「ええっと……これはどういうことかな、奏ちゃん」
玄関で臨也がひくりと頬を引きつらせた。どこか黒いオーラに私は、あは、と笑う。
「拾ってきちゃった」
「今すぐ元の場所に返してきなさい」
「そんな捨て猫みたいに言わなくても」
「その言葉そっくりそのまま君に返すよ」
臨也は腕組みをしてじとっとした視線を私に向けた。
遡ること30分前──
静雄においしくいただかれた私は静雄におぶさって帰り道を歩いていた。
「腰痛い……体だるい……」
「へーへー」
「何よその反応。だいたい、静雄があんなにがっつかなきゃこんなことには……!」
「仕方ねぇだろ、久しぶりだったし。まだ足りないくらいだ」
さらりと付け加えられた言葉に私はマジで?とげんなりする。
辺りはもう日が沈み切っていた。そんなに遅い時間ではないのだが、人通りの少ない通りであったため、今は私たちしかいない。
「私もう当分したくない」
「マジかよ。俺あと3回はイケぶふっ!」
ふざけんな!と静雄の顔面を後ろから回した手で思い切り叩く。
そんなやり取りをしている中、私は前方の人影に気が付いた。
いや、気が付いた、というよりは目を奪われた、の方が合ってるかもしれない。
「…………静雄」
「何だ?」
「世の中には、まだまだ不思議な人たちがいるんですね」
はあ?と静雄がこちらに視線を向ける。私は黙って前方を指差した。
「ねえねえすごいよ!いっぱいジュースが並んでる!」
「……欲しいのか?」
「くれるの!?」
「金が無いから無理だな」
………………、
くるりと方向転換をした静雄の頬をべしんと叩いた。
「関わりたくねぇ」
「目撃した時点で関わりあんの」
「あっ!うわぁ……!!」
尚も背を向ける静雄の背中で暴れていると、背後から声が聞こえた。その声はだんだんこちらに近付いてくる。
ああほら、もう。
この出会いが必然であるかのように
逃げられはしない
「津軽にそっくりだ!」
「津軽……?」
たたたと駆けてきた青年は、子供っぽい言葉遣いで、どこかあどけなさを残した顔をぱあと輝かせている。
うん。でも私は君を誰かさんにそっくりだと言いたいよ。
「こらサイケ、困ってるだろう」
「サイケ……?」
あとから付いてきたもう一人はいかにも大人の男性という感じで、物腰が落ち着いていた。
まあそれでも、そっくりなのはそっくりなんだけど。
「えっと……旅の方?」
「なんだよそれ」
「いや、旅というよりは、漂流……か?」
「お前もお前で訳分かんねぇ返事すんな」
私が大人びた方に話し掛けると、大して表情を変えることもせず少し考え込むように返された。静雄がなんだか文句を言っているが、それは静雄の頬をつねることで解決する。
「……今夜、泊まる所は?」
「おい奏!まさか、」
「私の家来なよ。なんか詳しい話聞きたいし」
「いいのか?」
「大歓迎」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
サイケと呼ばれた青年がお泊まり?お泊まり?と嬉しそうに言っているのを聞いていると、静雄が小声で話し掛けてきた。
「正気か?」
「うん。なんと言いますか……イザにゃんと同じ雰囲気というか、同じものを感じる」
「……ノミ蟲の説得はお前がやれよ」
「ありがと」
私に折れたフリをして、実は静雄も心の隅で放っておけないと思ってる。そんな静雄が大好きで背中にこつん、と額を押しつけた。
静雄は黙って私を背負い直すと、親子のような2人に付いてこい、と一言言って歩きだした。
そして、世にも奇妙な列が出来上がる。
平和島静雄が女をおぶって歩き、その後ろを
ヘッドホンをした折原臨也
と
着物を着た平和島静雄
によく似た2人が付いていくという、奇妙な列が。