っても基本仲は悪いんだね…。そんな二人にため息をつくと、イザにゃんが帽子を脱いで楽になった耳をぴくぴくと動かした。


「おふろ、いきたい!」

「よっしゃ、行くか!」

「…待った。イザにゃんは大浴場入れないんじゃない?」


公衆浴場に行ったら、猫耳や尻尾が直に生えてるのがモロに見えちゃうもん。そう言えば、臨也はちっちっと人差し指を振った。


「実はお風呂も貸し切りにしてるんだよねぇ」

「本当ですか?」

「うん。大浴場ではないけどね。ここ貸し切り風呂あるから。だから心配しなくて大丈夫」


良かった…。ひとまず胸を撫で下ろした。が、…ん?あれ、それって私はどうなるの?


「混浴に決まってるじゃッ」


当たり前のように爽やかな笑顔を浮かべた臨也の顔面をとりあえず殴った。はい、静雄くんあからさまに残念そうな顔しない!

ふぅ、とさっきとは別の呆れからくるため息をつく。


「俺たちが貸し切り風呂に入って、奏は大浴場か部屋の風呂に入ればいいんじゃないか?」

「あ、そっか。さすが津軽」

「ぶーダメだよ津軽。なんでそんなあっさり解決策出しちゃうの」


むくれる臨也を宥めるように、津軽は無言でその頭に手を置いた。……あれ、こいつ24歳だよね?

ま、問題も解決したところで、じゃあ早速お風呂にしますか!まずは大浴場に行ってみようかなぁ…。



家族全員の初めての旅行に浮き足立っていた私は、いつもより少しだけ固い表情の静雄に気付けなかった。
でもきっと、この旅行が静雄と私に重大な決心をさせるきっかけになったんだと思う。ううん、絶対、そうだったんだ。






(家族旅行&?)






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