子猫との日常 | ナノ


様々なアトラクションに乗り、少しやつれた臨也とほくほく顔の奏に挟まれながら俺はため息をついた。
全部が全部絶叫系じゃないとはいえ、絶叫系に1回乗っただけで臨也のダメージは相当でかいらしい。


「そろそろ休憩しよっか」


だから、奏がそう提案したときは思わず臨也の肩に手を置いた。





売店や食堂を兼ねた休憩所に入り席を確保すると、サイケが津軽の袖を握って何やらぽそぽそと喋っている。津軽は頷くと俺の方を向いた。


「ちょっと、トイレ行ってくる」

「あぁ…俺も行くかな。臨也と静雄は?」

「俺はいい」

「俺は行くー」

「じゃあ私も行こうかな。イザにゃんも行こう。静雄、荷物番してもらっていい?」

「ああ」


あー…これで奏と静雄が二人きりになれれば良かったんだが。まぁトイレの時間なんてたかが知れてるし、あとでまたチャンス作ればいいか。

ちなみに今までの試みは臨也のせいで全て失敗している。あいつ本当に人の邪魔するの上手いよなぁ…。


トイレから出ると、何やら売店の方でサイケと津軽が何人かの女性に囲まれていた。


「二人で来たなら、良かったら一緒に回りませんか?」

「いえ…」


おーおーいっちょ前に逆ナンされてやがる。女の扱いに慣れていないだろう津軽は少し困惑しているように見えた。と、いつの間にいたのか後ろから奏がひょこっと顔を出した。


「うわぁ逆ナン?」

「お前助けてこいよ」

「ドタチンが行きなよ」

「ああいうのは男が助けても意味ねぇだろが」

「大丈夫だよ。もうすぐあの子が何かするから」

「「臨也」」

「──っだめ!」


突然聞こえたサイケの声に振り返ると、津軽をかばうように立つサイケがいた。ほーら、と臨也が笑う。


「だめだよ。津軽こまってるもん!それに津軽はおれのだもん!!」


きょとんとする女たち。それは俺も例外ではなく、サイケの言葉に耳を疑った。


「津軽はおれだけのものだもん!奏とかはいいけど、他のひとにとられたくな「あーわかったサイケ、わかったから席戻ろう!」

「ごめんね。この子ちょっと事情があって精神年齢低いんだ。たぶん小さい子供が玩具を取られたくないように独占欲が沸いちゃったんだね。あぁ、あと俺たちちゃんと連れ居るし、お誘いは断らせてもらうよ」


いつの間にあそこまで駆け付けたのだろうか。気付くと俺の手にはちっこいのの手が握られていて、奏と臨也はサイケと津軽を引っ張っていた。


「……あいつらも大変だな」

「どたち?」

「席、戻るか」


そう言って俺は俺でちっこいのを抱き上げて席に戻ろうとした。ら、奏たちがテーブルから少し離れた場所で固まっている。
なんだ?同じ方向へ視線を向けると、またもや同じような光景が。


「相席していいですか?」

「……や、連れ居るんで」

「テーブルくっつけてますけど、大勢で来たんですね」

「だから連れが居るって…」

「私たちもそのお連れ様に混じりたいなーなんて」

「は…?」


女って強ぇ。さっきサイケたちを誘っていた人とは別人だが、また3人の女が静雄に声をかけていた。
それにしてもそろそろやばいんじゃないか?静雄がイライラし始めてる。女相手だし流石に物を投げはしないだろうが、怒鳴るくらいはするかもしれない。

そう思い一番のストッパーである奏を見て俺は少し目を見張った。


「…………」


これは、完全に怒っている。心なしかむうっと頬を膨らませている奏の横で、臨也がため息をついた。


「にゃんこ、行っといで」


俺からちっこいのを下ろすと、ぽんぽんと背中を押す。ちっこいのは頭にはてなマークを浮かべながらとりあえず静雄の元に走っていった。


「しずお?」

「ん、戻ってきたのか」

「みんなあっちにいるよ?」


静雄がこちらに視線を向けた。それと同時に女たちは子連れ=家族持ちと勘違いしたのか、「失礼しました」とそそくさとその場をあとにした。
それが狙いだったからいいんだが……問題は奏か。


「んだよ、居たなら声かけろよ」

「いやぁシズちゃんがさあ、「静雄が満更でもないような顔してたから」


臨也の言葉を遮って奏が淡々と言った。臨也はにんまり笑うとそうそうと頷く。


「はぁ?」

「良かったね、逆ナンされて。静雄かっこいいもんね」

「おい、お前なに怒ってるんだよ」

「別に」


面倒なことになった……そう思っていると、あ、と声を上げた奏が席を立った。


「えっ…空谷?」

「うん。久しぶり」

「え、なにお前何でいんの」

「遊びに来た。佐藤くんたちはどうして?」

「はっ、笑えよ、どうせ暇潰しだよ男同士で」


あれはえーと…確か高校時代奏と同じクラスだった佐藤か。先ほどとは打って変わって楽しげに話す奏を見ていると、ガタンと椅子が鳴った。

音を立てたのは静雄だ。静雄は立ち上がると、黙って奏たちの所へ歩いていった。


「え?あれ、平和島?」

「よう。佐藤と鈴木と、あー……、」

「坂本だよ」

「そう、坂本」


そう言う静雄は笑っていた。てっきり怒っていると思ったら、思いの外機嫌がいいようだ。
隣で臨也がつまんない、と呟く。


「もしかして二人でデートかぁ?」

「ううん、今日は違、「まぁな」

「マジかよ!?」


おいおい、俺たちは居ないもの扱いかよ。
奏たちは少し話をして、佐藤たちと別れたようだった。佐藤たちも佐藤たちだ、俺たちに気付かねぇとは。


「奏」

「……なに」

「俺が好きなのは、奏だけだ」

「……」

「あと、」





「自分だけ嫉妬してるなんて思うなよ」





「っ!」


一気に奏の顔が赤くなる。
今更だが、お前らの会話、ギリギリ聞こえてるからな。もうちょいなんとかなんねぇのか聞いてるこっちが恥ずかしい。


「奏ーアイス食べようよ」

「へ?あ、うん……」

「シズちゃんに火照らされた熱なんてアイスで冷ましちゃってさ」

「手前は本当に遠慮っつーかデリカシーがねぇよな…!」

「それシズちゃんが言う?」


そして早速邪魔しに行きやがった。くそ、首根っこ掴み損ねた。


「津軽、サイケ」


きょとんとしている二人に俺はため息をつきながら、眉間に皺を寄せた。


「お前らの頼み、聞いてやれねぇかもしれん…」

「「………」」


顔を見合わせたあと、二人は黙って苦笑してくれた。






(嫉妬は愛の証)


(ねぇねぇ奏、もし俺がナンパされたらどう思う?)
(全力で応援する)
(…………え?)
(臨也も早く彼女作りなよ。寂しいの嫌でしょ?)
(、ドタチン…っ!)
(奏、その辺にしとけ。こいつ泣くぞ)





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