子猫との日常 | ナノ


「俺が一番か」


廃工場に一番先に姿を現したのは京平だった。工場の中には20人ほどの男たちが待ち受けていて、まるでドラマの撮影みたいだな、と小さく息をつく。


「奏は?」

「安心してください。ちゃんとここにいますよ」


電話を掛けてきたと思われる男(どうやらこの集団のリーダーのようだ)が親指で後ろの方を指す。そこには確かに、足をロープで縛られてイザにゃんを抱き抱えている奏がいた。


(ちっこいのも一緒か)


僅かに表情を険しくした京平を、男たちは面白そうに見ている。すると突然、ものすごい音が響き渡った。


「なんだ……?」


リーダーの男が眉をひそめる。京平は厳しい表情のままため息を一つついた。

入り口に現れたのは静雄だった。片手には、外に山のように積まれた土管のような太い鉄パイプを握っている。
常人ではとても持てないそのパイプを片手で引き摺る姿を見て、男たちは少なからず動揺しているようだ。


「……手前らだな?奏とチビに手ぇ出したのは」


ギロリと男たちを睨み付けた静雄は、奥で震えている2人を見つけ少し安堵の色を見せたあと、先程よりも怒りを顕にして鉄パイプをぐしゃりと握り潰した。


「死ぬ覚悟は、あるんだろうなあ……?」

「落ち着け静雄。こいつら、何か要求があるみたいだぞ」

「門田!今はそんなこと言ってる場合じゃ「そうなんです!」……あ"ぁ?」


リーダーは話が早いというようににっこりと笑った。


「一人足りませんが、まあいいでしょう。単刀直入に言うとですね、私のチームに入って欲しいんですよ」


両手を広げて男は言う。
こいつが暴れ出さない内にさっさと話をしてしまおう──余裕の中に焦りがあるのを、京平は見抜いていた。


「もちろんタダとは言いません。入ってくれればこの2人を差し上げます」


それは、従わなければこの2人は返さないという明確な取引条件。京平はあくまで冷静に考える。


「どうして俺たちを欲しがる。お前らに利益をもたらすようなモンは持ってねぇよ」

「ご謙遜を!あなたは確かダラーズの顔効きだとか。平和島さんはとても強い力を持っているようですし、もう一人、折原さんは都内でも有名な情報屋です」


そこまで知っててなんで俺ら3人同時に喧嘩売るんだろうな。
京平は純粋に疑問に思う。

こいつら、死にたいのか?

俺はともかく、静雄と臨也を同時に敵に回すなんて……自殺志願者以外考えられない。

男はだんだん興奮してきたようで高らかに言葉を続けた。


「池袋には今ダラーズというチームが羽振りをきかせているようですが、あなた方が居ればダラーズを潰すことができる!俺たちが幅を広くしてこの街を歩けるんだ!」


ああ、なるほど。こいつは池袋を分かってねぇな。

京平は男の口調から男がこの街について知らないことが多いと判断した。

まず、ダラーズは別に羽振りをきかせている訳じゃない。ただそこに“ある”だけだ。まぁ……最近は少し変わってきたようだが。
それに俺は顔効きでもなんでもねぇ。ダラーズには縦社会が無いからそんなもんは存在しない。
あとは静雄の恐ろしさを全くと言っていいほど分かっていない。人数が多いから勝てるとでも思っているのだろうか。そんなの、静雄の前じゃ思い上がりだ。

京平は呆れたように息をつき、覚悟を秘めた瞳で睨み付け言い放った。


「いやだと言ったら?」

「言わせないようにしますよ。……こうやってね」


男が合図をすると、奏の近くに立っていた別の男が奏に手を掛けた。片手にはナイフが握られている。隣でミチリ、と鉄が更に曲がる音がした。


「静雄、堪えろ」

「無理だ、我慢できねぇ……おい、汚い手で奏に触んな……!」

「おっと、なら頷いてくれますか?」

「はいはい、取り敢えず手、離そうか」

「は?」


突然響く声にリーダーの男が振り返ると、奏に手を掛けていた男の喉元にナイフを向けている青年が一人。
いつの間に、なんて考える暇もなく男は鳩尾を蹴られ気絶した。青年はその男の上に座り再び喉元にナイフを向ける。


「形勢逆転、っと」

「遅ぇんだよ!」

「シズちゃんが短気なだけでしょ?」

「んだと手前!!」

「まぁ、俺もこいつが奏に触った瞬間に足が動いちゃったからねぇ。もう少し頃合いを見たかったんだけど」


ホント、人間って面白いよ。

そう言ってにこりと笑う折原臨也が、そこにいた。



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