子猫との日常 | ナノ


なんともメルヘンチックな音楽が流れ、視界がぐるぐると回る。やばい恥ずかしい今すぐ降りたい。


「あっはは!ドタチンがメリーゴーランド乗ってるー」


後ろからケラケラと楽しそうな声が聞こえた。…振り返らねぇぞ、絶対。

最初は何に乗ろうかと相談したところ、サイケが「お馬さん!」と勢い良く提案したのでメリーゴーランドに乗ることになった。


「どうせだからさ、ドタチンも乗ろうよ」


てっきりみんなで馬車っぽいやつに乗るのかと思ったら、俺だけこの白馬に騎乗。意味がわかんねぇ。サイケと津軽、臨也とちっこいのは2人乗りの椅子に座っている。
人が必死に恥ずかしさを堪えてるってのに、後ろから容赦なくパシャリという効果音が響いた。


「なかなか様になってるよ!後で写メ送ってあげる」


ああたぶん今臨也はすげぇムカつく顔で笑ってんだろうな。静雄の気持ちを少し理解したところで、ピルルルル…と終了のアラームが鳴った。


「はー楽しかった!ねぇにゃんこ?」

「うん!」


…お前の場合は二重の意味で楽しかっただろうな。
臨也がちっこいのを地面に下ろすと、乗らずにベンチに座っていた奏と静雄の元に駆けて行った。


「楽しかった?」

「うん!たのしかった!」

「そうか。良かったな」


ちらりと横目で臨也を見る。俺はその光景を携帯のカメラで写してから、率直に感想を言った。


「家族みたいだな」

「……」

「写メ、送ってやろうか?」

「いらない」


笑いながら尋ねると、臨也はプイッとそっぽを向いて口を尖らせた。子供かお前は。まあいい。さっきの仕返しだ。


「ドタチン、臨也にからかわれてたね」

「言うな」

「そんなドタチンに代わって、臨也に仕返ししてあげる」


そう言うと奏はパチンとウィンクをした。仕返しならさっきしたんだけどな。しかも間接的とは言えお前が。

奏は、ねぇ、とみんなに呼び掛けると、高くうねったレールを指差した。


「次、あれ乗ろうよ!」


途端に臨也の顔が青くなった…気がする。奏が指差しているのはジェットコースター。遊園地の主役と言っても過言ではないアトラクションだ。

サイケや津軽は興味深そうにレールを滑走するジェットコースターを見つめている。


「あれ、乗るの?」

「そうだよ。サイケも津軽も大丈夫かな。ま、乗ればわかるよね」

「お、俺はいい!ほら、にゃんこ身長制限で乗れないし、留守番してる!」


臨也はちっこいのを抱き上げてぶんぶんと首を振った。そうかこいつジェットコースター乗れないのか。

静雄も気付いたようで、ニヤリと笑うと臨也からちっこいのを取り上げた。


「せっかく来たんだから、手前も乗ればいい。俺がチビといるから」

「は…いやいやシズちゃんこそ乗ってくればいいじゃん。ほら、乗りたいんでしょ?」


…この二人が譲り合ってるってのは、なかなかに気持ち悪い。奏はそんな二人の真ん中に入ると、にこやかに言い放った。


「じゃあ2回乗ろう。1回目は静雄がお留守番、2回目は臨也がお留守番。サイケと津軽はそれでいい?」

「うん、いいよ」

「マジで……?」


臨也の顔からさっきよりも血の気が引いていく。どうやら、死刑宣告をされたようだ。

行こう行こうと奏とサイケに腕を引かれながら、少しだけ臨也に同情した。












「うへぇ…もう無理……」

「大丈夫か?」

「ドタチンはこれが大丈夫に見えるわけ?奏め、俺が絶叫系嫌いなの知ってるくせに…」


ぶつぶつ呻く臨也にため息をつきながら、買ってきたジュースを手渡す。

乗り終わって隣を見ると臨也は灰と化していて、結局俺はこいつの介護役を買って出た。まあ、半分は俺のせいみたいなもんだしな。


「はー、まだ頭がガンガンする」

「意外だな。お前いつもひょいひょい物避けたりしてるから、こういうの平気だと思ってた」

「自分で宙返りとかする分にはね、全然平気なんだけど…。他人に振り回されるのは無理」


……静雄は臨也に物を投げ付けるんじゃなくて直接臨也を投げ飛ばした方がいいんじゃないか?なんて考えは口に出さず、適当に相槌を打った。

呻く臨也を隣で適当に宥めていると、俺の膝に座っているちっこいのがじっと何かを見つめている。


「どうした?」

「……どたち、ぼくもあれほしい」


そう言って臨也の手にあるものを指差すと、こっちを見上げてきた。さっき臨也に買ってきたジュース。
臨也がああ、と視線を向ける。


「いいよ、あげる」

「ありがとう」


臨也からジュースを受け取ると、ちうちうとストローで飲み始める。
これはちょっと…かわいい、んじゃないのか。


「ふふっ、可愛いなぁ」


にやにやと鼻の下を伸ばして笑う臨也。まあ、わからなくもない、が。


「あ、これってもしかしなくても間接キスじゃん!」

「…………お前、気持ち悪くなったな」


えー?と臨也は顔をしかめた。一緒に鍋をした時もその溺愛っぷりは見せていたが、まさかこれほどとは。


「お待たせー」


そんなことを話している内に、ジェットコースター2回目を終えた奏たちが戻ってきた。


「んー、楽しかった!あとでもう一回乗ろうかな」

「信じらんない…。サイケは具合悪くならないの?」

「おれは平気だよ!おれもあとでもっかい乗る!」


嘘…、と臨也が呟く。奏はそんな臨也を見てため息をつくと、ぽす、とその頭に手を乗せた。


「ここまで弱かったっけ……具合、大丈夫?」

「まあ、少しはマシになったよ」


そっか。
頷いて、臨也の頭に手を乗せたまま、奏はにっこりと笑った。

──笑って、本日二度目の死刑宣告をした。


「じゃあさ、次、あれ乗っていい?あれならイザにゃんも乗れると思うの」


そう言って指差した先には、絶えず悲鳴が聞こえるバイキングがあった。






(心の中で絶叫)


(ダメ、もうむり…)
(イザにゃんも絶叫系は大丈夫みたいだね)
(ふわふわするのたのしい)
(うそぉ……)





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