子猫との日常 | ナノ


目を覚ますと目の前に肌色が広がっていて、一瞬思考が止まった。


「(え、)」


視線を上に向けると静雄がすやすやと眠っている。

…えーと、これは、一体どういう状況ですか?
とりあえず、ここどこ。


「った…!いたぁ……って、うわ…」


まず自分の声にびっくりした。すごく、かすれてる…。
そしてもぞりと動くと腰に鈍い痛みが走った。ものすごく腰が重いんですけど。こんなに痛いのは初めてなんですけど!


「静雄、ねぇ」


眠っている静雄の肩を揺すると、静雄は少し呻いて私の背中に回していた腕に力を込めた。あ、抱き癖あったの忘れてた。


「ねぇってば、起きてよ」

「んぅ……ん、…あ?」

「おはよう」

「ああ…はよ」


まだ完全に覚醒しきっていない静雄は、んー、と私の猫耳に顔を寄せた。

今日で3日目なんだけどな。どうやら薬の効果はまだ続いているらしい。


「これ、どういうこと?」

「……覚えてねぇの?」

「全然」


本当に、全く。昨日の夜静雄が貰ってきた植物を受け取ったことは覚えてる。そこから、記憶がぼんやりとして何も思い出せない。


「昨日、お前マタタビに酔ったんだよ」

「マタタビ?」


静雄の話によると、昨日渡された植物はマタタビだったらしく。猫化した私はそれはもうふにゃふにゃのぐにゃぐにゃだったそうで。


「……それってすごく恥ずかしい!ねぇ、私何か変なことしなかった?!」

「別に」

「本当に?羽目外してものすごいことしたんじゃ…」

「なんもしてねぇって。あーでも、」


やっぱり何かしたのかな!?
静雄は口角を上げてにやりと笑うと、意地悪そうに言った。


「メチャクチャ積極的で、すげぇ可愛かった」

「…………え?」

「最中はにゃんにゃん啼きまくってなぁ。あ、あと今の奏って尻尾の付け根が感じやすぐッ!!」

「黙れ離せこの変態!」


あああ恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい穴があったら入りたい!
ぐいぐいと静雄の胸を押す。くっ…腰が…!てか全身痛いんだけどもう覚えてなくて良かったよ!


