子猫との日常 | ナノ


トムさんと次の取り立て場所に向かっていると、ポケットの中の携帯が鳴った。
画面を見るとそこには“奏”という文字。


「もしもし」


何かあったのか心配する反面、電話越しにでも奏の声が聞けるという気持ちから早々に電話に出たのだが、そんな俺の耳に飛び込んできたのは奏とは似ても似つかぬ低い声だった。


『もしもし?平和島静雄さんでいらっしゃいますか?』

「……誰だ、てめぇ」


ああすみません、と電話先の男は陽気な声で言うが、逆にそれが俺を苛立たせた。

なんで奏の携帯から男がかけてやがる。なんで奏と代わらねぇ。なんでこいつは……こんなにヘラヘラ笑ってやがるんだ?
気に入らねぇ。直感的に、そう感じた。


「……奏を出せ」

『奏さん!いやね、彼女いま夢の中でして。私の目の前ですやすや眠ってらっしゃるんですよ』


こいつの、いやに丁寧な言葉使いが気に入らなくて、ねっとりとした喋り方が気に入らなくて。奏が何かに巻き込まれていると考えたら頭に血が上ると同時にサッと引いた気がした。


「どこにいる」

『池袋の廃工場です』


廃工場で昼寝をする奴なんているはずねぇだろうが。
憶測は決定事項となり、携帯がミシリと音を立て、その瞬間俺は人混みの中で叫んでいた。


「てめぇ!奏に何しやがった!」

『やだなぁ。まだ何もしてませんよ。それより、『かなでっ、かなでおきて!しずお!!たすけ─』のガキ……ッ、おい!押さえとけって言っただろうがッ!』


電話の向こうで何やらガタガタやっているようだが、それより、それより、だ。

チビネコの、声?


「トムさん」

「……おうよ。行ってこい」

「ありがとうございます」


軽く頭を下げて走りだす。自分の握力で携帯を潰してしまわないように気を付けながら、男に詳しい場所だけ聞いて電話を切った。









電話を切ったあと、男はイザにゃんに優しく語り掛けた。その表情も、その声も、さっきまで怒鳴っていた人と同一人物だとは思えない。


「おとなしくしててねって、お兄さん言ったよね?」

「ひ、う……」

「痛いのは嫌だろう?」


子供は怒鳴り付けたり殴ったりするよりは、こうして優しく語り掛ける方が効く。脅すよりも、黙って怯えさせた方がいい。うるさく泣き叫ばれると何かと面倒なのだ。

イザにゃんは、そんな男に微かに別の男の影を重ね見ていた。かつて自分を嫌いだと言い放った、今は大切な家族。

そう、男は以前の臨也にとても似ているのだ。表面は優しくても、何かどろどろしたものが裏で渦巻いているような──…。


(でも……いざやより、こわくない)


臨也にはもっと得体の知れない気持ち悪さがあったが、目の前の男は明らかに悪意を感じる。
それが自分自身ではなく、さっき電話で話していた静雄やその後同じように電話をした臨也とドタチンに向けられているのが、イザにゃんにとって不安だった。


(たすけてほしいけど、きてほしくない……。でも、かなでが……)


奏が気絶させられたあと、イザにゃんと奏は1台のワゴンに乗せられここに連れてこられた。しかし到着すると何人もの男たちがいて、イザにゃんだけ別のワゴンに移された。

先ほど、おとなしくしていたイザにゃんに油断した別の男の隙をついて、奏のいるワゴンに向かうと奏はまだ気絶しており、優れた聴覚で電話から流れる静雄の声を聞いて助けを求めようしたがすぐに連れ戻されてしまった。


(だれかきて……かなでを、たすけてください……っ)


こんな時でさえ他人を想うこの少年は、ただただ願うしかなかった。





しかし奏たちを連れ去った男たちは知らなかったのだ。
自分達が池袋最強の男と、その男と渡り合う情報屋、埼玉のチームのリーダーともやりあったダラーズの顔効きを同じ場所に集めてしまったことなど。

3日前に池袋にやってきたばかりの彼らは、それが何を意味するか、知る由もなかった。



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