子猫との日常 | ナノ


「節分だー!」

「豆まきだー!」


私が仕事から帰ると、デリックとサイケが目をキラキラさせながら私に突進してきた。ぐ…重い……。


「ねぇねぇいつやる?」

「こら、サイケもデリックもどきなさい。奏が苦しそうでしょー?」

「かなで、おかえり!」

「はは…みんな、ただいま」


臨也もイザにゃんを抱いて玄関に出てきた。リビングに入るとキッチンに立つ津軽と日々也。増えたなぁなんてしみじみ感じていると、玄関から静雄の声が聞こえた。どうやら帰ってきたみたいだ。


「節分だー!」

「豆まきだー!」


またデリックとサイケが玄関に走っていく。しばらくすると、二人を担ぎ上げた静雄がリビングに入ってきた。二人は静雄の肩の上できゃいきゃい騒いでいる。


「(お父さんみたい…)」

「ただいま」

「あっ、お、おかえり」

「?」

「しずお、おかえり!」


静雄は二人をソファの上に下ろしてからイザにゃんにもただいま、と笑いかける。そしてキッチンを見て感嘆の声を上げた。


「おお……」

「なになに?…わぁ!」


私もキッチンを覗き込んで思わず声を上げてしまった。
大皿の上には8本の恵方巻き。内1本は少し小さいけど…イザにゃん用かな?その外にも鉄火巻やサラダ巻などいろんな巻物が用意されている。


「すごーい!これ全部津軽の手作り?」

「日々也も手伝ってくれてな。なかなか筋がいいぞ」

「そんなっ…僕はただ材料を切っただけで、」

「でも、手先が器用だ」

「へぇ。日々也偉いね。いい子いい子」


よしよしと撫でると、日々也は顔を真っ赤にして俯いた。やばい可愛い。ちなみにその頭に王冠は無い。あの立派な王冠は、小さく縮んでネックレスのチェーンに掛かっている。なんでも頭から外すと勝手に小さくなるんだとか。てか可愛い。


「でも恵方巻きの前に豆まきだな。サイケとデリックが浮かれてしまって」

「あぁ…あいつらいきなり飛び付いてくるからびっくりしたぜ」

「こっちはもうできたし、やろう、豆まき」


そう津軽に催促されて私も頷いた。リビングの方に戻って、みんなを集める。


「じゃあ、豆まきします」

「「いえーい!」」

「鬼決めるよー」

「おに?」


首を傾げるイザにゃんに笑いながら、人差し指をぴ、と立てる。


「追い払う鬼さんを決めるの。方法は簡単。この人が鬼だ!って思った人を、みんなで一斉に指差すんだよ」


テーブルを囲むように座っているから、みんなの顔が見える。よしよし。
みんなが人差し指を立てたのを見て、掛け声をかける。


「せーの、」


びっ、とみんなが一斉に指差した。…わお、これは驚き。


「は!?ちょっとみんな、なんで俺なの!?」

「わぁすごい。私たち以心伝心してるってこと?」

「ざまぁみやがれ」


8人中6人の指が、特定の人物──臨也を指差していた。
イザにゃんは意味がわからのかったのかな、臨也の腕の中できょとんとしている。当の臨也は静雄を指差していた。


「え、どう考えてもシズちゃんでしょ!シルエット的にも力的にも!」

「多数決だから文句は受け付けねぇよノミ蟲」

「臨也、ごめんな!…ってなわけで、」

「おにはーそとー!!」


サイケ兄弟がいつの間に持ってきたのか、紙で作った籠に入った豆を臨也に投げつけた。ニコニコしてるけど結構容赦ない…。


「ほら、奏も静雄も津軽も日々也も!あ、にゃんにゃんは鬼じゃないからこっちな」

「うにゅ?」

「え、ちょっと、ぁ痛ッ!シズちゃん痛い!やめて君の豆とかマジ弾丸級だから!」


みんな結構ノリ気だ…。てか豆まきするなら2階もやってもらわないと。なんてことを考えていると、隣で日々也が所在なさげにおろおろしていた。


「日々也どした?ほら、豆投げていいんだよ」

「あ…はい!えっと、でも臨也さんがすごく痛そうにしているので…」

「そんなの気にしない!ほら、思い切り投げちゃえ」


日々也はまだどこか他人行儀というか、気を遣いすぎてるところもあるからなぁ。ぽん、と軽く背中を押してあげると、なにか決心したように頷いて臨也に豆を投げた。おっ意外に強め。


「いだッ!今の誰、日々也!?ちょっと君まで手加減ないだだだ!!こら人が喋ってるときに投げんな!」

「あぅ…奏さん、怒らせてしまいました…」

「大丈夫大丈夫、いつもこんな感じだから。日々也、私たちもう家族なんだから、変に気遣わなくていいんだよ」


なぜか泣きそうになっている日々也に苦笑する。日々也は一瞬きょとんとしたけど、「は、はい」とまた赤くなりながら頷いた。


「よっし!私も豆まこうかな!臨也、早くリビングから出て2階行って。家全体にまかないと」

「もうすでに体がボロボロなんですけど…!津軽助けてよー……」

「臨也、さっさと行けばさっさと終わるから」

「うわあああ津軽の裏切り者ー!!」


頼みの綱である津軽にもそう言われちゃもう諦めるしかない。臨也は泣きながら階段を駆け上がっていった。そのあとを、サイケを筆頭にみんなが追い掛ける。もちろん、日々也も。うんうん、それでいいんだよ。
くすりと笑って、私も階段に足をかけた。






11.02.03 節分





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