子猫との日常 | ナノ


「ふうっ!」


ドスン、と音を立ててダンボールを下ろしてから、私は一息ついた。
物置部屋の掃除をする時に、どうせなら年末の大掃除もやってしまおうと提案し、使わないもの、要らないものをダンボールにまとめて、津軽たちは窓拭きなんかをやってくれている。

今までは全部一人でやっていたから、人数が増えてすごく助かる。それに、静雄も臨也も必要なものしか持ってきてないからゴミも少ないし。


「よっし、だいぶ片付いた」


ガラクタが片付いた物置部屋。案外広い。元々はれっきとした一つの部屋だったのだから当たり前なんだけど。


「静雄ー、デリックー、出番だよー」


部屋から顔をひょっこり出して二人を呼べば、掃除の為に家具やら家電やらを移動させていた静雄とデリックがすぐ来てくれた。…本当に助かります。

物が少なかったとはいえ、それなりの量のダンボールを見ても至って平然としている二人に手を合わせる。


「こっちから屋根裏部屋に行けるから、全部運んでくれる?」

「っす!なんか割れもんとかある?」

「あ、その箱にガラス入ってる。そのくらいかな」

「りょーかい。俺上に行くからシズが下から渡して」

「わかった」


デリックは態度や言動はお気楽だけれど、意外に働き者で律儀だ。学校に居たら確実にクラスの中心人物になってると思う。

静雄とは結構仲が良いみたいだ。仲が良いことに越したことはないよ、うん、これ大事。高校時代に嫌なほど経験してるし。経験というか巻き込まれてるし、犬猿の仲に。


「奏、これもか?」


静雄が指差す先には等身大の鏡があった。確か中学2年の時に買ってもらったものだ。あの時はいろいろませていて、鏡の前でよくポーズなんかを決めてたりした。…ある意味、黒歴史。


「上げちゃっていいよ。デリックは全身鏡使うー?」


使わなーいと返ってきた答えに頷いて、静雄がひょいと持ち上げた。



本棚と小さなローテーブルにクローゼットという、大分シンプルになった部屋にデリックが戻ってくると、彼は目をキラキラと輝かせた。


「この部屋、俺が使っていいの?」

「うん。あ、でもね、後から来る子と相部屋になっちゃうんだけど…」

「全然オッケー!寧ろ一人じゃちょっと寂しい」

「なら良かった。それで、ベッドは二段ベッドにしようと思うの」


シングルを2つ置けるほど、この部屋は広くない。まぁ入らなくもないんだけど、床面積がとても狭くなってしまう。


「二段ベッド…。それなら俺上がいい!ってか、ごめんな。いきなり来て住み着いて」

「今更なに言ってんの。私がいいって言ったらいいんだよ。それにほら、こっちの世界には頼もしい大黒柱が2人もいるし」


ね、と静雄の胸を叩く。静雄は少し顔を赤くして、それでも「ああ」と頷いてくれた。
くすりと笑った私の後ろから、別の声が響く。


「シズちゃんより俺の方が頼りになると思うけど」

「…こら、臨也。静雄も臨也も頼りになるんだからそういうこと言わないの」


臨也がうっすら笑いながら立っていた。静雄がぐっと拳を握り締めるのを見て、ため息をつきながら臨也を諫める。
するとデリックが話題を変えようとでもするように人差し指をぴんと立てた。


「あー、そういや運んだダンボールの中にアルバムあったんだけど」

「ああ、昔のアルバムね」

「見たい」

「……へ?」

「奏のちっちゃい頃とかすんごい興味ある。シズも気になんねぇ?」

「まあ…」


待った。話題転換の方向が良くないよ実に良くない!
そう思ったのは私だけじゃなかったらしく、臨也も全力で否定した。あ、そうか。小さい頃は臨也と一緒に遊んだり出掛けたりしたから、臨也の写真もあるんだ。


「だめ?」

「だっ、だめ!それより掃除、掃除しよう!この部屋片付けただけでお掃除してないし!」

「そっか。残念…」

「静雄も!ね?」

「……仕方ねぇな」


ひとまず、ほう、と胸を撫で下ろす。と、サイケとイザにゃんが部屋へやってきた。


「奏、下のおそうじ終わったよ!」

「おわった!」

「ありがとう。じゃあ、この部屋の窓も拭いてくれる?」

「「うんっ」」


後からバケツを持って来た津軽と、私たちも新しい雑巾を持ってきてみんなで掃除をした。
一つの部屋に全員で集まって雑巾がけをしている様子を見て、ふと思う。


「(……すごい)」


よくまあこれだけ人数が増えたものだ。

最初に見つけたのはイザにゃん。静雄が臨也のマンションから連れてきて、静雄も住むことになって、今度は臨也も住むことになって。しばらく経ってからサイケと津軽に出会い、一緒に暮らすことになった。それからまたしばらく経って、今度はデリックがやって来て。
…そしてまた、近い内にもう一人家族が増えようとしている。

今までの人生が平凡な訳じゃなかったけど、今年は特に劇的な体験をした年だったと思う。

そんなことをぼんやりと考えていると、津軽に肩を叩かれた。


「奏、だいたい終わったけど、まだやって欲しいとこあるか?」

「え?あ、ううん!この部屋が最後だから、大丈夫」

「考え事?」

「うん…。今年を振り返ってみました」


津軽はふむ、と顎に手を当てると、少し考えてから優しく笑って口を開いた。


「俺は、奏に会えたことが今年一番の幸せだな」

「え?」

「おれもそう思う!」

「サイケ、」

「俺も!無事に家族として受け入れてもらえて、すごく幸せだ!」

「デリックまで…」


津軽と話をしていたはずなのに、何故か私の周りに全員集まっていた。
下からくいっと袖を引っ張られて視線を向けると、イザにゃんが私を見上げていて。


「ぼくね、かなでとあえてよかったよ。たいせつもかぞくも、だいすきもぎゅーも、ぜんぶおしえてもらったよ」

「イザにゃん…!」


堪らなくなってイザにゃんを抱きしめる。嬉しそうに耳をピコピコさせるイザにゃんに、「大好きだよ」と言った。


「良いお年をって言うまでもなく、良いお年を送ったみたいだね。まあ、俺はシズちゃんのせいでプラマイゼロってところかな」

「ああ?んだ手前、年の瀬ぐれーそのうるさい口を閉じやがれ」

「シズちゃんこそ、年の瀬ぐらい気を長く持ちなよ」

「二人とも、年の瀬ぐらい仲良くしてよ…」


睨み合っている静雄と臨也にため息をついて小さく笑う。

とても大きな変化があった。逆に、何も変わっていないこともある。
そんな風に、来年も生きていけたらと、この家族と共に生きていきたいと、密かに心の奥で私は願った。






(出会いの年)


(今年はなんと、津軽がおせちを作ってくれます)
(((マジで!?)))
(来年もよろしくね)
(今から頼むとか気が早いよ奏)










10.12.31 大晦日




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