子猫との日常 | ナノ


静雄とイザにゃんと買い物をした帰りに、見慣れた姿を見つけた。
どうしようかな、話しかけようかなぁ……。いや、あいつはいいんだ問題は連れの方。


「あーッ!空谷さんじゃないっすか!」

「あ、ホントだ。久しぶり奏さん」


悩んでる内に見つかってしまった……。ま、いいか。バレなきゃ。


「よう、静雄も一緒か」

「や、ドタチン。ウォーカー君も絵理華ちゃんも久しぶりだね」


ワゴンに寄りかかって話をしていた3人に簡単に挨拶をする。

ドタチンは私の高校時代の同級生だ。ウォーカー君と絵理華ちゃんは卒業した後にできたドタチンのお友達で、まぁ大抵一緒にいる。あ、ワゴンの持ち主の渡草君も忘れてない。


「ちわ」

「渡草君……このワゴン、えっと……イメチェン?」

「……聞かないでください」


ワゴンのドアに何とも可愛らしい美少女が描かれていてびっくりした。その時静雄が視線を泳がせたのを私は知らない。


「ああ、奏はこれ見るの初めてか」

「ていうか門田さん!この美少女を語るのもいいっすけど、それどころじゃないっすよ!ほら!」

「わー可愛い!」


私の後ろに隠れていたイザにゃんを見つけて、ウォーカー君と絵理華ちゃんが興味深そうに覗き込んだ。


「お前、弟とか居たっけ?」

「違うの!これは親戚の子で、」

「は?何言ってんだ?」


予想外にその言葉を発したのは静雄で。うわぁなんて天然さん。


「んな訳ねぇだ「あれー?最初にそう説明してなかったっけ?この子私の親戚の子だって!ねぇ!」


私の必死さに気圧されたのか、静雄は「……あぁ、そうだったな」と少し狼狽え気味に返した。よし、いい子。


「それにしても可愛いねぇ。ん?なんかどっかで見たような……誰かに似てるってよく言われない?」


絵理華ちゃん鋭い……っ!
私はそんなことないよ、と手をぶんぶん振りながら笑った。どうしよう。思った以上にいっぱいいっぱいだ。


「ふーん。あ、名前はなんて言うんすか?」

「は、え……名前?」


……困った。これは言っていいのか?いやでもイザにゃんなんて言ったら絶対不審がるよなぁ……。
あ、でもこの2人だからこそ通じるかも?


「い、イザにゃん……」

「「イザにゃん?」」


2人が声を揃えて首を傾げた。や、やっぱりダメだったかな……ていうか静雄も何か言ってよ!
私の視線に気付いたのか、静雄は口を開いた。


「俺はチビかチビネコって呼んでる」

「「チビネコぉ?」」


あぁ……静雄に頼った私がバカでした。この天然にまともなフォローを期待した私がバカだったよ!
せめてチビで止まってくれればちっちゃいからねーで済んだのに!ネコって言っちゃったもの!


「あー!そっか、この子イザイザに似てるんだよ!」

「ふむぅ、言われてみればそんな気も……」

「んで、にゃんとネコと来ればきっとこの子は猫耳ショタっ子に違いないよ。猫の擬人化でも人間の突然変異でも何でもいいから」

「相変わらず狩沢さんはショタっ子美男子に関して反応いいっすよねぇ。てことはこの子は臨也さんに猫耳生えたってとこっすか?あれ?でもこの前静雄さんと喧嘩してましたよ?」


私と静雄がびきりと固まる。なんでこの人たちこんな妄想力すごいの!?ほとんど正解だよ最後以外は!

絵理華ちゃんとウォーカー君は面白そうににやにやしている。あれ、なんか手がうずうずしてない?


「ってことはー。その帽子の下には隠された猫耳があるはずだよね」

「いや、無い、無いから!」

「百聞は一見に如かず、っすよ空谷さん!」


あああダメダメ私がイザにゃんを抱き上げるけど悪の手は関係なしに迫ってくる。帽子を取られたら終わりだ!

