子猫との日常 | ナノ


バレンタイン2日前。チョコレート会社のカタログをパラパラと捲りながら、何気なくみんなに聞いてみた。


「手作りと買ってきたやつ、どっちがいい?」

「「「手作り」」」

「……りょーかい」


即答で満場一致ですか…。いつからそんな呼吸ぴったりになったんだ。
でもちょっと嬉しい。何を作ろうかな。大勢いるからガトーショコラとかチョコレートケーキとか大きいものにしよう。
そこで、やけにそわそわしてる金髪が一人目に入る。

……静雄には、別に何か作ってあげよう。











そしてバレンタイン当日。
仕事から帰ってきた私を、なんとみんな総出で出迎えた。どんだけ楽しみにしてたのか知らないけど、なんだか変にプレッシャーを感じる。


「奏!チョコレート、まだ?」

「まだかなー。ご飯食べてから出してあげる」


食後のデザートに、ね?と付け足すと、イザにゃんとサイケは元気良く頷いた。あの子たちにとっては、バレンタイン云々ではなく、ただ単にお菓子が食べれる、くらいのことなんだろう。
張り切って夕食の準備をする2人を微笑ましく見ていると、隣にデリックが来て小さな声で耳打ちしてきた。


「奏、一応聞くけど、シズの分のチョコって…」

「大丈夫、ちゃんと用意してるよ。別にね」


良かった、と笑うデリックに、少し感心する。本当にこの子は静雄のこと気に掛けてるよなぁ。そしてそんなデリックとは正反対の態度を取るのが一人。


「ふーん。奏シズちゃん用のチョコ用意してるんだ。へー……で、俺には?」

「ない」

「即答!?」

「うん」


謝るのもなんだかおかしい気がして肯定だけすると、臨也は肩を落としながら津軽の元へ向かった。最近津軽に甘えに行くあれはなんなんだろう…。津軽もだいぶ臨也の扱いに手慣れてきてるし。


「奏さん、ご飯の準備できましたよ」

「うん。ありがと日々也」





──食後、テーブルに並んだガトーショコラとチョコタルトに、みんな目を輝かせた。
8人ってこういう時便利だ。綺麗に8等分できるから。


「みんな行き渡ったね?じゃあ、どうぞ召し上がれ」

「「「いただきます!」」」


ぱくっと全員が一斉に一口目を口にする。ど、どうだろう…。ちゃんと美味しくできてるかな……。


「おいしい!かなで、すっごくおいしいよ!」

「うん!ね、津軽」

「ああ。美味いな」


良かった。ニコニコ笑いながら食べているみんなを見て安心する。


「デリック、がっつき過ぎです!気持ちは分かりますけど、ほっぺにチョコレートついてますよ」

「んぐ…サンキュ。でも美味いんだもん」

「チョコタルトって初めて食べたけど美味しいねぇ」

「ん、美味い」



むぐむぐ食べるみんなを見てて、作って良かったなぁって思える。愛を込めただけある、とか思ったりして。


「あのね、おれ知ってるよ!バレンタインは好きな男の子にチョコレートあげる日なんだよ!」

「かなで、ぼくたちのこと、すき?」

「うん、だーいすき!」


おいで、と腕を広げれば、イザにゃんが飛び込んでくる。イザにゃんだけのつもりが、サイケも飛び込んできて、日々也を挟めるようにデリックもきて、私は後ろに思い切り倒れた。


「いった…頭ぶつけた」

「こら、お前らな…」

「わりーわりー」


静雄のため息にデリックが苦笑いしながらどく。うん、あのね、イザにゃんはともかく男性3人も上に乗ってると死ぬかと思うよね。
だってサイケも苦しがって…てか一番辛いのイザにゃんなんじゃ……。


「わわ…奏さん、ごめんなさいっ!」

「うん、大丈夫…。あ、デリック、ちょっと配達して欲しいんだけど」

「なに?」


そこで私は一つの箱をテーブルの下から引っ張りだした。その箱をデリックに両手で差し出す。


「これ、八面六臂たちに届けてほしいの」

「八面六臂に?別にいいけど…え?何?」


渡した途端デリックはヘッドホンに手を当てて何やらブツブツ言い出した。よく見るとヘッドホンがチカチカ光っている。もしかして八面六臂?いやいや別の人かも。
なんだかあっちの世界には八面六臂以外にも人がいるらしい。だから、ワンホール。


「デリック、今回は俺が行こう」

「え?うん…八面六臂、だいぶうるさいぜ」

「分かってる」

「津軽が行くならおれも行く!」

「ぼくもろっぴのとこ、いきたい!」


結局津軽とサイケとイザにゃんで八面六臂の元へ向かうことになった。3人を見送ったあと(見送ったと言ってもリビングで消えるのをただ見てただけだったんだけど)、私は部屋からある一皿を持ってきた。


「ちょっと待っててね」


そのお皿をレンジに入れて軽く温める。温め終えたそれを、静雄の前に置いた。


「?奏、これ…」

「フォンダンショコラ。静雄限定だよ」

「!」


見るからに驚いた静雄は、フォンダンショコラと私の顔を何度も見て、「俺に?」と自身を指差した。
頷くと顔を赤くしてはにかむ静雄に、思わずきゅんとしてしまったのは、内緒。


「うまっ…なんだこれ、すげぇ美味しい」

「中に溶けたチョコが入ってるんですね。面白いです」

「いいなぁシズちゃん羨ましいなぁ。ねー俺にもちょっと分けてよ」

「誰がやるかノミ蟲」

「まぁまぁ。さ、寝るぞー臨也。日々也も来い」

「ちょ、デリック離してよ」


デリックは臨也を肩に担いでリビングを出ていってしまった。日々也もクスクス笑いながらその後を追う。
歯みがき忘れないでねーとその背中に呼び掛けると、デリックと日々也の声ではーいと返事が聞こえた。


「奏、あの…ありがとな」

「どういたしまして」

「まさか俺に別のもの用意してると思わなくて…。やべ、すげぇ嬉しい」


片手で顔を隠す静雄の頭を撫でてあげると、静雄は更に顔を赤くしてテーブルに突っ伏した。


「しーずーお」

「んだよ…」

「ふふ、好きだよ」

「しってる」


顔を伏せたまま、静雄は私の手を握って、そして「俺も」と本当に小さな声で呟いた。






(あなたに愛を)






11.02.14 バレンタイン



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