「……で、何でそこで連れ帰って来るかなぁ」
「仕方ないじゃない。放っとく訳にもいかないし」
ん?なんか激しくデジャヴ。
イザにゃんの時と完全に立場が逆転してるのか……まあいいや、気にしない。なんてのは強がりで、実はちょっぴり恥ずかしかったりする。
「大体シズちゃんもシズちゃんだよね。なんで連れてくんのさ。なに、まともな判断はできないの?てか奏が歩けなくなるほど何したわけ?」
「……るせぇ」
「あー静雄は悪くないの。私が勝手に決めたことだから。てか論点ズレてる!」
苦笑しながら手をひらひらと振ると、臨也は呆れたようにため息をついた。
「まずは話だけでも聞こうよ、ね?」
「まぁ……俺の情報網に今まで引っ掛からなかったのは気になるね」
私の隣に並んで座っていた2人に視線を向ける。
一人は黙って座り、一人はソファで寝ているイザにゃんに興味津々のようでそわそわしていた。
「じゃあ、とりあえずお名前聞こうか」
「俺は津軽島静雄。こいつは、」
「サイケデリック臨也!」
おおう……ド頭からすごい衝撃だな。
そう思ったのは私だけじゃないようで、静雄は持ったコップにピシリとひびを入れ、臨也からは完全に笑顔が消えた。
「ど、どこから来たの?」
「分からない。気付いたらそこにいた」
「なんで2人一緒……?」
「それも分からない。でもこいつとはずっと前から一緒にいた気がする。こいつと一緒にいるのが当たり前のような……」
「あーもういいよ。なんだか寒気がする」
「珍しいな、俺もだ」
まぁ自分と同じ顔の人が、自分の大嫌いな奴と同じ顔の人と仲良くしてたら確かに嫌気が差すだろう。
静雄と臨也なら尚更かもしれない。
それより気になるのは、この2人の境遇がイザにゃんにとても似ているということ。
イザにゃんも最初は臨也と名乗っていた。気付いたら臨也のマンションにいたとも。
「これは……そういう存在だと思っていいのかな」
「構わないんじゃない?俺の方でも少し調べてみるよ。それで何も情報が見つからなかったら確実だね」
「そっか。じゃあさ、あなたたちも此処に住みなよ」
「「はあ!?」」
静雄と臨也が目を丸くする。
あら珍しい、2人でハモるなんて。と冗談を言う暇もなく臨也が口を開いた。
「なんでそこに直結すんの?別に一緒に住まなくたって……俺の使ってないマンションとかあるし、そこ貸すよ」
「生活費はどうすんの。ずっと臨也が払い続けるの?そんなのお金が勿体ないよ。それに、この2人だけでまともに生活できるとは思えない」
「金はいいよ。生活手段だって最初だけ教えてあげればあとは勝手に覚えるでしょ」
「ちょっと待って、なんでそんなに否定的なの?…静雄はどう?やっぱりダメかな?」
声を上げてから今まで黙っていた静雄の方を向くと、すっかりいつも通りの彼が何ともなさげに口を開いた。
「奏がいいなら、いいんじゃねぇの」
予想外の答えに、今度は私が驚いた。いやいいんだよ寧ろ大歓迎な意見だけども。
静雄は自分が何か変なことを言っただろうかと首を傾げる。
「ここは奏の家だし。なんつーかよ、チビネコを受け入れた時点でもう今更ごちゃごちゃ言えねぇっつーか」
「そっ、か。…ありがと」
「おう」
「…………好きにすれば」
「え?」
いきなり許可を出した臨也を見ると、むうっと頬を膨らまして部屋を出て行ってしまった。……拗ねたのか。何才だお前は。
気を取り直して2人に向き直る。
「じゃあ、これからよろしくね。津軽島くんとサイケ、デ……」
「ああ、呼びにくいだろう。津軽とサイケでいい」
「そう。じゃ、津軽にサイケ。私は奏、奏でいいよ。改めてよろしく」
「俺は静雄だ」
「さっき出て行ったのが臨也で、あのソファで寝てるのがイザにゃんね」
「静雄と臨也って、おれたちと同じ名前だね!」
サイケがどこか嬉しそうに言う。おお…なんだか新鮮だ。臨也も素直に育っていたら、こんな笑顔もできたのかな。
そこで私がある問題に気付いた。
「あ、部屋どうしよう」
「足りないのか?」
「いや足りなくはない。物置部屋を片付ければなんとかいける」
「俺たちの部屋は一緒でいい。どうせサイケは一人で寝れないからな」
「そう?なら両親の寝室を使っていいよ。ダブルベッドだから」
ありがとう、と津軽はサイケの頭を押さえながらお礼を言った。静雄は2人が一緒に寝る姿を想像したのか、またぞわりと鳥肌を立てている。
頭を上げた2人はまっすぐ向き直って言った。
「これから、よろしく頼む」
「よろしくお願いします!」
「はい、こちらこそ」
ああ、温かい