子猫との日常 | ナノ


「サイケデリック…静雄?」

「そ。だから奏が俺のことを静雄って呼んだのは間違ってなかったってワケ」


ああなるほど。…って、なに普通に納得してるんだ私。
そんな私の目の前で、デリックは軽く頭を下げた。


「というわけで、お世話になります」

「待て待て待て」


にっこり笑う彼の前で私は慌てて手を振った。いやね、私は「はいどうぞ」なんてにっこり笑えないわけですよ。


「え…駄目なの?」

「駄目とかじゃなくて…」

「デリック、さすがにいきなり来ていきなり一緒に暮らすというのは…」

「あ、そっか。さすが津軽」


ぽんっと手を打ってデリックは改めて私に向き直った。むむむ…これはまた、サイケとも津軽とも違う個性をお持ちのようで。
というか、津軽たちもいきなり現れてすぐ一緒に暮らしたんだけどね。


「じゃあ出直すことにするわ。じゃ、奏、またな!」

「は、え?」


スタスタと玄関に向かったデリックは、靴を履くと手をひらひらと振った。


「出直すって、これからどこに行くの?」

「どこって、"あっちの世界"だよ」

「"あっち"…?」


デリックの言ってる意味がいまいち分からなくて首を傾げる。静雄も頭にはてなマークを浮かべているようだ。ただ、臨也だけが「なるほど」と呟いた。


「"あっちの世界"って、この前サイケたちが消えた時に行った世界だろ?」

「ああ」


頷いた津軽に私も納得した。そうだった、この子たちにも自分が生まれた世界があるということを、この前の事件のあとに聞いたんだった。
一人で納得した私の腕をサイケが引く。


「奏、デリックはいっしょに暮らしちゃだめなの?家族になれないの?」

「や、そういうわけじゃ…」


瞳をうるうるさせて見上げるサイケに私が少したじろぐと、津軽がサイケを私から引き離した。
諭すように頭を撫でながら「仕方ないだろう」なんて…なんか、罪悪感が浮かんでくるのは何故だろう…?


「…わかった、わかったよ。その代わり、いきなりで部屋はないから、今晩はソファで我慢してくれる?」

「ありがとうございますっ」


……犬みたい。ぶんぶんと勢い良く振られる尻尾が見えるようで、私は苦笑混じりのため息をついた。
その後ろで臨也と静雄がこそっと囁く。


「本当に住ませるの?」

「部屋、ねぇぞ」

「もうこうなったら誰でも来い。私がまとめて面倒見てやる」


腹を括った私に、臨也はクスクスと笑い、静雄は呆れたようにため息をついた。何よ、人の覚悟をバカにしないでくれる。

だけど私の覚悟は、デリックの一言によって早くも揺らぐことになる。


「あ、なんかさ、八面六臂が言ってたんだけど、後々もう一人ここに来るらしいぜ」

「…………ん?」


ぴきりと固まる私の肩に手を置いて、何がそんなに面白いのか臨也がくつくつ笑った。


「物置部屋、片付けるしかなさそうだね」

「……ま、まぁ、元々そんなに物がいっぱいあるわけでもないし、屋根裏部屋に入れればなんとかなるでしょ。静雄、明日手伝ってね」

「…おう」


こそこそ話す私たちに首を傾げながらも、デリックはサイケと津軽の方を見てまた口を開いた。


「あと、八面六臂がお前たちもたまには帰ってこいって言ってた。あとで帰り方教えてやるよ」

「ほんと!?」


帰る?帰るって、この前消えたときに行ったっていうあの世界に?というか、さっきから言ってる『八面六臂』…。前話してくれた時サイケたちもよく口にしていた名前だけど、結構重要人物だったりするのかな。

まぁいいや。今はそれよりも現状処理の方が大事だ。


「えと…呼び方はデリックでいい?」

「ああ」

「じゃ、デリック。改めて、私は奏。こっちが、」

「静雄に臨也。あともう一人、イザにゃんがいるんだよな?」

「え…なんで……」

「"あっち"から見てたし、イザにゃんには直接会った。俺は覚醒途中だったから話はしてないけど」

「へ、へぇ…」


にかっと笑うデリックに少し戸惑いながら頷く。え、てことは私たちの生活ずっと見られてるってことですか。


「あー安心しろって。ちゃんと濡れ場の時は映像切って「「当たり前だアホ!」」


静雄と二人で怒鳴るとデリックは肩を竦めて小さくひゃ、と縮こまった。なんだこいつ、大人なのか子供なのかよく分からん。


「ねぇ津軽、『ぬれば』ってなに?」

「サイケにはまだ早いな」

「ぶー、教えてくれたっていいじゃん!」

「……今度、教えてやる」

「ストップ津軽、なんか怪しい雰囲気漂ってるよ?」

「奏、今度サイケとどこかに泊まってくるかもしれな「ダメです」

「…………ははっ」


突然デリックが小さく笑った。何事かとデリックを見ると、とても優しい笑みを浮かべて、


「家族って、いいもんだな。なるほど、見てるだけじゃ分かんねぇことだ」


そう言ってはにかんだ。
不覚にもその表情にどきりとしてしまい、カーッと顔が熱くなる。するとこれまた突然静雄にデコピンされた。い、いたひ……。


「何すんの……」

「全くてめぇはよぉ…」

「シズちゃん、お気の毒様」

「うるせぇノミ蟲潰すぞ」

「あっこら、ケンカ駄目だよ。夜中だしイザにゃん起きちゃう」


何故か機嫌を悪くした静雄と、面白そうに笑う臨也の間に額をさすりながら入る。静雄は舌打ちをすると私の手をぐいっと引いた。


「ちょ、」

「…今日は一緒に寝る。デリックだったか、寝るなら俺のベッド使っていいぞ」


え?あの、はい?待って私まだ着替えてないしお化粧落としてないし…。
そんなことを考えながらも、私は強引にズルズル引き摺られるしかなかった。






(我が家へようこそ)


(な、津軽、サイケ、やっぱ家族って面白いな)
(俺たちにとっては、もう失くせないものだ)
(うん!きっとね、デリックも、"面白い"だけじゃなくて"たいせつ"って思えるようになるよ!)





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