子猫との日常 | ナノ


「え、無理。絶対やだ」

「さて問題です。ジェットコースターに乗ることを拒否した俺を、奏はどうしたでしょうか?」


にんまり笑う臨也とは対照的に、奏は顔をひきつらせている。さっきとは立場が完全に反対になっていた。


「というわけで、行こう」

「え!?無理、無理だって!」


俺たちはお化け屋敷の前にいた。壁には黄色いテープが貼られ、窓ガラスが割れた様はいかにも廃墟の洋館といった感じだ。
臨也が行こうと提案してから奏はずっとブツブツ何かを呟いていたが、なるほど、奏はお化け屋敷が苦手らしい。


「これなら制限とかないし、全員で入れるよねぇ」

「や、マジで無理」

「奏、相変わらず怖いの苦手なの?確か昔、幽霊番組がはいった夜に俺に泣きながら電話してきたことあったよね」

「言うな恥ずかしい!」

「『私が寝るまで喋り続けて』なんて言ってさ。あれ、結構辛かったよ?」

「あれは本当にすみませんでしただから言うのやめて」


臨也の奴、わざとやってるな。その証拠にさっきから静雄の顔をちらちらと見ている。
当の静雄は、黙って聞いていたと思うといきなり奏の肩を抱き寄せた。


「静雄…?」

「今は、俺がいるだろ」

「え、」

「大丈夫」


そう言うと静雄は奏の手を引いてお化け屋敷の方に歩いて行った。いやいや静雄、言うことはかっこよかったが今は奏をお化け屋敷に入れない方がいい選択なんじゃないか?


「んー、シズちゃんが段々行動的になってきたな」

「お前がやり過ぎなんだよ」


臨也が必要以上に奏に構うから、静雄も手を出すんじゃねぇか。そう言ってやれば津軽とサイケもうんうんと頷いた。臨也は不機嫌そうな顔をして手を繋いでいたちっこいのを抱き上げると、スタスタとお化け屋敷の方に歩きだした。


「何してるの?早く行かないと、奏たちが入っちゃうよ」

「「「…………」」」


……こいつは、思った以上に聞き分けが悪いらしい。


















「……大丈夫か?」


静雄が自分の腕にがっしり掴まっている奏に尋ねる。どこか嬉しそうな静雄とは裏腹に、今にも泣きそうな奏はブルブル震えながら無言で首を横に振った。

怖いか怖くないかと言われたら、怖い方だったと思う。外見通り中の人形や幽霊も西洋のもので、スタッフも中々に気味悪かったし。
意外だったのは、サイケが楽しんでいたことか。


「おれね、オバケと握手しちゃった!」


後ろから追い掛けてくる幽霊に「迷子?おれたちと一緒にお外行こう?」なんて言う奴初めて見た。後半は勝手にうろちょろしないように津軽がしっかり捕まえてたが。


「ドタチン、どうしよう」

「ん?」

「俺もう一回お化け屋敷入ってきていいかな」

「はあ?」

「だってにゃんこが俺にぎゅってしがみついて離してくれないんだよ!怖がって俺に頼るとか幸せ!」

「……もうてめぇ一人で行ってこい」


ちっこいのは年相応の反応というか、奏と同じくらい怖がっていた。腕の中でえぐえぐ泣いているのを、臨也が宥めている。こいつ段々新羅に似てきたな……。


「いざや、おばけいない?」

「もういないよ。もう一回会いに行く?」

「やぁっ…どたちー!」

「全く…」

「あー、もうドタチン!」


泣いて助けを求めるちっこいのを臨也から取り上げた。だからお前はやり過ぎなんだって。


「こわ…あれ絶対おかしい人怖がらせて何が楽しいの信じられない……」

「奏、いい加減戻ってこい」

「だって静雄!あんなリアルすぎるゾンビとかあり得ないじゃん!みんなボロボロのドレス着てボロボロの肌で……あ、そういえば」


奏が、静雄の腕を掴んだままお化け屋敷に振り返る。


「最後の方で一人だけ着物の女の子いたよね。あの子もスタッフなのかなぁ」

「……え?」

「え、って。ほら、白い着物でおかっぱの…出口の直前でばいばいって手振ってたじゃん」


…なんか、空気が冷えてきたと思うのは俺だけか?


「静雄、お前見たか?」

「いや。門田は?」

「見てねぇ。臨也は?」

「俺も知らない。にゃんこは見た?」

「ううん」

「おれおばけいっぱい見たけどそういう子いなかったよ。津軽は?」

「俺も見てない」

「え…ちょっと待ってよ。ってことは、みんなあの子のこと、」



「「「知らない」」」










(全員黙ってしまいました)


(し、しし静雄…)
(あ?)
(きき今日、いいい一緒に寝てもいいかな?)
(!…っおう)





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