子猫との日常 | ナノ


津軽とサイケが我が家にやってきて一週間。前々から思ってたんだけど。


「津軽ってホント器用だよねぇ」

「そうか?」


くつくつと煮えている肉じゃがの灰汁を取りながら、津軽が首を傾げる。

家に置いてもらっているのに、何もしないのも悪いと元々家事の手伝いをよくしていたんだけど……。
とにかく飲み込みが早いのだ。洗濯機や掃除機の使い方を教えれば一発で覚えて使いこなすし、料理だって最初は力加減が分からなくて卵を握り潰すくらいで、一度失敗したらすぐ力加減もできるようになる。


「なんていうのかなぁ……なんかもうすごいよ、本当に。万能?」

「いや、俺に聞かれても」


灰汁を捨てながら無表情で答える。おまけに沈着冷静ときた。これはモテるぞお前。


「でも本当に助かるよ。全く、あいつらもちょっとは津軽を見習って欲しいよね」

「いぃーざぁーやぁー!!」

「おー怖い怖い!ほらサイケ、シズちゃんの相手してあげて」


噂をすれば、だ。
2階からバタバタと降りてきた、でかい子供2人を見ながらため息をつく。


「シズちゃん?サイケといっしょに遊ぼ?」

「う、ぐ……どけサイケ、臨也をぶっ飛ばしたら遊んでやる」

「しずお、けんかしちゃめーっ!」

「うんうん、にゃんこの言う通り。ケンカ、良くないよシズちゃん」

「いざやもめーっだよ!」

「もう、本当に可愛いんだからにゃんこは」


全く、騒々しいったらありゃしない。まだイザにゃんとサイケがストッパーになっているからいいものの、2人共休みの日はほとんどこんな感じだ。


「静雄も臨也も、津軽の爪の垢でも煎じて飲めばいい」

「えーなになに奏。あ、今晩のおかずは肉じゃが?俺ニンジン嫌いなんだけど」

「うるさい。あんたもちょっとは手伝いなさいよ」

「だって家事は全部津軽がやっちゃうんだもん」

「へぇ?今日はまだお風呂掃除が残ってるんだけど?」


洗った包丁をキラリと光らせながら笑うと、臨也は顔を青くして「いってきます」と風呂場に向かった。


「静雄は今日サイケとイザにゃんお風呂に入れてね」

「マジかよ」

「マジです」

「わーいシズちゃんとお風呂だ!初めてだね!」

「いや、あのな……」


イザにゃんとは何度もお風呂入ってるのに、静雄はサイケとは入ろうとしない。
なんでも、臨也と同じ体を裸で見るのも自分の裸を見られるのも嫌なんだとか。知るかそんなの。意識するから余計気持ち悪くなるんだよ。


「大きい子供だと思って入ればいいじゃん」

「いやでかすぎる」

「もう焦れったいなぁ!そうやって裸気にしてる方が、そっちの気があるみたいで気持ち悪い!」

「なっ……!」


静雄はショックを受けたようにびきりと固まった。おー久しぶりに見たよそんな顔。


「で、でもよ……別にサイケは一人で入れるだろ」

「入れないから頼むんでしょう?この前ダメだったし」


以前サイケとイザにゃんの2人でお風呂に入れたら、見事に2人とも上せた。
お風呂できゃっきゃと遊んでいる内に上せてしまったようで、以降サイケとイザにゃんは必ず他の誰かと入るようにしていたのだ。


「シズちゃんは俺と入りたくないの?」

「そういうんじゃ、ねぇけど……」


あ、負けた。
静雄は結構サイケに弱い。多分、臨也がムカつく分、同じ顔で素直なサイケには適わないんだろうな。ギャップがあり過ぎて。
顔が同じでも、顔が似ている双子の妹たちのように素直ながら変わってはいないし。

いや、あんな外見で中身が子供なのも変わってるのか?てか四六時中ヘッドホンつけてるのも変り者っちゃ変り者?

一人悶々と考えていた私の思考回路を、津軽が遮った。


「奏、味見」

「ん?あぁ、はい」


小皿にダシを少しよそって差し出された。ん、おいしい。けど。


「もうちょっと甘い方がいいかも」


砂糖を少し加えて再び味見をする。うん、良くなった。
良くなったというか、ただ単に私の好みなんだけど……。


「津軽さ、料理作っても割と私に味見求めてくるよね。なんで?」


味噌汁を作っても、カレーを作っても、魚の煮付けを作っても。津軽は私に味見をしてもらう。料理本に倣って作った料理でも。
前から疑問に思ってたんだよね。

津軽はやっぱり無表情のまま、淡々と答えた。


「奏の家の味に、したいから」

「私の?」

「いくら料理本を見て作っても、所詮それはお手本だろ。それよりも、俺は奏が昔から食べてる味にしたい。……それに、多分、その味の方が静雄も臨也もニャン公も好きだと思う」


…………、おおう。なんて泣かせる言葉。

えっと……なんだろう、なんでこんなに照れるんだろう!
嬉しいやら恥ずかしいやらで、私は顔に血が上るのを感じた。
とりあえず照れ隠しに津軽の肩をバシバシと叩く。くぅっこの色男め!


「あっありがとね!」

「だから、本当は本より奏に直接料理習いたい」

「ふぇっ!?わ、私に!?や、やだなぁもう!もっと早く言ってくれれば、いくらでも教えてあげるのにぃたぁっ!」


いつの間にか正面に立っていた静雄にデコピンされた。カウンター式のキッチンだから、私と静雄の間にはシンクと低い壁しかない。

もう!この前からなんなの!
額をさすりながら静雄を睨み付けると、今度はチョップをされた。痛い……。


「何すんの……」

「お前が悪い」

「はぁ?」


静雄はそれだけ言うと、タバコを取り出しながら玄関に向かった。外で一服するつもりなんだろう。


「訳わかんない……」

「奏ってばどんかーん」


今度は風呂掃除を終えた臨也がそこに立っていて、つん、と鼻を突かれた。


「は?鈍感?」

「でもシズちゃんいい気味だから教えてあーげないっ!あ、津軽、俺も味見したい」

「ニンジンならいいぞ」

「えぇー……」


そんな2人のやり取りを聞きながら、私はまだ少し痛む頭に手を当ててただただ首を傾げた。





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