「さすがに俺も疲れた」

「うるっさい!シャワー浴びたいから離してよ」

「やだ」

「っこの、」

「こうするの、久しぶりだからな」


ちゅ、と軽く額にキスをして静雄は笑った。

……バカ。そんなの反則だ。


「……あと5分」

「ん?」

「あと5分はじっとしててあげる。ただし5分経ったらシャワー浴びて、さっさと家に帰るからね」

「……10分」

「5分!」

「……了解」


静雄が頷くのを見て、私も静雄の背中に手を回した。温かくて広い背中。私よりずっと大きい静雄の背中も、腕も、手も、結構好きだったりするわけで。


「(10分でも、良かったかな……)」


なんて、少し思ってしまったことは、内緒だ。














「ただいま」

「二人揃って朝帰りですかそうですか昨日の夜はさぞかしお楽しみになったんでしょうね」

「なんか臨也姑みたい」

「はあ……。でも昨日は本当に大変だったんだよ。奏も奏だけど、にゃんこがさあ…」

「確かに、あれはやばかったな」


おや、二人で意見が合うなんて珍しい。


「体の火照りが治まらなくてね。水飲ませたり夜風に当たらせたりして」

「なんか悪いことしちまったな……」

「イザにゃんまで……。でも後悔はしてないんでしょ」

「「うん」」

「よーし、二人ともそこに正座しろ」


その後正座した(させられた)二人をしっかり説教していると、ふと臨也が口を開いた。


「奏、発音がにゃんにゃんしてない」

「へ?…言われてみれば。な、な、なー…、やった!」

「もったいねぇ…」

「何か言った?」


ニコリと笑ってフライパンを抱くと、静雄は勢い良く首を振った。


「あ、奏だー。おはよう」

「おはよう、サイケ。イザにゃんも」

「おはようかなで」

「ねぇなんで今日はシズちゃんいなかったの?朝ベッドに行ったらいなかったからびっくりした」

「泊まってきたからな」


お泊り?ずるいよ!とサイケは頬を膨らませた。可愛いなぁ。目の前の同じ顔を見てしみじみと思う。


「ちょっと、そんな見比べなくてもいいんじゃない?」

「ごめんごめん。あまりにも可愛くて、つい」

「何それ俺は可愛くないってこと?」

「23歳で自分に可愛さを求めないでよ」


……うん。やっぱり同じ顔。サイケと同じく頬を膨らませた臨也に少し笑った。

イザにゃんを膝に乗せながら、臨也が口を尖らせる。


「ねぇお説教はもう充分聞いたからさ、ご飯食べようよ」

「俺も腹減ったな……」

「(こいつらは……)」


なんだか怒るのも面倒になった。言っておくけど私全身筋肉痛なんだからね誰かさんのせいで!

重い体を引き摺るようにしてキッチンに向かうと、すでにいくつかの皿と鍋が置いてあった。


『奏たちが帰ってこなかったら、自分たちで温めて食えよ。 津軽』

「(……くぅっ)」


ありがとう津軽。私津軽のこと大好きだ。
津軽の気遣いが身に染みて、軽く泣いた。いやこれ本当。


「どうしたんだよ」

「二人とも津軽を見習えばいい」

「えー無理だよ」


無理じゃないよ、普通に生活してくれるだけでいいんだよ。

と、突然頭がぼーっとした。あれ、これ薬飲んだ時と同じ…?


「「「「あ」」」」

「え?」


頭と腰の、何か生えたような異物感が無くなった。そっと頭に手を伸ばす。


「無い…」


どれだけ触っても、あのふさふさした感触は無い。お尻を触っても、ゆらゆらした尻尾は無かった。

ということはつまり。


「治った!」

「奏のお耳が消えた!」

「((勿体ない……))」


心からがっかりしている二人をじとりと睨むと、二人とも慌てて背筋を伸ばした。
その隣で、がっかりしている顔がもうひとつ。


「あれ?イザにゃん、何でそんなに落ち込むの?」

「かなでとおそろいだったのに、なくなっちゃった……」

「あ…、」


周りから見たら異形のイザにゃんにとって、自分と同じ外見を持った人がいるというのは、予想以上に嬉しかったのだろう。

胸の内に罪悪感を感じながら、私はイザにゃんを抱き上げた。


「私の耳や尻尾は消えちゃったけど、私はイザにゃんの耳と尻尾の方がかわいくて好きだよ?」

「……うん」

「…よし、じゃあご飯食べ終わったら私とイザにゃんでお揃いの何か作ろう」

「おそろい?」

「そう。何がいいかなぁ」

「おそろいつくる!」


どうやら機嫌を直してくれたみたいだ。

うん、何だかすごく大変な3日間だったけど、楽しかったな。だからってまた薬を飲みたいとは思わないけどね。


「ただいま」

「あ、津軽帰ってきた」

「ね、ね、おそろい作るならおれも津軽も作っていい?」

「もちろん!」

「あのー、奏、俺たちは一体いつまで正座してれば……」

「あ、津軽、ご飯作ってくれてありがとうね」

「奏さーん?」

「本当に助かるよ」

「まさかの放置プレイ?」






(戻りました)


(はい、もしもし岸谷です……奏?)
(猫耳も尻尾も治ったよ)
(そう!良かったねぇ!)
(てなわけで、今から新羅んち行くから。ちなみにセルティは私の味方ね)
(え、ちょっと、)
(いくら臨也の頼みだからって協力したのは事実だし。……覚悟しておいてね!)





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