子猫との日常 | ナノ


三人が忽然と姿を消した。

それはとても衝撃的なことで、電話の向こうで私に呼び掛ける臨也の声はしばらく耳に届かなかった。


「…どういうこと?」


一番先に口を開いた新羅の声で、ハッと我に返る。慌ててベッドに駆け寄ってみるけれど、もちろん隠れていたなんてことはなくて、だんだん冷めていくベッドにただただ呆然とした。





「状況を整理しよう」


あれから急いで帰ってきた臨也と静雄と私と新羅はリビングに集まった。
今は一番冷静な新羅が鞄からメモ帳とボールペンを取り出す。


「まず奏。サイケとイザにゃんが頭痛を起こしたときの話を聞かせて」

「うん…。二人はリビングで遊んでて、最初はイザにゃんが頭痛いって言い出したの。泣いてたからすぐに何かおかしいって思って、だからおでこに手を当てたけど熱はなかった。そしたら今度はサイケが痛いって言い出して…。サイケも熱はなくて、そしたら静雄が津軽を連れてきたの」


ふむふむと新羅がメモしていく。臨也は話を聞きながら携帯をいじっていた。たぶん三人の情報を探しているんだろう。だから、私は何も言わなかった。

新羅は一通りメモし終えると今度は静雄に話を促した。


「俺は仕事から帰るときに丁度買い物帰りの津軽に会ったんだよ。んで家に入った途端に津軽がふらふらしだして倒れかけたんだ。だから支えながらリビングに入ったらサイケとチビと奏がいて、そのあとサイケと津軽をベッドまで運んだ」


新羅はペンを置くと腕を組んだ。私と静雄も新羅のメモ用紙をじっと見て考えを巡らす。ただ臨也のいじる携帯の音がカチカチとなっていた。


「共通点は、頭痛…」

「あと、みんな突然現れた存在だということ。だから私、サイケとイザにゃんが頭痛くなった時、津軽の顔が浮かんだの」

「……もしかしたら、大事なのは頭痛じゃなくてそっちの方かもしれないね」


臨也がぽそりと零す。私と静雄は顔を見合わせた。


「忽然と消えたんだろう?あの三人が忽然と現れたように」


イザにゃんは臨也のマンションに、サイケと津軽は人通りの少ない路地に突然現れた。突然現れたのだから、消えるのも突然なのかな。でも、だとしたら、そんなの。


「そんなの、やだ…」


なんの言葉もなく、あんなに苦しそうで、それが、お別れする最後の表情だなんて。
視界がぼやける。情けない、情けない。あの子たちに何もできなかった自分が。そして、消えたあとにこうして後悔している自分が。


「まだ消えて戻ってこないと決まった訳じゃねぇ」

「静雄の言う通り。諦めるにはまだ早いよ」


静雄が頭を撫でて、新羅が肩に手を置いてくれた。溜まって零れそうになった涙を零れる前に拭って、きっと顔を上げる。

そうだよ、なに弱気になってんの私。さっきできないことがあったなら、今できることを精一杯やるしかないじゃないか。


「とにかく、三人が現れた場所を中心に探そう。俺のマンションには波江がいるから異常があればすぐ連絡するよう伝えてある。奏の家には俺が残って情報収集する。奏は探しに行きたい?」

「うん、行く」


そう、と臨也は頷いて部屋からパソコンを持ってきた。これは本格的に情報収集に取り組む証拠だ。

私と静雄は外に探しに行くことになった。新羅は仕事が入っているらしく、でも移動の際には探すと言ってくれた。それからセルティにも連絡してくれて、家の前で別れた。


「早速探しに行こう」

「おう」


静雄と二人で目的の場所へ向かう。三人とも、この世界にいるなら必ず迎えに行ってあげるから。だから、もし他の世界に行ってしまったのだとしたら。

早く、帰ってきて。



























ふわり、とゆっくり着地した感触に三人が目を開けると、そこは真っ黒な世界だった。見渡す限り黒い。しかし暗いわけではなく、自分の姿も他の人の姿もはっきりと認識することができた。


「ここ、どこ?」

「わからない」

「あたま、いたくない…」


さっきまで割れそうだった頭の痛みが、嘘のように引いていた。津軽はイザにゃんを抱き上げ、サイケを自分の方へ引き寄せる。これから何が起こるかわからない。自分がこの子たちを守らなければ。
そんな使命感が、津軽に沸いていた。


「こわいよぉ…かなで…っ」


腕の中で涙を浮かべるイザにゃんを宥めながら津軽とサイケは周りを凝視した。


「「(ここ、なんだか知っているような……)」」

「やぁ」


不意に聞こえた声に、津軽とサイケは身構える。どこから聞こえたかわからなかったが、その声の正体はすぐに知ることができた。

目の前の闇から、じわりと赤が滲みだしたから。


「……臨也、なのか?」

「残念、ハズレ」


完全に姿を見せたその人物は、折原臨也そっくりの青年だった。愉快そうにクスクスと笑うその表情も、臨也にそっくりだ。

違うと言えば、いつもはきっちりと着ているコートのファーが赤く、着崩していること。そして心なしか臨也よりも瞳の色が紅いということだろうか。

その青年は両手を広げ、その紅い目を細めて言った。


「ようこそ、じゃおかしいからこう言おうか。……おかえり、我が同胞たち」





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