夜の街を上機嫌で歩く。
久しぶりに友人と飲んだおかげで少し羽目を外した感があるけど気にしない。
それくらい私は酔っていて、スキップしていた。
「あ」
前方に見慣れた金髪を発見。私は走りだすとその後ろ姿に思い切り飛び付いた。
「ぅえッ」
まぁなんて間抜けな声。私は背中にぐりぐりと額を押し付けてむふふと笑う。
「しーずーおー」
「は?って、ちょ、おい!」
「えへへーおんぶー」
後ろから腕を回してぴょんぴょん跳ねると、苦しそうな声を上げるものだから、少し面白くなって腕を組んだまま更に後ろに引き寄せた。いやぁ酔いって恐ろしい。
「ぐぇっ、くるし…」
「おーんーぶー」
「わかった、わかったから首絞めないで…!」
私の腕を軽く叩いたので解放してやると、少しむせてからおとなしく目の前にしゃがんだ。
ん、いい子だ。
「静雄はいい子だねぇ」
「しっかり掴まらないと落ちるぞ」
「はいはい。あははは、視線が高いー」
背中でぱたぱたはしゃぐ私を落とさないように、静雄は背負い直した。
その静雄の優しさが好きー、と逆にぎゅーっと抱きつく。すると何か固いものが腕に当たった。
「何これ。ゴツゴツしてる」
「見ればわかるだろ、ヘッドホンだよヘッドホン」
「静雄、こんなん持ってたっけー?」
まぁな、と小さく答えて静雄は歩いた。時々道を聞いてくる静雄になんだか不思議な感じはしたけれど、そこはやっぱりお酒の力が働いて、私はあまり気にせずに上機嫌のまま家の方向を指差した。
「ここ?」
「ここよぅ!静雄ったら自分の家まで忘れたの?」
「いや、っていうか俺、「たっだいまー!!」
私がそう叫ぶと静雄はため息をひとつついて観念したようにドアを開けた。
おんぶされたまま玄関でブーツを脱がしてもらい、電気のついたリビングへ入る。
「ただいまみんな!…………あ?」
「おかえ、り?」
臨也が目を少し見開く。私も一気に酔いが覚めた。
目の前には静雄が二人。甚平着てるのが津軽だとしたら、もう一人は静雄?いや間違いない、だってまだバーテン服着てるし。
え?じゃあ、この人、誰?
「…えと、あの……どちら様、でしょうか?」
「相手が誰だか分からないまま、おんぶしてもらってたの?」
「あの、すみません!私てっきり貴方が静雄かと…」
慌てて下りると私はそのまま頭を下げた。
あ、本当だこの人静雄じゃない。視界に映るズボンは白かった。
「いや、奏が間違っても仕方ないと思う」
「へ?」
「てか、あながち間違ってもいないんだけどな」
臨也の言葉に顔を上げると、苦笑した静雄の顔がそこにあった。え?あれ?間違ってないってどういうこと。というか、白いスーツにピンクの目?どこかで見たような……。
すると、突然二階からドタドタと忙しない足音が聞こえてきた。
「デリックー!!!!!」
「お、サイケか」
先程の私に負けないくらい勢い良く彼に抱きついたのはサイケだった。…あぁそうか、サイケに似てるんだ、その配色。
てか、ん?二人知り合い?
「デリックはね、おれの弟なんだよ!」
「「「は?」」」
私も静雄も臨也も、一斉に津軽を見た。というのも、この状況を一番冷静かつ正確に理解しているのは津軽だと思ったからだ。
津軽は持っていたコップを置くと、私たち三人の目を見て一言、
「本当だ」
と言った。
津軽が言うなら本当なんだろう。てか分かってたなら早く言ってよ津軽!
サイケの弟ねぇ…と臨也が面白そうに笑う。静雄は「もしかしてまた増えるのか…しかも俺の顔で」とげんなりした様子だった。
デリック?は私たちを見回して、人懐こそうな笑みを浮かべて口を開いた。
「どうも、サイケデリック静雄です!これからよろしくお願いします」
いくらそれが事実だと、これが現実だと認識していても、私はしばらく口を開けて呆けるしかなかった。
え?あれ、てか弟なんだ!?