帽子に手が触れるか触れないかという距離で、私の腕の中からイザにゃんが居なくなった。


「静雄……」


後ろを見るとイザにゃんを抱き抱える静雄。私よりも20センチ以上高い静雄に抱かれたら流石に手は簡単には届かない。

ほっと息をつくと、今まで無言だったドタチンが絵理華ちゃんとウォーカー君の襟首を掴んだ。


「お前ら、いい加減にしろ。怖がってるだろ」

「えー……」

「えー、じゃない。子供相手にムキになるな」


2人は渋々引き下がると、また二次元の話を始めた。この人たちの精神はホント尊敬する所がある。

2人が盛り上がってワゴンの中に入っていったのを見て、ドタチンが苦笑しながら言った。


「悪いな」

「う、ううん。こっちこそありがとう……」

「静雄が手を出したからな……。じゃなかったら俺も助け船出さなかったぞ。……何か訳ありか?」


ドタチンはドタチンで鋭い。でもあの2人よりはずっと気が楽だ。
私は話すべきかどうか静雄と目を合わせた。そんな私たちを見てドタチンがため息をつく。


「ま、深くは聞かねぇよ。ただあんま変なことに首突っ込み過ぎるなよ。静雄はともかく、お前は一般人なんだから」

「うん。ありがと。でも静雄も一般人だよ」

「そういう意味じゃなかったんだが……悪い。静雄もすまん」

「ん?あぁ、別に気にしてねぇよ」


静雄の顔が少し赤いことに気付いて、勝手に勘違いしてフォローした私も何だか恥ずかしくなって。……中学生か私は。

それを誤魔化すように私はイザにゃんの方を向いた。


「あ、この人はね、ドタチン!私と静雄の友達」

「おい、その名前で紹介するのかよ。てかお前もその名前で呼ぶの止めろ」

「だって臨也経由で紹介されたんだもん。最初からドタチンはドタチンだよ」

「そうかよ……」


諦めたようにため息をついてドタチンはイザにゃんを見た。


「俺は門田京平だ。京平でも、ドタチンでも好きに呼べばいい」

「ど、たちん」

「……やっぱそっちか」


がっくりと肩を落とすドタチンが可笑しくて笑ってしまった。イザにゃんは名前を呼ぶと静雄にしがみついて顔を隠してしまった。


「ごめんごめん。この子人見知りするから」

「いや、構わねぇよ」

「門田さーん!そろそろ露西亞寿司のタイムセールが始まるっすよー!」


ワゴンの窓からウォーカー君がひょっこりと顔を出してドタチンを呼んだ。ドタチンはわかった、と返事をして私たちの方を向く。


「じゃ、またな」

「うん。ほらイザにゃん、ばいばーいって」

「ばいばい」

「ははっ……」


ドタチンはまたすぐに顔を隠してしまったイザにゃんに苦笑しながらワゴンへ向かった。その時静雄に小声で何か言ってたけど私には聞こえなくて、静雄がそれに頷くのを見ると軽く静雄の胸を叩いてワゴンに乗り込んだ。

やっぱドタチンかっこいいなぁ……。自慢の友達だ。

走りだしたワゴンの窓の左右それぞれからウォーカー君と絵理華ちゃんが顔を出して手を振った。


「私の名前は絵理華だからねー!またねーイザにゃん!」

「俺はウォーカーっす!」


危ないなぁと思いながら手を振って見送った。

……あぁ、なんだか今の数十分ですごく疲れたなぁ。


「私たちも帰ろ。あ、イザにゃん下ろしていいよ。私抱くから」

「いや、いい」

「え、でも重くない?じゃあ買い物の荷物持つよ」

「いいから。それより、腹減った」


すたすたと歩きだした静雄を慌てて追い掛ける。こういう時は大抵照れ隠しだ。
たぶん、イザにゃんが自分にしがみついてきたことが嬉しかったんだろうなぁ。絶対心の中では可愛いって思ってるよ。
それを隠そうとする静雄も静雄で可愛いんだけど。

静雄の歩調はいつの間にかゆっくりになっていて、私に合わせてくれてて。
そんな静雄の優しさが大好きだなって思って、今日は一緒に寝てもいいかな、なんて思った。






(新たな出会いがありました)




(ただいまー)
(おかえり!奏もにゃんこも居なくて寂しかったよだから一緒にお風呂入ろ(風呂場で死にたいらしいな?)
(……嘘に決まってるじゃない)



[ back to top ]




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -