子猫との日常 | ナノ


「……ってえ!おいノミ蟲、さっさと降りろ!」

「俺より先にサイケに言ってよね。ほらサイケ、さっさと降りないとシズちゃんが、「「かなで!」」


突然のことに目を丸くしていると、一番上に乗っていたサイケとイザにゃんがたたたっとこちらに駈けてきた。


「かなで、だいじょうぶ?」

「臨也がね、奏はおっきいお注射しないと死んじゃうって言うの!」


二人とも目に薄らと涙を溜めて、私を見上げた。

一瞬間が空いてから、サイケとイザにゃんの酷く大げさな表情を見て不覚にも笑ってしまう。

そして二人を抱き寄せた。


「かなでのて、あつい…」

「大丈夫、大丈夫だから……。だから、ありがとう、二人とも」


ぎゅう、と抱き締めると、サイケとイザにゃんも抱き締め返してくれた。
サイケが泣きそうな声で尋ねる。


「奏、死なない?やだよ、おれ、奏がいなくなるのやだ!」

「ぼくもやぁ……!」

「死なないよ。サイケもイザにゃんもいるからね」

「どうかなぁ。やっぱり注射しないと治らないかも」

「「ふぇ……!」」

「煽るなバカ」

「った!なんで俺殴るの!?いま言ったの新羅じゃん!」

「手前の方がムカつくから」

「…奏。粥作ったけど、食えるか?」


津軽がお盆に土鍋を乗せて尋ねたので、私は小さく頷いた。さっきまでぐるぐると回っていた思考は、嘘というほど無くなっていて。


「奏の診察中ずっとドアの前で待ってて、いなくなったら嫌だと言われて、お粥を作ってくれて。どうだい、これでも愛が無いと不安に思う?」


笑って聞いてくる新羅に、私も笑いながら首を振った。

なんて、幸せ者なんだろう、私は。

随分贅沢な悩み事をしていたみたいだ。


「愛が足りないと思うなら、今夜は俺が一緒に寝てあげぐふッ」

「ふざけんなよ手前…!奏の風邪が治るまで部屋に入んじゃねぇ」

「殴った、殴ったよね今!奏、シズちゃんにペナルティは?」

「んー……とりあえず二人とも、」


ちょいちょいと手招きをする。静雄と臨也を私の目の前に座らせてから、サイケとイザにゃんにしたように二人をぎゅうっと抱き締めた。
瞬間、二人が固まる。


「ありがとう。家族でいてくれて、ありがとう」

「あ、あぁ……」

「何なら今すぐ結婚して本当の家族に、」

「よし出てけ。今すぐ出てけそしてもう二度と戻ってくんな」

「冗談だから肩を握る手に力込めないでくれない」


腕の中でギャーギャー騒ぐ二人は、何だかんだ言いながら片手は私の背中に回してくれていて。

その温かさにくすりと笑うと、不意に津軽と目が合った。


「あ、……」

「…津軽、ここ、おいで」


私の隣を指差すと、津軽は少しぎこちなくそこに座った。静雄と同じふわふわな頭を撫でる。


「津軽も、ありがとうね」

「……、おう」


くしゃくしゃと撫でると、津軽が少し頬を染めて返事をした。なんだか可愛い。
と、私の目の前にいきなり新羅の顔が現れた。


「ねぇねぇ奏、俺は?」

「新羅も、ありがと」

「「お前は要らん」」


新羅の頭を撫でようとした瞬間に、新羅の顔が目の前から消える。足元を見ると、見事に床に埋もれた新羅がいた。


「酷いよ!なんで僕だけそんな激しい殺意を向けられなきゃいだだだだ」

「なんかノリがうざかった」

「不本意だがノミ蟲に同感」

「うざいって……臨也にだけは言われたくないよ」

「それは言えてるな」

「シズちゃんは今どっちの味方なの?」


放っておけばいつまでもそうしてそうな三人を宥める。何だかんだ言って、この三人は仲がいいんだよなぁ。……あれ?なんか、気持ち悪い…。

今更のように襲ってきた倦怠感と頭痛に、そういえば風邪ひいてたんだと自覚して、腰にしがみついていたサイケとイザにゃんをベッドから下ろした。


「さ、私はもう大丈夫だから。あんまりここに居ると風邪うつっちゃうし、ご飯食べといで。ご飯の前に、ちゃんと手洗いうがいしてね」


渋々といった感じでみんなが部屋から出ていく中で、静雄だけが残った。どうしたの?と首を傾げると、おでこをこつん、と突かれる。


「無理すんな、バカ」

「へ?」


そしてきょとんとする私に、お粥を掬って差し出して。


「ほら」

「え、私一人で食べれる「いいから」


ほら、と更に差し出された蓮華を、仕方なくくわえる。あ、おいしい……。


「もう一回」

「ん……」


一回やってしまうと、抵抗感はなくなった。不思議なものだ。黙々とお粥を食べ続けて、土鍋の中身が半分になった頃。


「も、いい。入んない」

「そうか。じゃ、これ」


新羅が置いていった薬と、津軽が持ってきてくれた水が一緒に手渡される。
私が3つの錠剤を一気に飲むと、寝ろ、とベッドに押し込められた。


「えっと静雄、もういいよ?」

「いいから。さっさと寝ろ」


そう言って静雄は、片手で私の手を握って片手で私の頭を撫でてくれた。
さっきより気分が大分良くなってきたから、すぐにうとうとと眠気が襲ってくる。

繋がった手が熱くて熱くて、その熱さが気持ち良くて、それに溶けるように私は眠りにおちた。


「まったく……」


すーすーと寝息を立てる奏の顔を見てため息をつく。


「礼を言いたいのはこっちの方だってんだよ」


もう一度奏の頭を撫でてから、俺は静かに部屋のドアを閉めた。






(ま、ただの風邪なんだけど)


(台無しだよ、新羅)
(えーでも事実だし)
(…セルティが風邪ひいた)
(!!それは一大事だよ臨也!俺今すぐかえッぶふ!)
(……あー、セルティか?新羅が怪我したから迎えにきてやってくれ)


(((三人とも仲いいなぁ…)))




[ back to top ]




「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -