「ドタチン、折角だからご飯食べてく?」
「……いいのか?」
「いいよ。今日お鍋だし」
一人くらい増えたって、と奏が臨也から受け取った買い物袋を持ち上げて笑うから、俺も悪いな、と頷いた。
「しっかし……よく穴開かなかったな」
「本当にね。穴開いちゃったら流石のドタチンでも無理でしょ?」
「そりゃ無理だな」
そんなやりとりをして二人で笑った。
なんとか修理を終えた俺がリビングへ行くと、既にテーブルには鍋が設置され野菜がくつくつと煮えていた。
いつもはダイニングテーブルで食べるのだろうが、椅子が四脚しかないためか今日はローテーブルに鍋と食材が乗っており、臨也と静雄が座っていた。
「なんつーか……信じられない光景だな。色んな意味で」
色んな意味で、というのはまずこの前連れてたガキが猫耳と尻尾を生やしていたこと、そのガキを膝の上に乗せて臨也が座っていたこと、そして臨也と静雄が同じテーブルについていることだった。
どれもこれも見たことがなく、また一生見ることがないと思われていた光景だけに俺は目を丸くする他ない。
「慣れればどうってことないない!さ、座って」
そんな俺を奏は座らせて、さぁみんなどんどん食べてねとにっこり笑った。
「今日は馳走になったな。ありがとよ」
「こちらこそ。急に呼び出してごめんね」
「悪い、門田」
「いや。じゃあ俺はもう帰るから。臨也とちっこいのにも宜しくな」
静雄と奏に見送られて外に出る。2人は風呂だ。
(それにしても……異様な光景だったな)
先ほどの光景を思い出し改めてその異常さを感じた俺は、人生何があるかわかんねぇなと変に一人頷いて帰路についた。
「…………?」
奏の家から数メートル離れた路肩に、一台の車が止まっている。特に怪しいわけではないのだが、中に人が乗っているのを見て直感的に怪しいと感じた。
今は真夜中とは言えないが、それなりに遅い時間だ。こんな時間に、エンジンもつけずに人が乗っているものだろうか。旅行途中で車で寝るなら駐車場でいいだろうし、中の人間が降りる気配も出発する気配もない。
「……最近、物騒なのが続いてるからな」
どっかに張り込みしてる警察とかならいい。俺の取り越し苦労で済む。
どうかそうでありますようにと願いながら、後で奏にも気を付けるよう連絡するかと一つ決め事をして、俺はその車の横を通り過ぎた。