子猫との日常 | ナノ


「…!!……!」

「うわーかわいいなぁ!」


翌朝。
イザにゃんの耳をぐにぐに触りながら、サイケが嬉しそうに笑った。

イザにゃんといえば、知らない内に知らない人が家に居るという状況に人見知りも相まって、表情を固くしたままガタガタと震えている。逃げようにも耳を捕まれている為逃げられないみたいだ。


「津軽見てよ!しっぽもふわふわだよ!」

「それより先に挨拶だろ」


コツン、と軽くサイケの頭を小突いて津軽はイザにゃんに目線を合わせた。


「俺は津軽島静雄だ。これからよろしくな」

「サイケデリック臨也だよ」

「津軽にサイケでいい。……大丈夫か?」


固まったままのイザにゃんを気に掛けて津軽が尋ねると、ブンブンと勢い良く首を縦に振って、逃げるように朝食を作っている私のところへ走ってきた。

がしりと足を掴まれて何か言いたそうな表情をされる。うわ、上目遣い可愛い!


「あの2人も家族になったからね。ほら、イザにゃんもちゃんと自己紹介しておいで」


家族、という言葉にぴくりと反応してから頷くと、イザにゃんはまた2人の元へ走っていった。


「いざにゃん……だよ」

「そうか。よろしくな」

「ねえ津軽!おれイザにゃんのお兄ちゃんになる!」

「おにいちゃん……?」


言ってる意味がわからない、という風に首を傾げるイザにゃんを、サイケがそうだよ!と抱き締めた。あ、イザにゃんぎゅー好きだもんね。嬉しそうに耳ピコピコしてる。

でも兄弟っていいなあ……。私は一人っ子だったから、少し羨ましいかも。


「手伝う」

「へ?あ、ありがとう」


いつの間にか津軽が隣に立っていた。び、びっくりした……。

津軽と一緒に朝食を並べていると、静雄と眠そうな臨也が起きてきた。イザにゃんが起こしに行くのは朝の日課。今日はサイケも付いていったらしい。


「おはよ」

「おはよう」

「ふあ……眠いー……」


また遅くまで仕事やってたのかな。イザにゃんを抱いたままソファへ倒れこむ臨也の頭を撫でてあげる。


「ご飯あとで食べる?」

「いや、今食べる……」


むくりと起き上がって自分の席に着いた臨也の隣に津軽が座る。その隣にはサイケ、静雄、私、イザにゃんで臨也に戻るように座った。

うわあなんて壮観なんだろう。同じ顔が交互に並んでるのは中々おもしろい。
それにしても、もうダイニングテーブルは使えないなぁ……。


「「「いただきまーす」」」


随分と大人数になった挨拶を聞いて、私は無意識に頬を綻ばせた。










「ただいまー」


今日は仕事が終わる時間が一緒になったので、静雄と帰った。2人で家に帰ると、玄関でイザにゃんとサイケが出迎えてくれた。


「しずお、かなで、おかえりなさい!」

「奏、シズちゃん、おかえり!」

「…………あ"?」


靴を脱いでいた静雄に、サイケがそれはもう純粋に悪意の欠片もなくにっこりと笑って口にした言葉。

ピキピキと音のする方を見ると、案の定静雄が青筋を立てている。


「お前、朝は俺のこと静雄って呼んでたよな?」

「? うん」

「なんでそう呼ぶようになった……?」

「臨也が、シズちゃんって呼んであげれば喜ぶよって」


そうか、と小さく呟いて、イザにゃんに臨也を呼んでこいと言って静雄はまた靴を履いた。え?なに、何すんの今から。


「ちょっと臨也と出掛けてくる」

「いやいやいや止めてよ2人でお出掛けとか気持ち悪いから。晩ご飯作るから家に居なさい」


家が壊れるのは嫌だけど、私だって公共物にちょっとは気を遣うわけで。
静雄はため息をついてまた靴を脱いだ。……私がため息つきたいっつーの。

そんな場の空気をものともせず、またサイケが口を開いた。


「シズちゃんは、シズちゃんって呼ばれるの嫌なの?おれは好きだよ?」

「は?好き?」

「うん!だって静雄よりシズちゃんの方が可愛いもん!」


あ、完璧触れちゃいけない所に触れたわ。でも意外にもこの勝負に勝ったのはサイケだった。


「それに、静雄だとおれが津軽のこと呼んでるみたいなんだもん」

「ああ、名前同じだもんな」


さっきまで出かかっていた、なんか黒いオーラみたいなものがすんなりと成を潜めた。やるなぁサイケ。


「シズちゃん、いや?」

「そういう理由なら、まあ、いいか」

「静雄がそのあだ名認めるなんて意外かも」

「バカにするように呼ばれんのはムカつくんだよ。ノミ蟲みたいにな。けどこいつにはちゃんと理由があるし」


静雄はぽん、とサイケの頭に手を乗せてリビングへ行ってしまった。

いくら臨也と同じ顔でも、中身が全く違うサイケにはそれほど嫌悪感を抱いていないようで、その点に関してはすごく安心する。
これでサイケにもイラついてたら、もう池袋は半壊してるんじゃないかな……。

自分の想像に寒気を覚え、ため息をつきながらリビングに入ると、津軽もおかえり、と言ってくれた。


「買い物してきたのか?」

「うん。あ、そうだ。ほらこれ」


今日の帰り道、静雄に頼んで少し寄り道して買ったものを津軽に差し出す。紙袋の中から出てきたのは、


「甚平……」

「津軽着物着てたからさ、洋服よりはこっち着てた方がいいかなって」


流石にあの一張羅を毎日着るわけにもいかない。特に着物は簡単に洗えるようなものでもないし。
津軽もサイケも体型は静雄と臨也そっくりだから、服はいくらでも貸してあげられるんだけど……津軽は和服の方が落ち着くと思って買ったのだ。


「ありがとう」

「ど、どういたしまして」


青と黒の2枚の甚平を抱えて、津軽が微笑んだ。うわ、すごいカッコいい。
思わず頬を赤くした私に静雄が無言でデコピンしてきた。いったいなぁもう何すんの。


「腹減った」

「はいはい」

「手伝う」

「ありがと」

「……あ、悪いなチビネコ、臨也呼ばなくて良くなったぞ」

「いざやが、しずちゃんにわざわざなぐられにいくなんてするわけないじゃないって」

「そんなのもわからないってしずちゃんばかじゃないのって」

「よし、もう一回臨也呼んでこい。てかもう俺が行く」

「ちょっと、喧嘩ダメだってば」

「イザにゃん、おれと遊ぼう?」

「さいけとあそぶ!」











(なんてこと、ない)


これが、私たちの日常





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