「わぁ…!」
「……何があった」
帰ってきた俺たちを迎えた津軽とサイケは、まぁそれなりの反応だった。
サイケは目を輝かせ、津軽はじいっとちびっ子たちを見つめている。寧ろ驚いているのはちびっ子たちだ。
「おんなじ、かお…」
「なんで同じ顔してんだ?双子か?」
「でりと、ひーちゃ、いっぱい!」
ただ一人きゃいきゃいと笑う奏は、早速サイケの足にまとわりつきながらコードを引っ張ろうと背伸びまでしている。好奇心が強いというか、警戒心がないというか、小さい奏は無防備すぎて少しはらはらする。
「…まぁ事情は後で聞くとして。今から夕飯を作ろうと思うんだが、何が食べたい?」
カレー、と言い掛けて、津軽の視線はシズたちに向いていることに気付いて慌てて口を閉じた。隣で日々也がくすりと笑う。
もじもじしながら小さく「オムライス」と呟いた臨也に、シズも頷いた。
「よし、じゃあ俺は早速作るから。しっかり面倒見るんだぞ」
「うん!おれ、いちばんお兄ちゃんだから、おせわするよ!」
いや、一番お兄ちゃんは津軽じゃ…。とにかく家に上がりオムライスを待つことにした。
キッチンから美味しそうな匂いがしてきた頃、ふと一人足りないことに気付いた。
「あれ…奏は?」
「奏?あ、いない……」
にゃんにゃんやサイケと一緒に遊んでいたはずの奏がいない。俺はシズと臨也の相手をしていたから見てなかったし、津軽と日々也はキッチンだし…。
すぐに反応した臨也の頭をぽんと撫でて、少し隙間があるドアを開けて廊下に出た。
「奏ー、奏どこ行ったー?」
「あい!」
「お、そっちか?って、おい危ね…っ」
なんと奏は階段の途中でよろしく手を挙げていた。そこでぴょんぴょん飛び跳ねるものだから、慌てて抱き上げる。
「なんでこんな所にいるの」
「かなでのね、おへやにね、うさちゃ、いるの。さびしーて、おもったから…」
「うさちゃん?」
首を傾げて少し考える。今の奏の部屋にうさぎなんてあったかな。…あ、そういや大掃除の時、物置部屋の段ボールに入ってた、かも?
とにかく屋根裏部屋に行かないと無いはずだ。今から探すか?と考えを巡らせたところで、サイケとにゃんにゃんの声が聞こえた。
「デリックー、奏見つかったー?」
「おー」
「ごはん、できたよ!」
「わかった。奏、うさちゃんは後でもいいか?」
「……ん、」
こくんと少し寂しげに頷いた奏をあやすように背中をぽんぽんと叩く。
…小さくなってからこんな表情するの、初めてだな。時間が経って親が恋しくなったりしたのだろうか。そういえば奏はあまり両親を求めていないような……。
「おいしそう!」
さっきの表情とはうって変わって、ホカホカと湯気を立てるできたてのオムライスを見た途端、奏は顔を明るくした。ケチャップでうさぎ(たぶん)を描くと、ぱくぱくとオムライスを口に運ぶ。
「「ごちそうさまでした」」
「お粗末さまでした」
すっかり空になったお皿を洗っていると、後ろからシャツを引っ張られた。
「ん?シズか。日々也とにゃんにゃんと奏が風呂入ってるんだっけ。奏か、にゃんにゃん上がったらシズも入れよ」
「……デ、デリックと一緒に…入り、たい」
ぽっと頬を赤くするシズはなんだか可愛い。ちょっと待っててな、と言うと、嬉しそうに笑った。
「あ、臨也は?」
「めちゃくちゃ眠そう」
「マジ!?やべ、シズ急いで風呂場に連れてって!」
「今津軽が連れてった」
ちびっ子は寝るの早いからなぁ。飯食う前に入らせればよかった。
そんなことを考えながら、泡だったスポンジを皿に滑らせた。
「そろそろベッドで寝かせましょうか」
「そうだな。だがどうする」
「みんな一緒にねたい!」
「お、それいいな」
すでにソファの上で眠りに落ちているちびっ子たちを横目に頷く。と言っても、どこに寝るか…。
「テーブルとソファをどかして布団を敷けば何とかいけるんじゃないか?」
「じゃあ僕お布団持ってきます。サイケ、手伝ってくれますか?」
「うんっ」
布団が敷き詰められたリビングはなんだか異様な光景だ。奏とにゃんにゃんを真ん中にして寝そべる。流石に8人並んで寝るのは狭い。けど、この狭さは嫌いじゃない。
明日の朝になったらすやすや眠る奏とシズと臨也は元に戻ってんのかな。ん?あれ……三人ともシズのTシャツをパジャマにしたけど、それってやばいんじゃ…特に奏。でも…こんなに気持ちよさそうに寝てるしなぁ。
「(それに俺も眠いし)」
今日ちびっ子たちの世話をして思った。子供の世話って、すんげぇ疲れる。
隣から聞こえてくる寝息に誘われるように、俺もゆるりと眠りについた。
(ぎゃああああ!!)
(んあ…?あれ奏なんで隣に…って、俺のTシャツ…)
(なんで私こんな格好してるの!?え、てかここリビング?なんでみんな一緒に寝てんの?訳わかんない!)
(写メ…)
(撮るなぁっ!)