それは、突然起こった。
「奏!」
「どうしたの、サイケ」
「イザにゃんが頭痛いって言うの!」
「ふぇ…っ、あた、ま……いたいよぉ…!」
サイケがイザにゃんを抱いて私に差し出した。
垂れ下がった耳を押さえ付けるように、イザにゃんは頭を抱えている。泣くほどの頭痛なんて見たことがない。とりあえず額に手を当ててみると、熱はないようだ。
ひっくひっくとしゃくりあげるイザにゃんを抱えて、新羅に電話をしようと携帯を手に取った時だった。
「…ッあ!う、」
「サイケ!?」
サイケが突然しゃがみこんだ。イザにゃんと同じように頭を押さえて。なに、なに、どうなってんの!?
慌ててサイケの顔を覗き込む。目をぎゅっと瞑って痛みに耐えているようで、額に手を当てるとやっぱり熱なんかなくて。
…何かがおかしい。
そう考えたときに、津軽の顔が浮かんだ。もしかしたら、津軽も…!
そして私の嫌な予想を裏切らずに、静雄が津軽を支えながらリビングに入ってきた。
「津軽!」
「……奏、どういうことだよこれ」
「わかんない!とにかく新羅に電話するから、静雄はサイケと津軽をベッドに連れてって!」
サイケとイザにゃんを見た静雄はその異常さに気付いたのか、頷いて津軽とサイケを抱えて部屋に向かった。私もイザにゃんを抱いて電話をかけながら2階へ向かう。
「もしもし新羅?今すぐ来てほしいの!」
新羅はすぐ行くと言ってくれた。ダブルベッドに三人を寝かせる。イザにゃんとサイケは痛い痛いと泣いていた。津軽は何も言わないけど、逆に何も言えないほど痛みがあることが荒い息遣いからわかる。
「どうしよう…なんで、いきなりこんな……」
「落ち着け奏。新羅が来るのを待とう。ノミ蟲にも一応連絡しとけ」
静雄の大きな手に撫でられてだんだん落ち着きを取り戻す。私は寝室を出ると、仕事で出掛けている臨也に電話をかけた。
と、下からインターホンの音が響く。新羅に違いない。家のすぐ近くで仕事をしていたらしいから。
寝室から静雄が出てきて、俺が出る、と玄関に向かった。
『もしもし、奏?おーい』
「っあ、ごめん!」
電話に出ていた臨也に謝って簡単に事情を話していると、静雄と新羅が2階に上がってきて、そして寝室のドアを開けて二人とも固まった。
「え、なにどうした」
の、と呟きながら私も二人同様に固まる。
ありえないありえないだってさっきまであたまいたいってないてくるしそうでさんにんでべっどにねていたはずなのに。
三人が寝ていたベッドが、少しの温もりを残してもぬけの殻になっていた。