子猫との日常 | ナノ


全員で玄関に向かう。
奏がドアを開けると、そこにはなんとまぁ立派な白馬と、どこかのおとぎ話から抜け出てきたような王子様と付き人が立っていた。
付き人は俺と同じ顔だ。…驚かねぇ、もう驚かねぇぞ。


「あ…はじめまして!夜分遅くに申し訳ありません」

「ええっと、あなたが、新しい家族?」

「はい。日々也と申します」


日々也と名乗ったその王子様は、マントを揺らしてぺこりと頭を下げた。
なんつーか、その…サイケやチビとは違った純粋さを感じるな。


「日々也ー待ってたぜ!」

「デリック!」


後ろからデリックが日々也に駆け寄って抱きついた。頬擦りしてるけど…こいつらは基本仲良いからなぁ。


「日々也は俺の唯一の弟だからさ、可愛くて可愛くてしゃーないの!」


嬉しそうにデリックが言う。頬が赤くなっているのは酒のせいだけじゃないだろう。弟が可愛いってのは、俺にも充分わかるし。


「…デリック、嬉しいのはわかりますが、あまり外で騒ぐものではありません」


突然声が聞こえたかと思うと、それは日々也の後ろにいた付き人からだった。全身黒ずくめなもんだから夜の暗さに溶けてしまいそうだ。


「ん?あぁごめんな執事くん。それじゃ一旦中入ろうぜ。奏、いい?」

「いいよ」

「では私とジョセフィーヌはここで失礼します」

「え?あなたも上がっていけばいいのに」


きょとんと首を傾げる奏に、執事は唯一目立つ俺と同じ金髪を揺らして首を振った。


「日々也様をここまでお連れするのが我々の仕事ですので。奏様、日々也様をどうかよろしくお願い致します」

「え?あ、はい…」

「それでは、失礼します」


執事は馬の手綱を握って深々とお辞儀をすると、何事もなかったかのようにすうっと消えてしまった。


「行っちゃった…。しつじさんはマジメだね」

「まぁ、それがあいつだろうからな」


サイケと津軽がうんうんと頷きながら家に入るのに、俺たちも続く。
と、奏がどこかぽけーっとしているのに気付いた。


「奏?」

「…へ?あぁごめん、いやぁなんか照れちゃって」

「……」

「ぁだっ!…静雄、なんか家族が増えるたびにデコピンしてないひゃいいひゃい」


額を押さえている奏の頬をむにっと摘んで、ため息をつく。まったく…どうせ自覚してないんだろう。

お前が俺以外の奴に照れたりすることに、嫉妬してる、なんて。





「改めまして、折原日々也と申します。これからよろしくお願いします」

「知ってると思うけど、私は奏。あとこっちが静雄に臨也。よろしくね」

「はい…!」


日々也は臨也とは正反対な性格の奴だった。礼儀正しくて、裏表がなくて、ちょっと気弱で。こいつとサイケ、あと八面六臂と臨也を並べたら性格が一番悪いのは確実に臨也だと思う。
…俺も人のことはあまり言えないけど。

その後もいろいろと話をして、臨也の腕の中でチビが船を漕ぎ始めたのを境に今日はもう寝ようという話になった。


「じゃ、俺たち寝るから。日々也は一回俺の部屋においで。服貸してあげる」

「はい」

「なぁなぁ日々也、お前二段ベッドの上と下だったらどっちがいい?」

「津軽ももう寝ていいよ。サイケも眠そうだし、後片付けは私がやっとくから」

「そうか、悪いな」

「奏、おやすみ…」


みんながぞろぞろとリビングを出ていくのを見送って、奏はテーブルの上を片付け始めた。俺も皿をキッチンまで運ぶ。


「静雄もいいよ。誕生日の人が片付けてどうすんの」

「いや…いい、やる」


苦笑する奏の隣に立ってスポンジと洗剤を手に取った。
奏はまた苦笑しながらただ「ありがとう」と言って、俺の洗った皿を水で濯いだ。

しばらく無言で淡々と皿洗いをして、やっと皿を洗い終わった頃、ふと俺がぽつりと呟く。


「…楽しかったな」

「え?」

「あんなに大勢で誕生日を祝ったのは初めてだったから」

「そっか。…そうだね」


皿を布巾で拭きながら、奏は優しく笑った。この笑顔を、何回愛しいと思ったかわからない。


「ねぇ静雄」

「なんだ?」

「最後ね、ちょっとバタバタしてて言えなかったんだけど…」


奏は皿を置くと体ごと俺に向けて、ふわりと笑う。


「お誕生日おめでとう。あと…生まれてきてくれて、ありがとう」

「っ…、」


自分でも、一瞬息を呑んだのがわかった。初めて、言われた。そんなこと。
子供の頃から化け物だなんだのと呼ばれて、存在を否定されたこともたくさん、たくさん。あった、のに。


「はー……」

「わ、静雄?」


しばらくの硬直状態の後、長く息を吐いて奏の肩に顔を埋める。柔らかい匂いが鼻をくすぐった。
そのままぐりぐりと額をすり付けると、奏は俺の頭をゆっくり撫でてくれる。


「奏には適わねぇなぁ…」

「よく分からないけど、静雄は何歳になっても甘えん坊さんってことは分かったかな」


あぁいいさ。奏の前なら何歳になったって甘えられる。バカにされたって構わねぇ。この温もりを感じられるなら、いつだって甘えてやる。


「さ、私たちも寝よう?」

「ん」

「静雄くん?」

「んー…、」

「…はぁ。わかったわかった、今日は一緒に寝ましょう。誕生日だしね」

「それは、頂いてもいいという意味ですか」

「違いますこのおバカさん」


顔を上げた俺の額をぺしんと叩いて奏は黒い笑顔を浮かべた。…調子乗ってすみませんでした。

今日はあっという間だったな。そういやトムさんが幸せな時間はすぐに過ぎていくもんだと言っていた気がする。だからまぁ、何というか、

今日の俺は、やはりとても幸せだったのだろう。






(生まれた奇跡)


今日という日に、感謝を。





Happy Birthday,SHIZUO!!

2011.1.28



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