臨也の荷物はその日の夜に送られてきた。……なんて用意がいいんでしょうか。
「どうせ波江さんにやらせたんでしょ」
「そうだけど?」
ポリポリとピーナッツを頬張りながら当然のように頷く臨也にため息をつく。ちなみに静雄はお風呂です。
イザにゃんに、あーんとピーナッツを食べさせてから、臨也はそういやさ、と口を開いた。
「明日から俺がこの子の面倒見るよ」
「え?」
「新羅のとこにずっと預ける訳にはいかないでしょ?新羅だって休みの日でも急患が来るかもしれないし。俺の仕事はそこんとこ割と安定してるし、家空けると言えば散策する時ぐらいだから連れて行けば問題ないよ」
相変わらずよく回る口だ。
でも、まあ……自宅で面倒見れるならそれに越したことは無い。イザにゃんも臨也には慣れてきたみたいだし、大丈夫かな。
「じゃあ、明日からお願い」
「了解」
その時私は気付けなかった。イザにゃんが私に少し擦り寄ってきたことと、そんなイザにゃんを見て臨也が怪しく笑ったことに。
「いってらっしゃーい」
「いってきます。イザにゃんも、いってくるね」
「いってらっしゃい……」
あれ?と私は首を傾げる。なんだか元気が無い。風邪かと思い額に手を当てたけど熱は無いようだ。
不意に、静雄が口を開いた。
「てめぇ、こいつに何か変なことすんなよ」
静雄はバカだけど、臨也のことに関しては勘が鋭い。
ってことはなんだ、臨也はイザにゃんに何か変なことしようとしてるってことか。
「……やっぱ新羅のとこ連れてこうか」
「えーなんで?別になにもしないって!大丈夫大丈夫」
ほら、仕事遅れるよ!と半ば強引に家を出された。やっぱり静雄は浮かない顔だ。
「なるべく早く帰るようにしよう……」
「俺もそうする」
お互いにげんなりしながら、私たちはそれぞれの仕事場へ向かった。
「さて……」
奏と静雄を強制的に送り出した後、臨也はいつも通りににっこりとイザにゃんに笑いかけた。
「俺は仕事があるから、君は一人で遊んでてくれる?あぁ、うるさくしないなら俺の部屋に居てもいいよ」
しかしイザにゃんは怯えたように臨也を見上げるばかりで、返事も頷きもしない。
臨也は小さく笑うと、小さなイザにゃんに視線を合わせる為にしゃがんだ。
「君さぁ、俺のこと嫌い?」
「……………」
イザにゃんは頷かなかった。頷かない代わりに、首を振ることもしなかった。
そんなイザにゃんを見て臨也は面白そうに目を細めると、ぽんぽんと頭を軽く撫でてから自分の部屋へ行ってしまった。
「っ、かなで、しずお……」
小さく呟かれた言葉は誰に聞かれることもなくその場に落ちて消えていった。